第14話「副店長の戦い その③」
アーマーが爆発したあと、ブラザーはアーマーであったもののところへ駆け寄った。
ワタナベの残骸はない。恐らく木っ端微塵になったのだろう。
ブラザーはワタナベと初めて会った時のことを覚えていた。
彼が7歳のころだったか。
ジジイに子供ができたと聞いた時は驚いたが、クローン技術の応用と知り、妙に納得した。
しかしその子供はクローンとは思えぬほど人間味が強く、自然と人間として扱った。
子供には行き場がなかった。当たり前のように戸籍はなく、存在証明が無い。
そのため、ブラザーが007に勧誘した。
しかししばらくは別の支部に居り、関わりはなくなっていった。
再会したのは2年前だった。
「死体くらいは拝みたかったぜ……、その勝利に貪欲な性格は間違いなくジジイの血をひいていた……」
その時、辺りから粉のようなものがうかびあがった。
爆発による炎からの光の反射で、その粒が光っているようにも見えた。
「まるでお前の魂みたいだな……」
その"魂"のようなものは、ブラザーの後ろへ自然と集まっていく。
ブラザーはゆっくり目をつぶり、らしくもなく感傷に浸る。
魂は次第に人の形と成る。
その魂はあっという間にワタナベの姿に戻り、純粋なナイフでブラザーの体を後ろから突き刺す。
「…………!!」
ナイフは引き抜かれない。
強く、深くブラザーの体に突き刺さる。
「な、なぜ…………ワタナベ…………」
「ぬかったな……、俺が"無能力者"だと…………」
「ま、まさか…………お前は…………」
「そうだよ……、行ったんだ。"彼岸"へ」
ナイフはやっと引き抜かれる。
ブラザーは崩れ落ち、目をゆっくり瞑る。
目からは血の色をした涙が流れていた。
「な、なんの能力だ……」
「死にゆくものに教えるものはない……」
次第に意識が失われていく。
"副店長の戦い"
勝者は"コモン"ことワタナベだった。
────
プルルルと電話がなった。
いつの間にかうたた寝をしていたホンダはあわてて通信機器を取る。
画面には「ミスター・ブラザー」と表示されていた。
彼は戦いに勝利したことを悟り、少しぼうっとする。
数秒後、電話を取った。
しかし、電話の主はブラザーではなく、ワタナベだった。
「ホンダ……、俺はブラザーを殺し、副店長になった……」
ホンダは一瞬、思考が停止した。
年老いてくると、混乱に弱くなる。
「そうか……、わしはどちらも応援しとらん。親孝行として、仲良くしてくれりゃあいいものをなあ……」
ワタナベは一瞬黙り、再び口を開いた。
「お前が親だと? ふざけるな。俺はいずれお前も殺す。首を洗って待っておけ……」
プツリと電話が切れた。
7/25 午前9時
店長が通勤してくる時間だ。
氷や銃弾、血液と死体のある店内からは、惨たらしい戦闘が行われたことを想像するのは簡単だった。
「お前が生きているということは、そういうことだな」
「ええ……、あなたの息子、殺しました。」
「そうか……。じゃあお前が副店長となるわけだ。」
「光栄です」
「副店長になったということは……、"MSホールディングス"……、本部にいけるな」
「ええ……、はっきりいってしまうと……、それが目的です」
「まあそうだろう……。残る危険因子は小堀か。あいつはエスエーのエージェントとなってから異様に能力が落ちた。ほうっておいても平気だろう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます