11 バグ技的成長

「〈苛烈公〉に勝利……? ウソつけ、あれは思い切り負けじゃないか」


 俺は自室でくつろぎながらスマホを見る。すると〈セブンスコンクエスト〉でのステータスが上がっているではないか。力や頑強さ、敏捷、魔力などなど全ての能力が二回りほど成長していた。

 なぜかレベルだけは成長していないが、実質これはかなりのレベルアップだ。


「……どういうことだ?」


 まず起こったことを整理してみよう。

 俺はダンジョン化したマンションに行き、その中で〈苛烈公〉と呼ばれるゴブリンと戦い、敗北した。

 だがただ敗北したのではない。スキルの〈聖域〉の機能のひとつ、緊急帰還によって拠点に戻ったのだ。


 おそらくは緊急帰還によってこのバグが発生している。

 通常はあのボスと戦う際のリング――ボス部屋と呼ぼう。ボスに挑戦してボス部屋が起動した段階でどちらかが死ななければ出られないものなのではないだろうか。

 ボスを倒していないのにあのボス部屋から出たことで、結果的に『ボスを倒した』という状態になっている……。


「そんなセレクトボタンを押したらバグってクリアできてしまう時代のゲームじゃあるまいし……!」


 頭を抱えつつも〈7CQ〉の他のページも開いてみる。どうやら〈聖域〉もレベルが上がったようだがこれは他のスキルと挙動が違う。このスキルは『ボスモンスターを倒すことでスキルレベルが上がる』ものらしい。そのため、どれだけ雑魚を倒しても、スキルポイントを費やしたとしてもこのユニークスキルのレベルは上がらない。


 〈聖域〉のレベルが上がったことで何が解放されたかを読んでいく。

 ひとつ、前哨基地をひとつ指定することができる。

 ふたつ、〈聖域〉の機能が解放。


 ひとつ目、前哨基地について。

 スキルユーザーの本拠地の他に、任意のモンスターに支配されていない土地を前哨基地とすることができる。本拠地を絶対的安全地帯とし、前哨基地は安全地帯とする。なお、現時点での前哨基地は魔除けと電力の供給が付与される。


 ふたつ目、〈聖域〉の機能について。

 本拠地で過ごすことで能力が上がる。能力に該当する訓練を行うことで能力値、スキルレベルの上昇にブーストがかかる。


 とのことだ。


「どっちも強いな!? 一日一回の強制帰還でボスの撃破報酬。報酬で能力値が上がるし、〈聖域〉のレベルも上がる。〈聖域〉の成長で〈前哨基地〉を増やすことができれば、それだけ誰かを楽にできる。それに、もっと〈聖域〉のレベルが上がれば……!」


 これならイケる。

 この〈聖域〉を育てる方法なら。


 非日常を目一杯楽しみながら、日常に戻りたい人を助ける。

 そのために俺はボスを倒し続ければいいということだ。



 午前二時。

 〈7CQ〉で刀を買って、もう一度あのマンションへボスに挑みに行く。


 スマホで〈聖域〉の緊急帰還について調べると、午前零時を起点に回数が回復するものらしい。俺は遠足を待つ子供のように躍る心を抑えきれずにスマホを見て日付変更を待っていた。


 軽くなった身体は小学校付近をうろついていた魔物をものともせず、一対多であっても簡単に片付けることができた。


 だが、だが、だが――!


「フッ!」

「――!」


 〈苛烈公〉の攻撃がこちらのアバラを見事に折る。アバラって何本だっけ、多分綺麗に右半身全部やられたんじゃないかな。

 だが俺の心は折れない。吹き飛ばされてなお受け身を取り、さらには棍棒を振るった隙を狙わんと大上段で振り下ろし――シャレにならないくらいの血を吐いた。


 その瞬間に緊急帰還が発動し、次の瞬間には部屋を改造したばかりのいつもの自室へと戻っていた。


「痛い……、涙が出るくらい痛い……。でも強くなってるなら許す……」


 俺は即座に〈7CQ〉を覗いて……ガッツポーズ!

 また強くなれたみたいだ。だが〈聖域〉のレベルは上がらない。どうしてかは分からない。だが同一ボスでユニークスキルのレベル上げは出来ないってことが分かっただけ進歩である。


 段々と速くなっていく治癒。自分の身体がより強くなっている証拠だ。

 思いも寄らぬ方法ではあるが、思った通りに自分が変われている。


「ククク……ハッハッハ!」


 深夜三時半。

 電気を消して夜空を眺めれば、地方都市でも見ることが出来ない満天の星空が広がっている。

 夜空の下でひとりほくそ笑む。自分がもっと強くなれることを知って。

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