第38話 勇者候補者の失踪

勇者候補者が失踪した。


この事態を受け、王城に関係者が集められた。

集められたのは謁見の間ではなく会議室であり、公的な審問ではなく実務的な対策会議という意味合いだった。


そこには国王自らが参加していた。


「今回の勇者候補失踪の件、及び第一騎士団の敗走については報告を受けている。

騎士団の件については、関係者の回復を待って直接話を聞こうと考えていたが、このような事になって残念だ。」


国王の口調は重苦しいものであった。


「余が報告を受けた内容について再度確認をする。真実を申せ、間違いがあるならこの場で正せば罪に問わない。」


国王は公と私で口調が異なる。

仲間うちでに発言では一人称は俺であるが、公の場では余となる。

この会議の席は国王として対峙しているとみんなに理解させるためであった。


「この場では敗走の件は罪に問わない。

あれは不運が重なったと理解している。

もっとも、ワーウルフの子供を攫ってきたことは褒められたものではないないがな。」


国王がそういうと、第一騎士団付の作戦参謀が答えた。


「元々は私が事態の解決のため発案したものです。

村を制圧して交渉をしようとした結果、抵抗にあい結果的に子供のみが残ってしまいました。

責めは私に」


「この場であの敗走の罪は問わないと言ったはずだ。

子供の捕虜の件は必要だから挟んだだけだ。

さて騎士団長よ。

勇者一行に捕虜の子供を殺させようとした。間違いないな。」


王がそう問いかけると、騎士団長は


「は、そのとおりであります。

私は、勇者に早く一人前の戦士になってほしい思いまして、

他意はありません。」


「わかった。嫌がる勇者一行の態度に憤慨した部下の兵が暴走して、子供達に酒を撒いて火を付けようとした。

結果、火種を勇者一行の一人に腕ごと切り落とされた。それで間違いないか?」


「は、そのとおりであります。

しかし、兵は私の意を汲み勇者に決断をさせるために演技をしたものと思われます。

いわば事故です。」


「あいわかった。もういい。

結果がどうであれ捕虜を殺害する行為はこの国の法に触れる。

敗走のことは罪に問わないと言ったが、これはその限りではない。

追って公の場で審問する。今日は下がれ」


そういうと、騎士団長、作戦参謀を下がらせた。



国王はため息をついた。


「ユーリ、お前に騎士団長を止められないとはな。」


「申し訳ございません父...いえ国王。

私の力がないばかりに」


「騎士団に王族の身分は持ち込ませない。

それは王族も民のための組織の一員であるということを学ばせるための初代国王が定めた決まりだ。

俺はお前に力量を評価してるからこそ勇者一行のことを任せたが、まさか騎士団長が口を出してくるとは思いもしなかった。

俺のミスだ。」


「いいえ、団長は義に厚いお方です。

あのように事をされるとはよほど悲惨な戦いだったのでしょう。」


「そうかもしれんな。

お前は第一騎士団副団長の任を解く、今後は国王直轄部隊の隊長として勇者一行の育成に当たれ。」


「下命了解致しました。」

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