第29話 王族の来訪③
「この話は、また夜にでもゆっくり話そうぜ!」
と言って、第三王子は視察団のところに戻っていった。
今日は国王の視察ということから、後半からはマリエル先生による魔法の授業が行われた。
訓練所に置かれた的に、各々の攻撃魔法が放たれていった。
「聖女マリエル、私が聞いている話では魔法の習熟には何年ものも歳月がかかると聞いているが。わずかの期間でここまでの事が出来るものなのか?」
との国王の問いかけに対してマリエルは
「陛下のおっしゃるとおり、魔法の発動には通常早くても5年はかかるでしょう。魔法大学に入れるレベルの生徒は、平均で20年以上の鍛錬を積んできた者で、第三王女殿下は恐れながら、異常の魔法の才と言ってもいいでしょう。
この子達は、我々とは別の存在だと考えていいかもしれませんね。」
と説明した。
国王は「異世界からの召喚者とは凄まじいな」
と呟いた。
私は第三王女イリアス。
今日はお父様のお供で勇者一行の視察にきている。
魔法大学に在学中の私の目で見て助言が欲しいと頼まれたからだ。
生徒たちを見て私も少し予想外だった。
2ヶ月で攻撃魔法が発動できるなんて、よほどの魔法の才がないと無理なのに、ここにいるほぼ全員が達成していた。
ただ一人違う訓練をしている大柄な男子がいるのが気になった。
彼が杖を見つめると、先に光が灯ったが、
1・2・3、ピキッ
自然に杖が破裂した。
「マリエル先輩、あの端っこで杖の先を見つめている少年は何をしているのですか?
あれは魔力放出の初期訓練に見えますけど。」
私が尋ねると、マリエル先輩は困ったように
「そうですね。初期訓練ですね。
彼の場合は事情があって、初期訓練を続けているんです。
魔力が無いわけではないのですが、ちょっと私にも理解できなくて...」
と困ったように答えた。
私は彼が気になり彼の元に向かった。
なぜか兄のユーリ兄様が変な目で訴えかけてきたけど意味がわからない。
「私はイリアス。貴方は?」
と私が話しかけると、彼はびっくりした目で、でも優しい目で私を見返した。
まるで兄様が私を見るようだった。
「俺、いや私は織田といいます。」
「敬語は不要よ。いつもの話し方で良いわ。私達は同じ歳でしょ?」
「でも王族ですし...失礼があっては(副隊長に)殺されてしまいます。」
「フフフッ!面白い人ね。
そんなことで殺されるわけないでしょ?
貴方たちは厳密にはここ王国の民では無いわ。
私に敬意を払ってもらわなくて結構よ。
それよりも私がそうして欲しいの。」
「そっそうですか。わかりました。いや分かった。」
織田くんは、困りながらも私の願いに応じてくれた。
「それより織田くん、貴方の訓練を見ていたわ。何か不思議ね。
ほかの子の成長が早いのにも驚いたけど、貴方は別格だわ。」
「イリアス王女、私は魔法に関しては落ちこぼれですよ。いまだに杖の先にまともに光を灯すこともできやしない。」
「いいえ、私には分かるわ。
というか、見えてるの。
貴方の魔法量が多すぎて杖が耐えられないだけでしょ。
貴方にはこの杖はしょぼすぎるのよ。
そうね。私の見立てだと貴方には魔法陣を使った儀式魔法が合っていると思うわ。
織田くんは宮廷魔術師級の魔法士になる素質がある。私が確約するわ。
今度会う時に魔法大学の資料を持ってきてあげる。」
私は、魔法士としては正直伸び悩んでいた。
知識は誰よりもあっても才能は普通。
でも、この目(魔眼)には自身があった。
私はマリエル先輩と同じく魔眼持ちだけど、魔眼ならマリエル先輩以上。
王家の私が聖女と張り合っても意味がないこだけど、マリエル先輩が見抜けなかった織田くんの才能を見つけたことには優越感を感じた。
織田くんに興味を持ったのはその魔力の輝きだった。
けど、直接話しかけたときに不思議な感じがした。
私は、多くの男性にいやらしい目で見られることはしばしばありそれが不快だったけど、織田くんが私を見る目は、兄様が私を見る目、
いや私が大好きだったお爺様が私を見つめる目のように安心できた。
こんな気持ちになるのは初めてだ。
「じゃあ織田くん。また夜にでもお話ししましょう。」
そう言ってお父様のとこに戻った。
俺はラーズによく似た第三王女に話しかけられ驚いた。
魔法では落ちこぼれの俺に話しかけられるとは全く無警戒だった。
俺は、杖を折らずに光を灯す『手加減』を練習していたが、それを見られていたようだ。
彼女は「見える」と俺に言った。
まさかマリエル先生意外にも魔眼持ちがいるとは。
俺は彼女を警戒したが、少し話してみて警戒を解いた。
別に根拠はないが信頼できると感じたからだ。
彼女は、訓練時間が終わる頃、「夜にでもお話ししましょ」と言って戻って行った。
夜に国王主催の晩餐があると聞いている。
正直不安だ。
彼女以上にシスコン王子のことが...
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