白の贈り物(3)

 癒すはずの風呂でなぜか疲れを抱えてしまったセタ。

 部屋ではロゼが銃の手入れをしていた。すっかり油臭くなっている。

「お前、そういうのは風呂前にやれよ。手がべたべたになるだろ?」

「落ち着いてできるのは今ぐらいしかないからな」

 愛想の欠片もない仕事女のロゼは濡れた髪でテキパキと作業している。

「風邪引いちゃうよ、ロゼ。僕が乾かしてあげる」

 フィンはタオルを持ってガシガシとロゼの頭を拭くのだが、どうにもうまくいかずロゼは頭をグラグラと揺らされてしまうだけである。

「フィン、危ないから後で」

「えー、風邪引くよ」

「フィンもだろ?」

 二人の妙なやり取りを見かね、セタはフィンからタオルを取り、ロゼからは銃を取り上げる。

「ロゼはフィンの髪やれ。お前のは俺がやる」

 聞くなり、ロゼは不服そうな顔をひっこめ、フィンは素直に喜んだ。ベッドに三人乗る形で髪の毛を乾かしあう。

「じゃあ、セタのは僕が後でやってあげよう」

「ありがとよ」

 ロゼは以外にも素直にされるがまま、頭をセタに預けている。

「やっぱり仲いいよね、二人は。ね、ロゼ」

「何の話だ?」

 風呂であまりにもしつこいフィンはここでも語ろうとするが、当のロゼはよくわかっていない。

「さっきセタは一緒にお風呂は嫌だって言ってたんだよ。でもロゼはいいよね?」

「その話はさっき終わったろ」

「えー、三人でお風呂入りたいよ」

 いつもなら怒るはずのロゼだが、何故か今日は大人しい。怒りがたまりにたまって何も言えない心境なのだろうか。

「ちょっと、ロゼさん? あれ俺じゃなくてフィンが言い始めたことだからな、誤解すんなよ」

「………」

ロゼに弁解をするも反応はない。乾かす手を止め覗き込むと、ロゼはすやすやと眠っていた。

「はあ」

 これじゃ子ども二人抱えているみたいだ。セタは深くため息をついた。ロゼはセタにすっかり体重を預け、すうすうと寝息をかいている。

「ったく。フィン、ロゼ動かすから———。って」

 フィンもむにゃむにゃ、とロゼのお腹の上で寝てしまっている。フィンの下にロゼ。ロゼの下にセタがいる、いわゆるドミノ状態だ。確かに髪の毛触られると眠くなるというのは聞いたことがあるが、二人そろってやられるとは。しかもものすごく気持ちよさそうに寝てしまっているから、起こせない。

 仕方ない、とセタは三人のままベッドの上で布団をかけて眠った。



 今、何時だ。

 ロゼはベッドの中で目を覚ました。ただ真っ暗だった。おかしい、さっきまで明るかったのに。

「ん?」

 自分の腕の中にはすやすやと眠るフィン。

 ちょっと待て。となると私の腰に回っている手は何だ。

 ロゼは恐る恐る寝返りをうった。

「————っ」

 セタだ。

 それも肩に温かい息がかかるくらい近い。タバコの臭いが微かに香る。

 それよりもロゼの頭は混乱していた。

 何故一つのベッドで三人寝ているのだ!

 何故フィンを間に挟まず私が真ん中なのだ!

 何故コイツが私の腰に手を回して、すやすや寝ているんだ!

 何故!

「うるせえなあ」

「セタ!」

「ぼそぼそうるさい」

「じゃなくて、なんだこの並びは!」

 セタは眠たそうにまぶたをゆっくりと開ける。

「いいだろ別に。お前の頭乾かしたら寝ちまったんだから」

「起こせ!」

「フィンも寝たから動かせなかったんだよ」

「離れろ! 息がかかる!」

 ロゼは羞恥心のあまりもがくが、セタは「フィンが起きる」と脅しをかけた。

「あー、腹減った。お前が寝たせいで夕食食いそこねたわー」

「ぐっ」

 くそ、言い返せない。

 すると、もぞもぞとセタは枕をずらして、何とロゼの首に顔をうずめた。

「な、にしてんだ! お前は!」

 とうとうしびれを切らしたロゼは大声を出し、懐にあった銃をセタに向けた。馬乗りになってこめかみにぐりぐりと、銃口を押し付ける。

「いやー、お前の体いいにおいすんなーと思ってさ」

 あっけらかんと悪びれもなく答えるセタに、ロゼは拳銃の引き金に指をかけた。

「石鹸のにおいだ、それは!」

「つーか、大声出すな。フィン起きるだろ」

「もう、起きてるよー」

 目をこすりながらフィンは笑う。

「ロゼはセタのこと大好きだね!」

「……ちっがう!」

 赤面して否定するロゼに、セタは抱腹絶倒し、フィンはきょとんと首をかしげた。


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