第12話「副店長の戦い その①」


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17:00


店内には二人の男のみであった。


1人は、ここを統べる店長の息子。


1人は、"生き残りの科学者"ホンダの息子。


この戦いがどちらに軍配があがるか、誰にも予想できなかった。


「今日だな……ワタナベ……いや"コモン"。」


「そうですね……、もうはじめましょうか? その名で呼ぶならば。嫌いなんだよ、その名前、全部が」


「てめえがなんで俺に勝てると思っているか不可解なんだ……、その、ジジイの機械で俺に勝てる、本気でそう思っているのか?」


その時、ワタナベの体から機関銃が突出した。肩の部分が裏返り、その銃口はこちらを向いている。


機関銃からは数十発の銃弾が一斉に放たれたが、無論それに当たるブラザーではなかった。


「それは、思ってない。っていうことでいいんだな? "ウォーク・イン"ッ!!」


ブラザーの手から空気を凍てつかせる能力が放たれる。


狭いコンビニの店内でのウォーク・インは、その店内の温度を急激に低下させていく。


しかし、ワタナベの身体は凍らない。


「てめぇの能力の弱点はしっている……。それは持続力がない。ということだッ!!」


ワタナベの身体から、熱風が吹き出される。


「俺の身体は1秒で体温を97度まであげるッ!! "身体改造"の賜物だッ!!」


「お前みてぇな"無能力者"が、なぜ俺に盾つこうとしているのか疑問だったが……。一応策はあるってわけか……」


「お前を倒す算段はついている……。」


ワタナベの身体からは大量の汗が流れている。


「根を上げているのはお前の体じゃねぇか。俺にはダメージは与えられていないんだぞ」


「才能と人脈のある貴様にはわからないだろうが……、人間が持つ1番の強さとは、"気合"だよ……!」


それを聞き流しながら、ブラザーは出力全開で能力を放出する。


「ウォーク・インッ!!」


しかし、ワタナベの身体は凍らない。


店内の平均室温は、既に-24度であった。



静かな店内に男2人、数時間後にはどちらかは死を迎えているだろう。


男たちは冷静に、対峙していた。


「お前は異変に気づいていない……室温を見てみろ……」


少し前まで-20度よりも冷たい、冷凍庫越えレベルのはずだった室温は、既に11度を上回っていた。


「ルールブックに店内を細工するなとは書いてなかったな……?」


「なにがしたいんだ……?」


それから数秒ごとに温度が上がっていく。


30秒後には既に30度を超えた。


「なにをした……、言えッ! "ダッシュ・イン"ッ!!」


今までよりも素早い、相手に1発でも攻撃を当てる技を繰り出す。


1発命中する。しかしワタナベにダメージはない。


「この店自体が……、"電子レンジ"だよ……、1500Wの」


温度は60度を超える。


アーマーが稼働を始め、ワタナベを冷却しはじめる。


「"冷却"なら"加熱"で潰せばいい、だろう、お兄さん……!」


「俺に勝てねぇからこそ工夫を凝らしたか……。だが能力がなくたって俺はおめぇより強え……!!」



─────

ホンダは自分が開発した自己防衛システム「K─ZO」を眺めていた。


モニターには「自爆 可能」と表示されている。


アーマードTには自爆装置がついていた。


アーマードTを自爆させるということは、着用しているワタナベもろとも爆散するということだった。


そしてその事を、ブラザーも知っていた。


「もしお前が死ぬと思った時……、わしに連絡をよこせ、自爆させてやる」


ホンダはブラザーにそう忠告しておいた。


ブラザーは「勝負なんだ。押すなよ」と一言いい、そのまま帰った。


────

店内の温度は85℃。サウナと化していた。


しかしアーマードTの機能により、ワタナベの体温は通常に保たれる。


85℃の温度では、ブラザーは能力もろくに使えない。ブラザーの腕から射出される氷は、一瞬で溶けぬるま湯と化してしまう。


「俺の勝ちは確信されたな……、今死ぬか?」


アーマーからノコギリのようなものが延びる。


それは少しずつブラザーに近づいてきた。


「そんなもので俺を殺せるとでも思ったか……? "ウォーク・アウト"……!!」


ブラザーはワタナベに向けて手をかざす。


その瞬間、ワタナベの首筋がひやりとした。


そしてとてつもない勢いで鳥肌が立った。


「な、なにをした……!」


「店内……つまり身体の外部が暑いのはもうわかった……。だから変えてみるよ、冷やすところを。お前の"身体の内部"から、キンキンに冷やしてやる」

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