第21話 休日②

「先生、手を出してください。」


織田くんがニコニコしながら突然、話しかけてきたので何かと思ったけど左手を出してみた。


すると突然ポケットから取り出した指輪を私の薬指にはめた。

織田くんは、ニコニコしながら自分の左手を顔の横に掲げ、


「ペアリングですね?」


と指のリングを指で弾いていた。


「えぇ?! どうしたのこれ?」


私は真っ赤になりながら慌てたところ、織田くんは吹き出し腹を抱えてうずくまった。


「ぷっっw、はーっ笑った!!

ごめんなさい!からかうつもりは無かったんだけどおかしくて!」


「なっなんなの?!」


「これは昨日ユーリ副団長から配られたんですよ。認識阻害の指輪ですって。

魔法の紋様が刻まれていて、街で目立たなくなるんですって。」


「ちょっと先に説明しなさいよ!」


「先生、これ配った時寝ちゃってたでしょ?

それ失念してましたごめん!」


「まあいいわ...今度から気をつけなさい。」


先生は怒ってるというより照れてるなぁこれは。

酔っ払って寝ちゃったのは自業自得だけど、ちょっと意地悪過ぎたかぁ。


「期限直してください。ジーク兵長から酒のつまみに合う美味い店聞いてきたんですよ。」


「織田くん、私は今後もうお酒は辞めるわ。

いや、完全休みの日以外は辞める。

決めた!」



俺たちは、ジーク兵長おすすめの料理店で昼食を取る事にした。

その店は居酒屋って感じだが昼なのに結構活気があった。

客層は、戦士風、魔法使い風、騎士風など様々で、神官服の人までいる。

さながら冒険者の店って感じだ。


店の女給さんが声をかけてきた。

「見ない顔だね。この街は初めてかい。」


「そうです。知人の兵士さんからの勧められてきました。ジークさんっていうんですが分かりますか?」


「ジークの旦那かい?それなら一品サービスしなきゃね。頼りになるからいつも店で喧嘩あった時などに助けてもらってるのさ」


「さすがジーク兵長だ。

ところでおすすめありますか?

できれば地元の美味いものを」


「それじゃあジークの旦那がいつも注文しているジークスペシャルなんてどうだい?」


「じゃあそれでお願いします。」


「あいよ!ジークスペシャル2人前」


女給さんのその声を聞き、店の中が一瞬シーンとなった。

そしてこちらをチラチラ見たかと思うと再び元の騒がしい雰囲気に戻った。


「ジークさんって何者でしょうね?」


「そうね。昨日のことは覚えているわ。

織田くんをいかがわしい店に連れて行こうとしたスケベオヤジよ。」


こわっ

楠田先生はまだ根に持っているらしい。


ジークスペシャルは、串焼きの盛り合わせだった。

それに店のサービスでサラダとパンを付けて貰った。


「宿舎のご飯も良い食事を出してもらってるけど、こういう塩辛い串焼きも美味しいわね。

こういうのB級グルメっているのかしら?」


楠田先生は、楽しそうに串焼きを齧っていると

小声で

「これはパンでなくビールに合いそうね...」

などと呟いていた。


昨晩から飲兵衛のイメージが定着していた。


「先生、ストレス解消にも無理せず、たまにはお酒を飲んだ方が良いと思いますよ。」


「そいかしら?

昨日は失敗しちゃったけど今楽しいし、結果オーライよね。」


と嬉しそうだった。

先ほどの禁酒宣言はどこに?


ジークスペシャルは思いの外リーズナブルだった。お店が結構サービスしてくれたのかもしれない。


食事に満足した後は、街をぶらぶら歩いていた。

この中世の街並みは見ているだけでノスタルジックで楽しめた。


「先生、なんか欲しいものありますか?」


「特にないわね。必要なものはユーリ副団長がなんでも揃えてくれるし。」


「そうですね。それじゃあ劇とかどうですか?

先ほどの女給さんが進めてくれました。この先の広場でやってるそうです。」


「織田くんはマメね。いい彼氏になりそうだわ。良いわね劇を見に行きましょう」


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