第37話 魔王城の管理人

スクルドは俺の胸に顔を埋め、ずっと泣き続けている。

俺の服は涙と鼻水でぐっしょり濡れていた。

嬉し泣きとはいえ、そろそろやめてほしい。


しばらくすると、王の間に通じる扉が開いた。


「お待ちしとりました魔王様。」


そこにはメイド服を着た美しいダークエルフが立っていた。



「やあ久しいな、レギンレイヴ。元気だったか?」


「はい、100年ほどこの場所で魔王様をお待ちしておりました。」


「おいおい、俺が死んだら自由に生きろよ。」


「そうはいきません。私は死ぬま魔王さまにこの身を捧げると決めていますから。」


生真面目なレギンはそう答えた。


「だから、そういうのは俺が死んだら無効じゃないの?」


「いいえ、必ず戻ってくると信じていましたから問題ありません。

魔王様は...『ちょっとその辺におでかけしているだけ...』そんな感じで待っていました。」


この埃一つ落ちていない部屋を見ればわかるが、彼女の言葉に嘘はないないだろう。

でもここまで偏執的に盲信されると、嬉しいけどちょっと引く...


「それに第4席が、もうすぐ帰ってくると教えてくれたので

楽しみにして待っていました。」


そういうと彼女はにっこり彼女は微笑んだ。



レギンは、俺の胸にぶら下がっているものを一瞥すると冷たくいった。


「いい加減離れなさい。魔王さまのご迷惑になります。」


スクルドは、頭だけ振り向きながらも、腕は俺の首に巻きつき離れなかった。


「今私は、魔王様成分を補給中です。

空気を読みなさいレギンレイブ。」


こいつ嘘泣きか?


「誰かと思ったらスクルドですか?

ずいぶん弱々しい見た目になっちゃって...」


「序列筆頭の私を敬いなさい序列三席レギン。」


「あなたこそお忘れのようね。

ここでの力関係を。

今日の夕食の準備は誰がするのですか?」


とレギンが言うと、スクルドは


「…おのれ卑怯な。」


と呟き、離れていった。


レギンは、ふふっと微笑みスクルドに代わり俺の前まで来ると、俺の首に腕を回し抱きついてきた。


「魔王様成分が必要なのは私も同じです。」


と言って勝ち誇った顔でスクルドを見返した。



俺は久しぶりに執務室の席に座ると、懐かしいレギンの入れてくれた紅茶を堪能していた。

やはりレギンの紅茶は絶品だ。


応接セットのソファにはスクルドが座りお菓子を頬張っており、その横ではレギンが紅茶を飲んでいた。

基本的には仲がいいのだこの二人は。


「ところでレギン、子供たちは大丈夫か?」


「はい筆頭と子供達は、魔力に当てられてまもう少し回復に時間が必要でしょう。

今は寝室で寝かせています。

ですが、すぐによくなると思われます。」


「それは良かった。

ところでレギン、

ワーウルフたちが心配だ。

子供たちは無事だと里に使いをやってくれ。」


「すでに連絡員を飛ばせています。

まもなく着く頃です。」


「さすが、やることが早いな。

ところでレギン。

考えなしにここまで来てしまったが...これからどうしよう?」


俺にとってレギンは、某社のAIのように「ヘイ、レギン」とか「オッケー、レギン」みたいに、なんでもお願いできる便利な存在だ。


「はい魔王様、今までに状況は全て第二席の想定の範囲内です。

そういう難しい仕事は彼女の担当です。彼女が、なんとかしてくれるでしょう。」


何と、すでに第二席がこの地にいるとは驚いた。


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