第11話「副店長の条件」

「はァ……はァ……あの野郎……イカれてやがる」


ワタナベはNKJMに庇われ、奇跡的に無傷で生還した。


さらに、辺りを散策すると、ひとつの"装備"があった。他のものは瓦礫でぐちゃぐちゃだが、その装備にだけは傷は全く付いていなかった。


それは、その装備の強靭さを示していた。


「"アーマードT"……、手に入れてやった……」


ワタナベは店に戻り、すぐ報告した。


「新装備を手に入れました。かなりの価値があります。」


ナカムラはそんなことは耳に入らぬ様子で、ワタナベに話した。


「副店長を決める……」


「! つ、ついにですか……。 それは誰に……?」


「副店長という地位につくからには、"力"が必要だ。立候補者を集め、勝った方が副店長だ」


「そ、それって……」


「ただし、戦闘範囲は"007中妻支部"内のみ。タイミングなどは自由だ。」


「いいですね……、そのルール」


「募集は明日……。立候補者が1人の場合はそいつのみだ」


「"勝ち"は誰が決めるんで……?」


「あるだろう。人間が戦った場合の、勝敗を決める明確な指標が」


「いいんですね……。最後に息をしている方が"勝ち"だ……。」


ワタナベは決心した。


例え誰であろうと、自分はそいつを殺し、副店長となる。


そして恐らく相手になるであろうブラザーへの対抗策もうってきた。


翌日、1枚の紙が張り出されていた。


「副店長 立候補者

ワタナベ

ナカムラ 以上」


予想通りである。


店長の息子との一騎打ちだが、容赦はしない。それも店長は理解している。


ワタナベは勝利を確信していた。


だが、それはブラザーも同じことであった。


「俺はアイツには負けねぇ……、むしろ、アイツが俺に勝てると思っていることが疑問だ……」


「お兄さん……、頑張ってくださいよ?」


「無論だ……、必ず勝つ」


ブラザーとワタナベが同時にシフトに入る次の日は1週間後の7/24。


それは"決戦"を意味していた。



────7/20


決戦の4日前。


ブラザーはソウダを取りに行くため、ラボへ向かっていた。


しかし、すぐに異変に気づいた。


ラボが見えてこない。


普段ならラボの屋根が見えてくる距離なはずだか、今日は何も見えてこない。


一抹の不安を抱えながら歩き続けると、黒焦げになった建物が見えてきた。


「オイオイ……、どうなってんだこりゃあ……」


ホンダの最新型通信機器に、連絡を入れる。


ホンダは出なかった。


しかし、同じくホンダが開発した最新型位置情報特定機能「Z.E.N.R.Y」により、ホンダの通信機器の場所は知ることが出来た。


ここからそう遠くなかった。


位置情報の場所には、小さな小屋があった。


中へはいると、ボロボロの白衣を着たホンダと、修理されたばかりのソウダがいた。


「誰にやられた……」


「"コモン"じゃよ……」


予想はしていた。


「その……アーマードTってやつが狙いか?」


「ああ……、わしのラボは、息子に全て奪われた……」


「息子じゃねぇだろ、あんなもん。そもそも血も繋がってないんだろ」


「いやぁ、わしらは家族じゃったよ……」


ブラザーは許せなかった。


ワタナベはホンダが作り出した「人工卵子」と精子バンクから取り寄せた精子で作りだした、「人工生命体」だったのだ。


その後、命を保護する役目をもったホンダは、普通の人間として生きれるよう「コモン」と名付けた。


本人にはそれが気に入らなかったのだろう。


恩を仇で返すかたちとなった。


「4日後、俺はお前の息子とやら……、"コモン"、ワタナベを殺す。いいな?」


「勝手にしな……」


そういうホンダの顔は、どこか悲しげであった。


「アンタは、本当の息子には家出をされたんだったか」


ブラザーのその発言はしんみりとした表情のホンダを、さらに曇らせた。


「いたさ……。だが、もう会わないじゃろう。今は……コモン、そして……お前が息子同然じゃよ……」

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