友の言葉(3)
乾いた目をゆっくりと開ければ、雑に作られた板張りの天井。自分は粗末なベッドの上。ここはどこなのか、今自分はどういう状況なのか——。全く分からない。
ランディは記憶の糸を辿ってゆっくりと思い出す。暗い森の中を歩いて、見知らぬ町に出た。いや、それよりもその前が重要だ。嵐に巻き込まれ、そして——。
ああ、そうだった。
岩崩れに遭い同士が死に、白い子どもに会ったのだ。
変な興奮に襲われて、汗がどっと噴き出た。こうしちゃいられない、と起き上がろうとした。が、それはできなかった。がくりとバランスを崩して、ランディはまたベッドの中に納まった。細かいほこりが舞い上がる。
左腕がない。
力が入らないのではなくて、体の一部がないから起き上がることができなかったのだ。
右手で顔を覆ってから、左腕の付け根に手を伸ばす。肩より下が骨ごとない。丁寧に包帯が巻かれていて、血もどうやら止まっている。
暗い森を歩いた時、白い子どもとセタンダ・マクリールの発見を報告せねばという使命感は、頭の中には全くと言っていいほどなかった。ただ恐怖に襲われた。死の恐怖だ。
そこまでがランディの記憶だった。
「気が付いたのか?」
しゃがれた声がランディの傍らに近づいてきた。初めからこの部屋にいたのか、それとも今入ってきたのか、分からないほど静かな足音だ。
祖国の兵士ではない。汚れた白衣を着た老人だ。腰が曲がっているせいか、随分と歳をとっているように思えた。
「お前さん、よく生きていられたの。病原菌だらけのところにいたもんだから、死にたがりかと思ったが——。傷口から菌が入り込んで化膿しとった」
顔に刻まれたしわがぐっとランディに近づいた。顔と同様にしわだらけの手がランディの左腕だった場所をとんとんと叩く。痛みはない。
「一応だが痛み止めをうっておいた。ひどくうなされていたんでな」
「ここはどこだ」
「海岸の町、ヴァイスだ。戦争から逃げてきた人間が集まる雑多の場所。昔は有名な観光地だったが。今は何もない、塩害で錆びた町さ」
「あんたが、ここまで俺を?」
「まさか。下にいるガキ共さ。おつかいを頼んだらあんたを拾ってきたんでな」
「俺は、助けられたのか?」
全て敵の善意によって助けられたのだ。ランディは腹の底から湧き上がる熱に息を振るわせた。
「どうした? 痛むのか?」
生きている、生きている!
また息を吸えたと、目に映る景色は美いと、体は歓喜している。
これを皮肉と言わず、何だと言うんだ。この感情はなんだ?
ランディはベッドの上で呻いた。
火の海の中、敵陣へ機関銃を引っ張っても恐れなど微塵もしなかったのに、失った左手の代わりに、自由に生きる心を知ってしまった。
何かをなさねば——。
上官に命じられる任務ではない、何かを。
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