第5話
エデンは玉座に座り、集めたアンブロシオの貴族たちを見回した。降伏して生き残った貴族たちだ。
被害が酷かった地域にはしばらくの間減税措置を取り、カークライト王国からの支援もあると伝える。まずは各々被害状況を確認して報告を上げるように命令する。
そこまでは良かったのだが、元王妃であるオリヴィアがケリガン公爵になると発表されて貴族たちはざわめいた。なぜと問いたげだ。
「彼女は国民のことを一番に考えていた。自分の命と装飾品とドレスなどをすべて差し出して復興に役立ててくれと言ったからな。ピィピィと喚いて玉座を狙った争いも終結させられん無能な貴族とはわけが違う。殺すのは惜しい。キリキリと何十年も働いてもらわねば」
エデンの明け透けな発言に貴族たちは一瞬静かになる。
「さて、私の統治が気に入らん者はさっさと爵位を返上してここから去るがいい」
オリヴィアはしっかり前を向いているが、他の貴族たちは周囲と内緒の話をしているようでコソコソとした声しか聞こえない。
「あぁ、別に私を殺したいという者がいればここでかかってくればいい。相手をしよう」
後ろに立っていたマリクがその言葉に反応して剣に手をかけた。オリヴィアも困惑した視線を投げてくる。
貴族たちのざわめきも一層大きくなったが「落ち着け」というゴードン団長の声で静かになる。ゴードン団長の言葉はカークライトから連れてきた騎士たちに向けられたものだ。
「あぁ、扉の前にいる騎士たちはアンブロシオに家族を奪われた者たちだ。勝手に国境を越えて略奪などを働いた者たちにな。すべてアンブロシオの王位争いが招いたことだ。私に文句があるなら、あの者たちが切り捨ててくれるであろう。私の統治に命まで懸けて何か言いたいなら言うと良い」
貴族の中から「これは脅迫だ」だの「恐怖政治か」などの発言が聞こえる。
「玉座ならいつでも譲ってやるが、よく考えろ。カークライト軍は魔物を倒し、物資をアンブロシオに援助した。ここに来るまでの道中ずっとな。血で染まった玉座をこれ以上血で染めたいなら私は止めんぞ? まだどこかに潜伏している第二王子のために戦いたいならご自由に」
第三王子や第四王子は王位争いの中で死んでいる。ただ、第二王子だけはまだ見つかっていない。だからエデンは脅しているのだ。アンブロシオ国民のためにいろいろとやったエデンを殺して玉座を狙うなら、カークライトと国民が黙っていないだろうと。お前らは争っていただけで国民のことなど大して考えていないだろうと。
誰も何も反論しなかった。
次に問題が起きたのは王配をマリクにすると言った時だった。
玉座に座るエデンの横に立ったマリクを見て、一部の貴族たちは奇妙な顔をした。そして少なくない貴族たちは「アンブロシオの高位貴族から王配を迎えるべきでは」と主張した。
「騎士ならば、王配ではなく女王の犬ではないか」
誰かがそんなことを口にした。エデンのいる場所から誰かは分からなかったが、その独り言は思いのほか響いた。
「ははは。私の夫が犬ならば、お前は羽虫だ。小さいくせにうるさく騒ぐことしかできぬ。羽虫の方がマシだ。私は夫に強い者を望んだだけだ」
エデンの言葉にオリヴィアだけは笑った。
扉の前にいるゴードン団長は「また姫様は……」という呆れた顔を何とか隠していた。
ラースの前でエデンはこんな苛烈なことは言わなかった。隠していたともいえるが、言う必要がなかったのだ。しかし、今は言わなければいけない。
なぁ、ラース。お前のせいだ。そう強く言いたい。
私は優しい王妃になるとばかり思っていたのに、苛烈な女王にならなければいけない。
二人でよく話したものだ。机上の空論でも楽園のような国を作ろうと。一体どうしてこうなったのだ。
「ケリガン公爵もまだ婚約者がいないから皆、王配の座ではなくケリガン公爵の婿の座を狙うといい。彼女も羽虫は選ばんだろうが、どうにかこうにか彼女のお眼鏡に叶うと良いな。ついでに情勢は変わったのだから、婚約を解消したい者がいるのならばまとめて許可しよう」
ほとんどの貴族の婚約はその日のうちに解消された。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます