友の言葉(6)
体が軽い。
まるで羽が生えて空を飛んでいるみたい。
でも風がないし、夜みたいに真っ暗だ。
上も下も、右も左も真っ暗だ。
空かと思ったら、どうやらここは水の中のようだ。
ああ、そうか。今日は海に入ったからだ。頭から足まで全身に浸って、ゆっくり体を押す波に体を乗っけて。
深くまで潜るなってセタに言われたけれど、息をいっぱい吸えばなんてことはない。
二人は知っているのかな?
海の中から見た空は、すごくきれいだ。
一面の青に、くるくる回って上っていく泡。
そして白いカーテンみたいなものがかかっている。
口から出た泡が星みたいで、キレイだった。
二人に話したかったけれど、疲れて寝ちゃったんだ。
ふ、と目を開けるとそこには、廃屋の屋根とパラパラと降ってきそうな星があった。
いくら遠くのものが見えるといっても星だけはどうしても違った。よく見ようと目を凝らしてしまうとまぶしすぎて涙が出てくる。
真っ黒になったたき火の横にはセタがいた。いつもセタは目を開ければすぐ近くにいる。だからいない時は何かあったのかって思う。ロゼとけんかしたのかな? 二人がけんかする時、二人は絶対に謝らない。だから僕がいないと本当にダメなんだ。
でも本当はすごく仲がいい。ロゼが泣いている時はいつもセタがそばにいるからね。
セタは刀を縦に抱えて目をつむっている。
「眠れないのか?」
セタは目をつむったままなのにそんなことをきく。
「ううん、目が覚めた」
「そうか」
「変な夢を見たんだ。海の中で揺られている夢」
フィンは横で眠っているロゼを起こさないように体を起こして、小声で話した。
「セタはどんな夢みるの?」
「さあな、最近全く見てないよ。怖い夢も楽しい夢も」
セタの若葉色の目がすっと細められる。
「ただ、昔。つってもフィンが生まれる前に見た夢が一番怖かったな。今でもよく覚えてるよ」
いつものセタと違ってちょっとしゃべりがゆっくりだ。もしかしたら眠いのかな。
「たった独りで道を歩いてるんだ。周りには何もない」
「どうしてそれが怖いのさ」
「怖いさ」
セタがおどけたように言うものだから、余計に分からなくなった。
「独りなんだ」
セタは繰り返し「独りだ」と言う。セタがあまりに悲しそうな顔をするものだから、フィンは「ねえ」と話を変えようとした。
その時だった。
セタの右手が刀に伸びた。
「二人とも伏せろ」
セタがフィンの頭を押さえてしゃがみ、上からカチャリと金属音を立ててすぐに銃声が鳴り響いた。
ロゼが窓の隙間から撃ったのだ。狙ったのは砂浜の遠くの方。
「おい、危ないだろ。もう少しで風通しのいい体になるところだった」
「奴らだ」
「分かってるよ」
まるで二人の言葉を合図にしたかのように真っ黒な影みたいなものがぞろぞろと茂みからやってきた。彼らからする金属がこすれる音が、よくないものを運んできたのは間違いない。
「フィンはロゼのそばにいろ」
セタは迷わずに刀を抜いた。
———カチ
指が金属に触れて、ゆっくりと力を入れる音。ロゼの銃と同じ音。
波がザッと引いていく音がする。そして、銃声がまた響く。
次に聞こえたのはロゼの叫び声。
「ロゼ!」
「くそっ」
セタは二人を抱えて廃屋から飛び出した。
ひゅう、と空を裂く音と主に火炎弾が廃屋の屋根に投げ込まれたのを、セタの目ははっきりと捉えていた。
一瞬にして爆発音と主に廃屋は熱と爆炎に包まれた。
最悪の夜が始まろうとしていた。
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