第14話 魔王の死す
旧王国王城王の間
「魔王さま、ここもそろそろ危険です。
私が勇者を食い止めている間にお逃げください。魔王さまが殿をつとめるなんて前代未聞です!」
俺の副官であり、四天王筆頭のスクルドがそう言った。
「おいおいスクルド、不死族の俺が死を恐るとでも思うのかい?
ええ? いつからそんな口ごたえするようになった?」
「そんな脅したってダメです。怖くありません。魔王さま、私だって不死族ですから別に死ぬことなんて怖くないです。全然へっちゃらです。」
スクルドはおどけるも、勇者一行の手はそこまで迫ってきていた。
「魔王さま、私死ぬのは本当に全然怖くないんです。
ただ本音を言わせていただきますが、今生の魔王さまと離れ離れになっちゃうのが〜
なんというか...いや?」
あっかわいい...
俺だってさあ、そんな事言われたら同族であり運命の番であるスクルドと離れ離れになるのは辛いよ。
でも、まあいつか次の世界で会えるだろ。
俺とスクルドは、王の間で勇者一行と対峙した。
「貴方が魔王ですか?
なんか思ったより優男ですね。エルフ族ですか?」
勇者は、長い黒髪が似合う美しい女性であった。
歳のころは20代半ばってところか?
その後ろには数名の騎士や、神官らを従えていた。
「初めまして、そう俺が魔王です。
今代はエルフ族をやっています。」
「今代は?変な言い方ですね?
四天王の三人は退けました。
命は助けましたが、撤退してもらいましたよ。
貴方って変な人ね。
部下に命を優先しろって命令してたんですってね。」
「それは良かったありがとうござます。
部下の命を助けていただいて」
「貴方ってやっぱ変ね。
あとは貴方と、横にいる女性だけですよ。
抵抗をしなければ二人とも殺しはしません。
総大将である貴方を逃すことは出来ませんが、大人しく従ってください。」
勇者の話に割り込み、後ろにいた年配の騎士が慌てて口を挟んできた
「勇者よ!お考え直しください!魔王の命を助けるなど出来ません!そんなこと許される訳がない。死んでいったものが浮かばれません!」
勇者は、冷たい目で騎士に言った
「騎士団長、
私は望まない召喚でここに連れてこられ望まない戦いを強いられました。
もうこれ以上人を殺したくありません。」
「それはそうですが...
魔王は人ではありませんよ!?」
「人と魔族の違いって何ですか?
確かに、ゴブリンやオークは話の通じる相手ではありませんでした。あれは獣と同じです。
しかし、四天王や魔王は話をすることはできるじゃないですか?
貴方と魔王の違いは何ですか?」
俺は勇者は理性的な女性だと関心させられた。
彼女なら、魔族を根絶やしにするようなことはないだろう。
「勇者よ。
一つ提案があります。
抵抗はしないので、人払いをお願いできないか。
お互い損はさせません。
そこにいる騎士の方にも」
「良いでしょう。
騎士団長、下がってください。
私一人でも万が一にも遅れを取ることはありません。」
「いや...」
「私が信用できませんか?」
「分かりました。下がります。」
「スクルド、お前も下がりなさい。」
「でも・・・
分かりました。魔王さまを信じます。」
俺と勇者を残して他の者は王の間から出て行った。
「それで提案って何です?
お互いが幸せになれる案なら良いのだけれど」
「勇者、
貴方は分かっていますね。
この戦いに一方的な正義がないことを。」
「そうですね、
魔王の言う通り、部外者の私から見れば、一方的なものではないことは気づきました。
貴方方魔王軍、ゴブリンやオークなどの魔物、
あと吸血鬼族が別々の勢力で、いくつか誤解があった
...ってところかしら?」
「ご明察、今の状況も俺の意図したところではありません。
とはいえ、結果的にいえば、魔王軍がここを侵略していたことも事実。
このまま私を生かしていれば、人族、いや人の為政者らが納得しないでしょう。」
「そうね。
私の力で解決できれば良いのだけれど、
悔しいけど私には武力はあっても、王を説得する力はありません。
貴方に解決する案が?」
「そこで私の提案です。
ここで勇者は魔王を討ち取って下さい。
その成果を持ち帰れば貴方の言葉も為政者に通じるでしょう。」
「何を言うかと思ったら。
貴方ってほんと変な人ね。
却下よ却下。
私はもう誰も殺したく無いって言ったでしょ?」
勇者はやれやれという感じで言うとさらに
「なんか召喚された先で良いように使われて、ほんと戦いのに疲れた。
貴方とは今日初めて会って話たけど、騎士団長より貴方の方が気が合うわ。
貴方とは良い友達になれそう。
もっといろいろお話したい。
終わったら一緒に酒でも飲みましょ。
約束して。」
「俺も勇者とは気が会うと感じました。
一緒に飲みましょう約束します。
いやだなぁ、死んだふりするだけですよ〜。」
「どうやって?」
「こうやって?」
『フェニックス インフェルノ』
俺が呪文を唱えると、足音から音を立て虹色の火柱が吹き出した。
「ちょっと...何やってるのよ!」
勇者は慌てていたが、俺は燃え盛る炎の中で勇者に語りかけた。
『驚いた?
この炎は、再生の炎。
来世に繋がる炎です。
俺は今世からは逃げさせてもらいます。
今世ではお酒を飲めませんでしたが、来世でまた会える日を楽しみにしますよ!
さようなら勇者!』
音を聞きつけ、スクルドと騎士団長らは王の間に駆け込んできた。
「もー何やってるんですか魔王さま〜。
だから離れ離れはやだって私さっき言いましたよね?ちょっと待ってください。一緒に行きますよ〜!」
スクルドは慌てて駆け寄ると、ぴょんとはねて燃え盛る炎の中に飛び込んで行った。
「さすが勇者さま。
見事魔王を打ち取りましたな!」
騎士団長は嬉しそうに勇者に声をかけるも、勇者は炎を見つめ、なんかぶつぶつと怒っているようであった。
「何を勝手なことしてるのよ、逃げるんじゃないわよ...再生?来世?
思い出したわ、私も貴方と同族って...
待ちなさいよ約束は絶対守らせるわ!」
騎士団長が勇者を見つめる中、勇者は突然炎の中に飛び込んで行った。
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