第67話 V舞台劇「姫と四人の家来達」

 人の出会いというものは奇妙なのかもしれない。

 一度出会うことで再び出会うということもあれば、二度と会わないということもあったりするのだろう。竜弥と柊真人の場合は前者であったが二人共後者、つまり今後出会うことはないと見ていたのだ。


「まさかまたアンタとこうして会うことになるなんてな……あのときは悪かったな」


「気に召されることはない。私も前を向かずに歩いていたのは同じことですから」


 柊真人はこの前彼にあったときから感じていたものがあった。

 それは樫川竜弥の口から発せられる言葉の数々の何処かに荒々しさというものが聞こえていたからだ。一番簡単に分かりやすいのは彼の口調なのだが、何故どうしてこうも荒々しいのか気になっているようで少し気になっていると、柊真人の楽屋の扉に誰か触れたような音が聞こえて、中に入って来た。


「先客がいらっしゃったみたいですね。おや……もしやそちらの方が代役のお方ですか?こういう場において一期一会というものは大事にしなくてはなりません。ワタクシは重松楓。Vとしての名前は夕闇ヒミカでございます」


「夕闇ヒミカ……?」


 竜弥は名前に聞き覚えがあった。

 彼がVtuberというものを深く知るために彼女の動画や配信を何度か見たことがあったのだ。彼女は主に動画として投稿しているのは都市伝説系であり主に自分で作ったと思われるものばかりを動画で投稿している。


 配信ではホラゲーやストーリー性の高いゲームなどを主に実況しているために竜弥は配信の方はあまり見ていないことが多いが、彼女のミステリアスな雰囲気にピッタリな配信や動画の内容をお送りしていることが多い。


「樫川竜弥さん……お噂はかねがね聞いておりますよ。何でも意中の女性がいるとか……」


「まあ、居ないことはないですが……」


「なるほど、では……話題を変えましょうか。この度の舞台劇何故に引き受けてくれたのでしょうか?」


 彼女のことを詮索されるのが嫌だということをすぐに見抜いた楓は話題をすぐに切り替えることにしていた。竜弥の隣で聞いていた柊真人も彼がその話をされるのが嫌で彼女が話題をすぐに変えたということに気づき、彼女がただミステリアスな女性ではないということを再確認していた。


「こういう言い方は良くないのかもしれないが、俺はこの舞台を澤原さんから聞いたとき面白そうだと思い参加しました。Vによる舞台劇、最近じゃあ珍しくはないらしいがそれでも色んな人が見に来ることが多いはずです。そういう場で自分をどれぐらいアピールできるのか試してみたいし、こういう舞台劇に参加するVがどれぐらいやれるのか知りたいってだけです」


 多少上から目線な発言であるが竜弥は概ね自分が何を伝えたいのか伝えるべきなのかを説明しを終えると、楓は感激したかのように拍手をしていた。


「素晴らしいです、自分の気持ちをちゃんと口にしてくれたことを感謝いたします。そして貴方の知りたいことはまさに一致団結した我々の演技力で見せれることでしょう。では私は失礼しますね樫川竜弥、柊真人……」


 特徴的な喋り方をする重松楓は樫川竜弥を見てこれは楽しくなりそうだと心の中で笑みを浮かべながらも柊真人の楽屋を後にする。


「一致団結か……おもしれぇ見せてもらおうじゃねえか……」


 竜弥は楓の言葉を聞いて俄然楽しみになっているようで彼は自分の楽屋に戻り、リハーサルを待つことにしていた。





「樫川竜弥……聞いていたより少々野蛮な方ですが面白くなってきましたね」


「樫川竜弥……この前配信で拝見したときはもう少し穏やかな方だとお見受けしていていましたが……」


 柊真人と楓は竜弥の中にいるあるものに違和感を抱いていたのであった……。









「よしっ、今日は竜弥と真波先輩の舞台を見に行くぞ!!」


 準備万端ノリノリだったのは與那城。

 彼女と一緒にV舞台劇の会場を目指していたのはアキラと千里だったがアキラは與那城のことを追いかけるのに必死だったのに対して千里は考え事をしながらも歩いていた。


 彼女が思い悩んでいたのは無論、竜弥のことだった。

 彼は俺ならもう大丈夫だと言っていたが千里には少し不安があったのだ。あのときの竜弥は竜弥ではあったがそれでも不安になる要素が多かったのだ。彼に何か起きなければいいけど……。と彼のことを祈りながらも悩んでいると、後ろから彼女に声をかけてきていた女性がいた。


