猫食堂
アイスベジタブル
第1話
「疲れた....もう死んじゃおうかな....」
20歳のときに東京まで上京し、一人暮らしを始めてから4年が経った今、私は仕事へのストレスで限界を迎えていた。
私が勤めている会社はいわゆるブラックというやつだ。毎日3時間以上の残業、鳴り止まないパワハラ上司の怒声、強制参加の飲み会で起こるアルハラ、セクハラなど...
例を挙げるとキリがない。そういった職場環境なので当然ながら同僚や後輩は次々と辞めていった。
私も辞めようと何度も何度も思った。
しかし、未だ実行できずにいる。
なぜなら自分に自信がないから。
辞めたところで自分のような人材を雇ってくれる会社などあるのだろうか。
もし辞めて一生次の職に就くことができなかったらどうしよう。
会社を辞めようと思うたび、そんな考えが頭をよぎった。
そうして4年が経った。もう限界だ。明日会社の屋上に行ってそこから飛び降りたら楽になれるだろうか...会社からの帰り道を歩きながらそんなことを考えているといつのまにか自分の家の扉の前に立っていた。
「はぁ...最期に....美味しいごはんが食べたいな...」
独り言を呟きながら自宅の扉を開ける。
その途端
思いがけない光景が目の前に広がった。
自分の部屋じゃない。いや、そこも確かに気になるところではあるのだが、そんなことより...
「ねこが...歩いてる....?」
そう。猫が歩いていた。4足歩行ではない。2足歩行で。まるで人間のように。それも何匹も。
仕事によるストレスで自分はおかしくなってしまったのだろうか...目を擦ってもう一度見てみたり、頬をつねってみるがしっかりと痛いし目の前の光景は変わらない。よく見てみて気づいたがそこはまるで食堂のようだった。木のテーブルや椅子が並び奥にはキッチンのようなものが見える。そしてあちらこちらでエプロンを着た猫たちが働いている。
私がどうすることもできずに固まっていると、
1匹(1人?)のテーブルを拭いていた三毛猫がこちらに気づいて
「にゃ!?お客さま!!ごめんなさい気づかなかったにゃ〜💦」
とパタパタこちらに駆け寄ってきて話しかけてきた。
(猫が喋った....!?)
猫が喋った。もう訳が分からない。もはやびっくりしすぎて声も出なかった。
そんな私を気にもせずに目の前まで来た猫は続けて喋る。
「いらっしゃいませにゃ!こっちだにゃ〜!」
混乱して動けずにいると三毛猫が肉球で私の手を握り、引っ張って店の奥の席まで連れて行かれ、2人掛けのソファに座らされた。
「こちらがメニューですにゃ〜ごゆっくりどうぞ〜」
メニューを渡され思わず受け取ってしまったが、そんなことより気になることが沢山ある。
「あ...あの!」
「!もうお決まりですにゃ?」
勇気を出して話しかけてみると、三毛猫がびっくりした顔でそう言った。
「この場所って」
グゥ〜〜
「........」
ここについて聞こうとした途端、私のお腹の音が大きく響いた。
......恥ずかしい。なんでこのタイミングなんだ
なんだか気まずくなって手渡されたメニューに視線を落とす。
メニューにはたくさんの美味しそうな料理の名前が並んでいた。
お店入っちゃったし...なによりものすごくお腹が空いた。とりあえず何か頼んでみようかな...
質問は後でしよう。
「じゃあ...焼き鮭定食で....」
「にゃ!焼き鮭定食ひとつ!少々お待ちくださいにゃん〜」
私のお腹が鳴ったことなど気にも留めていない様子で元気よく返事をしてくれた。
三毛猫が去った後、だんだんと落ち着いてきた私は冷静にお店の中を見回してみた。
よく見てみるとこのお店、私がとても好きな落ち着く雰囲気のお店だ。机や椅子、食器棚は全て木でできており、オレンジ色の光の照明が優しく店内を照らしている。
(...それにしてもいろんな猫がいるなぁ)
働く猫たちも観察してみると、三毛猫だけじゃなく、茶トラ猫や黒猫、サビ猫など色々な種類の猫がいた。顔も全然ちがう。さっきの三毛猫はまんまるの目で可愛らしい見た目をしている。厨房にいる頭にタオルを巻いた料理長のような黒猫は鋭い目でコワモテな見た目をしていた。
厨房で洗い物をしているサビ猫、さっきからしょぼしょぼした顔で洗い物をしている...水が苦手なのかな...?
「もういやにゃあ〜...」
そんな様子を見かねて、さっきまで料理をしていたコワモテの黒猫が、洗い物をしているサビ猫の口に何かを放りこんだ。
その瞬間サビ猫の目がキラキラと輝き、ルンルンで洗い物をし始めた。何を食べさせたんだろう。
そうこうしているうちに、さっきの三毛猫が料理を持ってきた。
「お待たせしましたにゃ!こちらが焼き鮭定食ですにゃ!」
猫食堂 アイスベジタブル @ice-vegetable
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