05 セブンスコンクエストの効果
「ありがとうございます。実際のところ、あいつらから逃げきれる状態ではありませんでしたので」
少女は自室に入るなり玄関に寄りかかって大きく息をついた。その額には脂汗が浮かんでおり、見れば腹部のあたりにじんわりと血が滲んでいた。
俺は自分で思っていたより彼女が弱っていたことを知り、柄にもなく安堵する。少なくとも俺がこの提案をしていなければ彼女は死んでいたのかもしれないのだから。
「知らないやつからのこんな提案に乗るあたり、相当弱っていたみたいだな」
「……そんなことをするような人には見えなかったですし」
「そんなにホイホイ人を信用していたらいつか手ひどい目に遭いそう……いや、説教してる場合じゃないか」
電気をつけて彼女を居間に上がらせようとすると「汚れてしまいますよ」と怪我をしている自分の腹部を指さす。そんな彼女にタオルを渡して、中に入るように促す。
「ここは〈聖域〉だ。そこそこの傷でもここに居れば自然に治る。タオルを当てながらなら血も滴らないから大丈夫」
そういわれると、と少女は自分の腹部を見て目を見開く。俺の言っていることが真実だと理解したのか、彼女はおずおずとスニーカーを脱ぎ始めた。
「おじゃましまーす……」
「適当にしてていいよ。自分の家くらいくつろがれると困るけど」
「そこまでしませんよう!」
少女をテーブルにつかせている間に電気ケトルで沸かしたお湯で温かいお茶を淹れる。それを少女に出すと、彼女はわあと目を輝かせた。
「温かい……。って、どうして電気が?」
「その前に名乗っていただけるとこちらが助かる」
少女は一口お茶をすすって、小さく咳払いをする。
「わたしは
「おお、後輩かー」
「ですね、
なんだ、廻橋は随分とフランクだな……。
そもそも名乗ってたっけ……?
まあいいや。それよりは現状の説明といこうじゃないか。
「ここだけ電気が繋がっているのは、俺の〈聖域〉ってスキルの効果だ。スキルについては廻橋もプレイヤーだから分かるだろう?」
「わたしは今朝気がついたら〈セブンスコンクエスト〉が入ってて……。以前からネットで勧められてはいたのですが、少し怖くて」
ああ、完璧に初心者だな……。というか気がついたら
俺の時もどうやって入れたか覚えていないし、よくよく考えなくても〈7CQ〉の存在は謎に満ちあふれている。ただその謎を解くための材料はまだ手元にはなさそうだ。
「
こちらの問いに廻橋は首をかしげ、間を置いて思い浮かんだようだ。
「そういえば化物から逃げるときに足がもつれたりすることもなくあそこまでの距離を走れましたね。なるほど、にわかには信じがたいですけれど、こうして効果に身に覚えがあると〈7CQ〉のことを信じざるを得ませんね」
「そう。その〈7CQ〉なんだけれど、スマホのバッテリーが切れるとスキルも使えなくなり、身体能力も下がる。全部使えなくなるわけではないんだけれど、こうしてモンスターがはびこっている現状で充電切れは死活問題になるだろうね」
以前、〈7CQ〉が入っているスマホの充電が切れたことがある。その時は即座にスキルが使用不可になり、全身の力も上手く入らなくなってしまった。おおむね七割ほど、全力の時より力が落ちている状態に陥ったのだが、いまそれが起こってしまうと大問題だろう。さきほど廻橋にも述べたように死活問題だ。
「これからは絶対にスマホの電源を切らないほうがいい」
「先輩はそのことを教えに行かないんですか?」
テーブルを挟んで向かい合っている廻橋は、じっとこちらの目を見て問う。責任を問うようなものではなく、純粋な疑問。
「魔物がここら辺から去ったとしても今は難しい。車は使えないし、バイクは周辺の細い道を行くには適してない。放置された車もある以上、徒歩か自転車が結果的に楽だろう」
「たしかにこの辺りの車の放置率は凄まじいですし、そんな中で囲まれたりしたら……」
「だから、道を確保しながらになる。あと〈聖域〉のことを知られるのも余計な因縁がつけられそうなのがな……」
「さすがに生き残った人たちみんなをこの部屋に入れるわけにもいきませんしねぇ」
廻橋は困ったように緩く息を吐く。
そんなの、物理的に無理だ。
そうすることが出来ればみんなの安全だけは確保できるのだろうけれども。
そんな中、二人のスマホに通知が届く。
どうやら〈7CQ〉からのようで、内容は『バッテリー切れについて』と書かれてある。それをタップして読んでみると……。
「『〈7CQ〉のアプリを切っている間はスキルを含めたステータス機能が八十パーセントほどカットされます。そのため、当アプリではスキルポイントか
「さっき言ってたこととぴったり被ってますね……。でもよかったですね、これで充電がいらなくなるみたいですし」
「あー……、そうはならない」
俺はアプリ内のスキル説明をよく読んだ上でなんとも言えない返事を返す。
きゃっきゃと喜んでいる廻橋に対してこれを言うのは気が引けるが、言っておいた方がいいだろうな……。
「こいつはあくまで節電や耐久力が上がるだけで消耗はするみたいだ。だからこれから先は……電気の奪い合いになる」
ホームセンターにあるもので全員が行き渡ることはないだろう。
明日にでも発電機の奪い合いになるのだから、そのことも留意していくしかないのだろう。
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