第24話 兵長の長い一日①

訓練も半分も過ぎた。


朝、俺は奴らが起きる前に起きて日課の体力作りを行う。

肉体で新兵に劣っては指導などできないからだ。


朝飯は自分の一般兵の宿舎で食べる。

仲間は結婚して世帯を持っているやつも多いが、俺はもう少し自由でいたい。

この見た目だけどまだ30過ぎたばかりだからまだまだ大丈夫だろ?


午前はひよっこどのを直接指導する。

最初の頃はすぐへたばったて奴らが食い下がるようになってきた。

俺は新兵の訓練担当になってしばらくたつが、こんなに成長が早い奴らは初めてだった。


特に、魔法の扱いを覚えてからは目覚ましいものがある。

俺は魔法ができないが、魔法による身体操作を上達すれば、あっという間に俺より強くなるだろう。

副団長から説明を受けてはいたが、異世界からの転移者がこんな力を秘めていたとは、信じられなかった。


もうかなり強くなってはいるが、この辺で鼻っ柱を折っておこう。


「ひよっこどもよく聞け、これから近くの池で訓練を行う。

俺からの指示は一つだけだ。

池の反対側まで泳ぎきれ。以上だ」


そう言って生徒たちを『訓練用の池』まで連れてきた。


生徒たちは唖然としている。

そりゃそうだ。

まだ凍る時期じゃないのに分厚い氷で覆われている。

魔法で凍らせてもらったものだ。

まあ50メートルほどなので、泳ぎが得意なやつなら不可能じゃない。


この訓練は慣れて伸びた鼻っ柱を折るのが目的で達成できるかは関係ない。

あとは度胸試しだな。


「さあ挑戦したいやつはいるか?

無理ならやめておけ。訓練場20週で勘弁してやる。」


「兵長、氷で池に入れないじゃないですか?」


「よく見ろ!そこに穴が掘ってあるだろ?

対岸にも同じような穴が掘ってある。

そこから入ってあそこから抜けろ!」


ええー、生徒全員が黙ってしまった。

誰も手を上げずに気まずい雰囲気が流れる。


「ほら最近の自信はどうした?

余裕すぎて最近の訓練は物足りないとか言ってた奴いなかったか?」


と俺が煽ると、女子の斉藤胡蝶が手をあげた。


「私が挑戦します。」


意外だなぁ。武術は秀でたものがあるが、こんな積極的なタイプじゃ無かったと思うが...


斉藤は訓練着のまま水に入って行った。


が、30メートルくらい行ったところで、ぐるぐる周りその後ぺたんと氷に張り付くように浮いてきた。


何をやっているのだ。

やむなく俺が飛び込み引っ張って助け出した。


「さあ、頑張った斉藤さんに拍手ー」

パチパチパチ


斉藤は失神し、治癒魔法士に医務室に運ばれていった。


胡蝶:

私の実力なら3分間は息を止めていられる。

だからこんな課題は余裕だけど、あえて失敗するわ。

この課題は達成することは目的じゃないの。

あれ?斉藤さん大したことないじゃんって周りに思わせることが目的。

ここのところ楽しくなっちゃって武道で勝ちまくっちゃったから評価を落とすことが目的ね。


そして水に飛び込んだ。

あとは3分の1のところで引き返して戻ってきて失敗しちゃった、てへってのが私の筋描き。でもちょっと寒いわね。


この辺で戻ろうかしら。って思って振り返ったら...思ったより視界が悪いわ。

あれ?どっちからきたっけ?

とぐるぐる回ってると。なんか寒い...

意識が朦朧とするわ。

あー魔王さまが見える....


ん?どこかで見た風景ここって医務室のベッド?

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