03 戦闘と聖域
「まずは
安アパートの二階から目的地の方角をスッと目を薄めて見る。町のあちこちから怒号や悲鳴、そしてサイレンが響き渡る。これはもう災害の中でも異常な部類に入るのではないだろうか。
友泉寺とは仏教の……何宗かは忘れた。寺の隣に幼稚園が設置されていて、いわゆる宗教法人が母体の学校法人である。
俺はその幼稚園に通っていたのだが、友泉寺の息子も同級生だった。学校での仲は高校まで、個人的な繋がりは今でもある、大切な友人の家がそこにあるのだ。
電話が通じるならば確認のためだけに立ち寄ることはないのだが、場合が場合だ。それにこの状況であればその友人……
「……しかし、この感覚は慣れないな」
首の後ろあたりがぞわぞわとする感覚。これは〈気配感知〉を取得してから感じ始めたものだ。『なんとなく敵意があるやつ』から『こちらに敵意はないやつ』まで雑多な存在を感知し続けるのは精神衛生上よくないのだなあ。だがこれを切ってしまうと準備が出来ていない戦闘を行う確率が上がっていく。そういう意味ではオンオフができても使いどころが難しい技能である。
――後から聞いた話ではあるが、近所の人たちは警報が鳴ってすぐに避難場所に逃げていったらしい。つまりこの時点で家にいるようなやつは、大体が夜更かしをして警報のことを無視して寝過ごした阿呆だということ。わあ、みんな危機管理ができてすごいなあ……。
そういう事情を知らずに俺は『ぞわぞわとした感覚』を頼りに、アパートの一階へと降りる。腰のベルトには剣帯、そして刀を帯び。そういえばここらの大学生とは話をしていなかったな……とぽつりとつぶやき、『誰かがいる』部屋に立つ。ドアスコープから中を覗こうとするが、道具もない俺には当然見えるわけもなく。すう、と深呼吸をしてドアをノック。
「すみません! どなたか居ませんか!? ……開いてる」
嫌な気配が濃くなってくる。誰かの気配がして、それでいてドアの鍵は無防備に解除済み。
刀を抜いておき……扉を開けると――二本足で立つオオカミが立派な剣を振りかざして――思い切り振り下ろす!
キィン――! 鈍色の刀でこちらが受けると、刀の目釘のあたりがぐにゃりとひしゃげた感触。俺は咄嗟に鍔迫り合いを退き、切り返しの一撃を放つ。虚を突かれてつんのめったオオカミ……コボルトは剣をこちらの足に着地させた。
俺はそのままコボルトの喉首を刀で掻ききり……相手は濁った目でこちらを見据えて地に落ちていった。
戦闘終了と同時に足の甲まで刺さった剣の痛みに俺は絶叫をしてしまう。
「馬鹿か俺は!」
首のざわめきが増したのはこちらに気付いた魔物が大勢居るということだ。
俺は魔石で傷を治す間もなく自室に戻っていく。
ぜえぜえと呼吸をし、酸素を取り込む。玄関で脂汗を流しながら痛みを堪える姿はおそらくマヌケに見えることだろう。
スニーカーを脱いで足の怪我を見ると驚きの結果がこちらに飛び込んでくる。
「傷が……消えていってる」
足の甲の深いところまで突き刺さった傷は高速で回復しつつあった。骨まで断たれていると思っていたがどこか足の指が動かないこともない。
俺はまさかと思い、このまま自室を出てみる。
すると傷の回復はぴたりと止まり、さらには血が滲み出始める始末。
これは、〈聖域〉の力で傷が癒えていることはたしかだ。
傷を回復させる魔石は購入に必要な
「……〈聖域〉が思っている以上に使えるのはかなり良い。けど――」
不安材料はある。
〈7CQ〉がベータテストの頃は武器を持っているコボルトなんていなかった。だというのに出会ったモンスターは立派な武器を持っていた。二階から見える景色にも、ゴブリンたちのような道具を扱えるモンスターは武器を携行している。
危険度がこれまでとは段違いなのだ。これから先は特殊能力を持っている魔物や魔法を使うものだって出てくるかもしれない。
推論だけで行動指針を決めるのは良くない。だが敵がベータテスト時より強くなっているという現状に容赦をしてしまえば上手く行くものもいかなくなるだろう。
「とりあえずはレベル上げと、冷蔵庫の中身がなくなる前にメシを確保しないと」
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