第13話「副店長の戦い その②」
自爆装置を眺めながら、ホンダは過去を思い出す。
22年前
当時ホンダは52歳。
その中年の男の元へ舞い降りた1件の「戦闘用クローン」の依頼。
それが新たな生命体を生み出すきっかけとなった。
彼はまず初めに、ただのクローンを作り出すことから始めた。
匿名で精子バンクに送った男の遺伝子と、完全に人工的に作られた卵子。
そこから第1号クローンが生まれた。
それが今のワタナベである。
そしてワタナベを生み出した時、ホンダはこの研究の倫理的欠如に気がついた。
今になっては遅すぎたのだ。
人工的に作られた生命体など、存在しては行けなかった。
ホンダは"禁忌"に触れた。
禁忌はかつての戦争で嫌という程知らされていたが、彼は老いていた。
彼は罪滅ぼしのようにワタナベを成長させたが、ワタナベは精巧な人間でありすぎた。
無駄な感情を持ち、己の存在意義を知るためラボを飛び出た。
その結果、現在、かつて戦争のことを調べていた少年「ブラザー」と殺し合いを始めた。
ホンダはブラザーのことも我が子のように思っていた。
初めは生意気なガキとしか思っていなかったが、彼、ブラザーの境遇が他人とは思えなかったのだ。
ブラザーとホンダの出会いは、ワタナベの誕生からさらに8年ほど遡る。
突然中学生くらいの少年がラボに来て、「戦争のことを聞かせろ」と言ってきた。
"彼岸戦争"
50年前に起こった、能力者たちの戦争。
ホンダはそんなこと子供に話せないとつっぱねたが、彼は諦めなかった。
来る日も来る日も、その戦争について尋ねてくる。どこでそんな話を知ったのか知らないが、毎回、ホンダは彼を突き放した。
最後までその戦争について詳しくは話さなかった。
が、二人の間には明確に絆が生まれていた。彼らはお互いに孤独だった。
────
「ウォーク・アウト……ッ!! てめえの身体は内部から凍る……!!」
「やめろ……。サムいじゃないか!! 今すぐそれを止めろォ───ッ!!」
ワタナベは乱心した様子で機関銃を乱射する。
「これで終わりだ……、"コモン"。死んでジジイに詫びろ……」
ブラザーの背後にナイフのようなものが浮かび上がる。氷の破片をとがらせ、ナイフのように鋭く尖らせたものだ。
「聖なる6本の刃"ナイフ・イン"……」
6本の氷のナイフは、ワタナベ目がけて飛ばされる。
全て命中した。
ワタナベは後ろへ倒れる。
その時総重量800kgのあるアーマーが、ズシンと音を立てる。
「俺はお前のこと……、嫌いじゃなかったんだけどな……」
ブラザーはそのまま店を出ようとする。
気分は良くなかった。ブラザーは副店長になんてなりたくはなかった。
だが、ワタナベとは決着をつけなくてはならない、そう感じていた。
そして、後ろで鳴っている異音に、ブラザーは気づいていなかった。
ブラザーが振り返ると、ワタナベは目をつぶったまま立ち上がっていた。
「オイオイ……どうなってんだよ……」
ブラザーはまだウォーク・アウトを解いていない。
つまり、ワタナベの体温は少なくとも氷点下。血液も凍りはじめている頃だ。
にもかかわらず、ワタナベが活動を続けている理由。それはアーマードTにあった。
しかしワタナベにもう戦闘意思があるとは思えない。
ブラザーは自爆装置の存在を思い出した。
ポケットに入っている通信機器を起動し、ホンダに連絡する。
「ジジイッ!! ワタナベは倒した……だが、アーマーだけが自立しているように見えるッ!!」
「な、なんじゃ? どういうことじゃ?」
ホンダは通信が来た時、自らの手で息子を爆破する覚悟でいたが、予想外の内容てうろたえる。
「ワタナベはもう死んでいるはずだ! だがアーマーは動いている!!」
「アーマーの暴走か! いますぐ自爆させる!」
ホンダは一瞬、ワタナベの顔を思考したが、すぐに捨て、ボタンを押す。
「自爆は15秒後! 店の外に出るんじゃ!!」
「はええよ! まあわかったッ!!」
ブラザーは外へ出る。
その時一瞬アーマーの姿が見えたが、アーマーの顔部分には先程まで見えていたワタナベの顔が見えなくなっていた。
「15秒経過じゃ……、爆発するぞ……」
その瞬間、コンビニは激しい音を立て吹き飛んだ。
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