第15話「夜」


「しかし、MSで気に入られようってったって、簡単じゃないからなあ……」


店長は太い腕で頭を掻きながら、ワタナベに言う。


「承知の上です。それと……、急かしてるわけではありませんが、副店長の名刺を頂けると……」


「そうだね……、正式に副店長に迎えるか……。ところで息子は本当に始末したのかい?」


「ええ、あそこに死体があります」


ワタナベは裏の部屋を出て指をさそうとする。しかし、そこにはブラザーの死体はなくなっていた。


──10分前


「ハァ……ハァ……、お兄さんッ!! なに倒れているんですか!? 絶対勝つって言ったじゃないですか!!」


ブラザーのもとを、ディグが訪れていた。


ディグの必死な叫びを、辛うじて残っている意識で応える。


「悪いな…………、小堀……。負けちまったわ…………」


「逃げましょう!! そうすればリベンジだってなんだってできますよ!!」


「そりゃあ無理な話だ……。俺はそろそろ、さよならだ……」


「お兄さんッ!! しっかりしてくださいよ!!」


ディグはぐったりしたブラザーを背負う。


そうして、そそくさと店を出た。


───そして現在


「ないッ!! さっきまであった死体がッ!!」


ワタナベは乱心状態だ。


店長はそれを見て、不機嫌な表情を浮かべる。


「死体がねェんじゃあ……、副店長の座はお預けだな……」


「そ、そんなッ!! クソクソ……! 確実に動ける身体じゃなかった……、誰か……誰かが連れ去りやがったな……ッ!!」


そこでワタナベはハッとした。


あいつしかいない。


「アイツだ……ッ!! 小堀ィィイイイイイッ!!!!」


「小堀? アイツが死体を?」


「間違いないッ!! ……死体を、"ナイトキーパー"に回収させます……いいですね?」


ナイトキーパー、と聞いて、店長の目が変わる。


「本気か?」


「この際仕方がありませんッ、小堀を始末するッ!!」


──────


7/25 午前10時


都内某所


夜が明けて数時間経っているというのに、あたりは闇に包まれている。


「ふう……これで任務は完了ですね」


闇の中に、黒いスーツを着た男が2人で歩いている。


「ああ……だが嫌な連絡が入っているな」


男のひとりは携帯の画面をもう1人に見せる。


画面には「"007"さいたま支部」と表示されている。


「ああ〜〜、あのババアはいつまで俺らをこき使うつもりなんだよ……」


「まあまあ"ウエダ"さん……、俺たちも一応従業員ですから……、夜勤ですけど」


「カワハラヅカ……お前はそんなんだからいいように使われる。その返り血はなんでだっけなあ」


ウエダと呼ばれるその男は、カワハラヅカのスーツに飛び散っている血を指さす。


「あー、騙されて殺されかけました」


「そういうところだよ……。俺たちも探偵業と暗殺業と組織の仕事を兼任するのは無理だし」


「とりあえず今は折り返してくださいよ。着信は20分前でしょ?」


「わかったよ…」


ウエダは渋々電話をかけ直す。


すると相手はワンコールもしないうちに出た。


「ウエダァァァァァ──ッ!!」


とてつもない剣幕で電話に出たのは、ワタナベだ。


「な、なんだよ……お前か。何の用だ」


「"小堀"への暗殺任務を命令するッ!!! 今すぐ店に戻れッ!!」


それだけ言ってワタナベは電話を切った。


「な、なんなんだこいつ……」


「すごい剣幕でしたね……、使いますか? 僕の能力」


「あー気持ち悪くて嫌なんだがな……、使わせてもらう」


そう言って2人は手を繋ぐ。


するとカワハラヅカは暗闇へ沈んでいく。


それにつられてウエダも闇へ消えていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る