白の神殿(13)

 体は石みたいに固くて重かった。そこらじゅう痛いし、苦しい。

 何も聞こえない。

 あれ、でもだんだん聞こえてきた。

———……!

 まだ、聞こえない。誰かが叫んでいるのかな。

 違う。泣いているんだ。

———……ン、フィン!

 ああ、誰かが僕の名前を呼んでいる。

「フィン!」

 ロゼの声だ。

「フィン! お願いっ、目を……開けて」

「フィン!」

セタもいる?

 でも、息がし辛いんだ。

「ロゼ、苦しいよお」

フィンの目に飛び込んだのは、若葉色の瞳。涙でゆらゆらとして綺麗だ。

「っ、フィン? フィン、フィン!」

 ロゼはまた力いっぱい抱きしめた。苦しくて、でも暖かい。

「フィン」

「ランディ!」

 まだ泣いて離さないロゼを少し離して、フィンはランディを見た。片目を失ったといいうのに、彼は気丈でむしろ生き生きとしているようだった。

「良かった、もうダメかと思ったぞ」

「え?」

「さっきまでお前、息が止まっていたんだ。顔まで真っ青になって、冷たくなって」

 フィンはシャルルと会った場所を思い出した。やっぱりあそこは——。

 そこで、フィンははっとする。

「セタは? さっきセタの声が聞こえたんだよ?」

 どうしていないんだ。意識が朦朧としていたけれど、確かにセタの声がしたんだ。見渡しても、あの小麦色の髪の姿がどこにもない。

まさか——。

 ランディは少し困ったように目をそらし、ロゼは口を噤んだ。

「セタ、セタは? ねえ!」

 フィンはロゼに問いかけ周りを見回す。

「フィン」

「え?」

 ロゼは小さく笑う。そして神殿の方を指差した。

 神殿の柱で座り込む、びしょりと濡れた一つの影。セタだとすぐに分かった。フィンはもつれながらも歩いた。ロゼはその後をついていく。

「セタ!」

「………」

返事がない。フィンは顔を覗き込んだ。

「セタ?」

「———っ」

わずかに肩が揺れた。  良かった、生きている!

「セタ!」

 どうして、顔を上げてくれないのだろう? 痛いところがあるんだ。

 そう思い、フィンはセタの前に座った。

「セタ」

 ロゼがフィンの肩を抱き、セタの手を握った。

 すると突然、フィンの視界は真っ暗になった。セタの顔が見えないじゃないか。

「っ、ばかやろう! もう二度とあんな真似すんなっ」

セタはロゼとフィンを抱きしめた。震える声で、絞り出す。

 泣いている。ロゼよりもずっと強く、強く抱きしめた。

「——っ、めん、なさい、ごめん、なさい」

 泣いて謝っているのに、悲しくない。涙が止まらない。

 夜明けが訪れた。水平線の向こうから差し込む光の筋は凪いだ海に広がる。

 白い神殿に光が柔らかく溶け込み、包み込む。

 まるでそれは終わりを告げる言葉のような光だった。

 


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