友の言葉(4)


——白の神殿?

——そう、この世界で最も美しいと言われる神殿だ。巨大なサンゴ礁の上に造られた、海に浮かぶ白亜の建造物さ。今はバレッドになっているそうだよ。百年も前に南部の地方で伝染病が蔓延した時、感染者の全ては生きていても死んでいても隔離され、火であぶられて骨の髄まで焼かれたそうだ。しかし、とある集落の数十人の子供たちが忽然と姿を消したんだ。彼らは感染を疑われていた。大人たちに追われながらも神殿に辿り着き、その場所で生き長らえたっていう話さ。

——作り話だろう。どう考えても逃げ切れるわけがない。ましてや子どもだ。

——そう。まさにそれが奇跡なんだ。その神殿には、きっと身を隠せるほど、ステキな構造だったんじゃないかなって思うんだ。だってそうだろう? 海に浮かぶ神殿に、子どもたちはどうやって辿り着いたのか? 海岸から十数キロあるって言われている神殿に、まさか泳いでは行かないからね。

——その神殿だって本当にあるかわかったもんじゃないだろう?

——そうかもしれない。だけど行きたいんだ、その場所へ。



 海岸の町、ヴァイス。

 古き言葉で「白」を現すこの町は、町ではなかった。

 かつて北に空襲に遭い、その町の全ては灰と化しており、住人はほとんどいなかった。白く続く砂浜と澄んだ青の海にも人の気配はまるでない。

 海岸に辿り着いても海に浮かぶ神殿なんて、すぐに見えるわけもなかった。やはりあれはおとぎ話なのだろう。

 ザティーレを出てから東南に進み、七日が経過していた。

 ヴァイス、ザティーレより北西にある砂漠都市。奴らは現在そこへ集結していることがわかった。真昼に流れる民放ラジオのクラシック音楽を使った、暗号による一斉通知だ。

 解読方法を数年前より変えていないとは、我が祖国にしては随分と仕事がお粗末である。三日と待たず、奴らと鉢合わせすることになるだろう。しかしそれもフェイクである可能性も捨てきれないが、罠であったとしても迎え撃つのみだ。

 戦火の名残り、海岸の一帯はどこまでも続く高い有刺鉄線が張り巡らされていた。

 その内側でセタとロゼは言葉を交わすことなく、ザラザラとした砂浜を踏みしめて歩いた。指にかかる引き金も、刀剣の重さも、知っている。

 戦い死ぬ、と誇りを掲げた兵士の感覚に戻ろうとした、その時だ。

「セタ、ロゼ!」

「————っ」

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