「京花さん……」


「考え事をしていた顔だな、恋の悩みか?」


「あーいや……そういう訳ではないんですけど……」


 京花は彼女が悩んでいる姿を見て後ろから話しかけ悪戯風に笑みを浮かべながらも彼女が笑顔になれるようにと揶揄っていたが彼女の表情を見るに少し深刻な悩みだということにはすぐに気づいていた。


「九石さん……!?どうして此処に?」


 久々に京花と再会した與那城。

 與那城は事務所に行くことは多かったものの彼女と会うことは少なかった。それもそのはず京花はあまり事務所に顔を見せないことが多いからだ。来ても澤原に対してふざける為にしか来ないことが多く、その度に澤原に「もう帰れ……」と呆れられていることが多い。


「今日は私の同期の一人の舞台だからな……その為に見に来たんだ。香織はちょっとした用事で見に行くことが叶わなかったが」


 與那城の中で一瞬頭の中で疑問が過ぎるがすぐに答えが出ることになる。彼女が言った同期という言葉が間違いなければ京花はVtuberということになるのだから。


 そして、その同期というものが誰を指すのかと言われればという答えも與那城の中で出ていた。


「まさか澤原さんがVとはなぁ……」


 自分の中ではただ生真面目なスタッフさんというのが強くてVtuberという印象が全くなかった。谷崎カオルのこともよくは知らなかった為、本当かどうかの確証はないが與那城視点からすれば全く想像もつかない話でしかなかったのだ。


 また香織がこの場に来れなかったのは今回竜弥が舞台劇に参加するということもあって顔が違って今は竜弥を見れるような状況ではない為、来なかったのだ。


「あ、あの……こちらの女性は……?」


 たった一人話に入れないで困っていたアキラ。

 二人だけ知っている人物で自分は知らないという状態に少し気まずくなりながらも声を上げることに成功する。普通であれば知らない人がいれば知ってる人なのかな?というので留めてしまい、大して仲良くなれることもなく終われることが多いがアキラの場合はそんなことはなかったようだ。


「ごめん、紹介が遅れたな!あの人は九石京花!」


 変わっている人だということは彼には伝えることはしなかった。京花と初めて会ったときしっかりしてそうな人だなという印象は徐々に薄れていき、彼女が二人のことを援護してやればいいと話をしてくれたときはいい人だなという印象を抱いていたが結局変な人というのに戻ってしまっているのが現状。


 因みに千里は京花が若干変な人だということを知っている。

 千里が事務所でカバー曲の収録をしているときに彼女が偶々居合わせて千里の歌声を指導しているときに「吸って、吐いて〜」をオペラ風に言うもので千里は笑うのを堪えていたほどであったのだから。


「あれ千里?みんな揃ってもしかして舞台劇を見に来たの?」


「うん、二人の舞台を見に来たんだ」


 京花の自己紹介を終えた後、会場の前に集まっていた千里達の前に現れたのは風夏だった。二人という言葉を使っていた千里であったが、千里もまた澤原がVtuberだったということをこの日初めて知ることになっていた。


「そうなんだ、私も紀帆が舞台に出るって聞いたから見に来たんだ!アクションとかもあるんでしょ?素早い剣技の同士の戦いとか見れたりしちゃうのかな?楽しみだね!!」


「確かにそうだな、話自体は割とよくある異世界風の世界で剣と魔法の世界。そして一国のお姫様と爺や、そして四人の家来たちの話になるのだからな」


 千里と風夏の話題に入るような形で京花が話に入っていた。

 風夏が目を輝かせて「まさかこんなところで会えるなんて」と言いたげにしているのを見て、京花は「欲しいのだったら後でサインをくれてやる」と言うのだった。


「あれ?もしかしてあの二人知り合いなのか……?」


 自分が想像していた展開と全く違う展開になっていることに気づく與那城。

 こういうときはこの人誰なんだろうと言う的な会話が始まると思っていたのだが全く違っていたのだ。


「あっ!そこの二人自己紹介が遅れたね!!私は宮下風夏!!好きな食べ物はホットドッグ!!よろしくね!!」


「え?あ、ああ……はい!」


 與那城とアキラの会話に入れないオーラに気づいたのか、そんな二人の手を取る風夏。

 太陽な存在感に対してアキラは喋ることが出来ず、ただ風夏という日陰を日なたにするほどの女性に「凄い人だなぁ……」という気持ちを抱いていた。


「みんな、そろそろ開場みたいだし早く入ろうよ!!」


「それも……そうですね、與那城さん中に入ってみましょうか」


「おう!!そうだな!!」


 三人が舞台劇の会場の中へ中へと入って行く姿を千里を見ながらも、昨日の竜弥のことを思い出していた千里。


『千里はそんなこと言わねえ!!言わねえんだ!!』


 まるで地獄に居るかのような声を出しながらも竜弥は泣き叫んでいた。

 好きだった者から否定をされるという悲しみと苦しみに味わされていた竜弥であり、それを聞いてしまっていた千里にとって竜弥という人物とはこれから先どんな風に話をしてあげればいいのか迷いながらも、千里は会場の中へと入って行く姿を後ろから見ていたのは九石京花だった。








『昔ある異国の世界にて一人の姫様と四人の家来たちが居ました。姫様は今日も今日とて執事の爺やと共に王宮で暮らしていましたとさ……』


 姫様役である重松楓はミステリアスな雰囲気ではなく何処か声に美しさというものを人を落ち着かせて聞かせるような声でナレーションをしているのを聞いていて竜弥は先ほどのリハーサルのこともあって特に何かにリアクションをすることなく彼女のナレーションを聞いていると、会場はナレーションの声を聞いていよいよ舞台劇が始まるんだと目の前に映し出されている映像を見つめていた。


『そんなある日、いつものように四人の家来達がお城の庭で楽しそうに雑談をしていましたとさ……』


 映像が映し出されるとそこには四人の家来達が映し出されている。

 いよいよ物語が始まったと会場から見ている人達は映像に釘付けになっていた。


「最近本当に平和になりましたねぇ、他国も我が国に対して戦争を仕掛けることもなく平和な毎日が続いております」


 穏やかな青年風な家来の一人がこの国が今どういう状況に置かれているのかを少しだけ説明している。彼女達が住むこの世界は五つの国によって統治されており最近までは国々で戦争が行われており、それはもう地獄のような毎日が続いていたのだ。

 

「確かにそうかもしれないけどこうやって油断してるとかが一番危ないよ!サネス!!アンタは一番この中で強いんだから期待しているわよ!!」


 普段とはあまり変わらないキャラを抜擢された玲菜であったが、いつも以上に感情を込めてラネスという女性になりきっていた。


「御意、私達に掛かれば姫様は愚かこの城にいる者は必ずや守り通すことが出来るでしょう」


 仕事に忠実といったような男性の家来がこの城のことを守ってみせると誓いを立てていた。姫様の家来である四人は幾多の戦場で生き延びてその上で四人の家来として襲名されたのだ。そんな四人がいれば確かにこの地を守れると踏んでいたのだ。


「でも私たちより強い人達が現れたときどうするよ?そういうときは流石に私でも敵わないんじゃない?」


 少し気だるけそうに話していたのは紀帆役の家来の一人、アミネスという名前の少女だった。関西弁を事実上禁止にされている紀帆にとってこれはなんとも言えない屈辱を味わされていたがなんとか今回の舞台を乗り切ってみようとしていた。


「何言ってるのよ!!アミネス!!それでも守り抜いてみせるのよ!それが私たちの使命なんだから!!そうでしょリネス!!」


「確かに敵わないかもしれませんですが、私たち四人が共に戦えば数十倍の力になるはずです!!」


「おうよ!!」


「御意!!」



 好青年と言った感じの声を出しているのがアレス。

 家来たちがそれぞれ志を胸に勇気を示すために声を上げているなか、アミネスだけが何とも言えない顔をしていたのであった。





 四人の家来の話によるフラグ展開も終えて、いったん暗転をしてから姫様と姫様を守る執事であるお爺さんが王室でのんびりとしているところが見えてくる。


「此処最近は何もなくて平和だわ……。でもこういうときこそ鍛錬を怠ったりしては駄目よね!爺や!!今日も鍛錬を……!!」


「サーシャ姫、今日もですか?私は構いませんが、後でお父様やお母様に叱られるのは私なのですぞ」


 普段のキャラと全く変わらない抜群の相性を見せているのはクローバーこと柊真人。彼のキャラクターにピッタリなキャラであり、一番先に決まったのが姫様の爺や役であった。


 もう一人、夕闇ヒミカはナレーション同様いつものミステリアスな雰囲気はなく明るく元気な声を出しており無邪気さというものをこれでもかと見せており、彼女のことを会場から見ており知っている視聴者は此処まで違うのかと素直に拍手したくなっていたのは観客だけではなく舞台裏から夕闇ヒミカの演技力の高さに首を縦に振ることになっていたのが竜弥だった。


「流石は夕闇ヒミカ……と言ったところか」


「あの人はこういうのを他にもやってるんですか?」


 夕闇ヒミカという人物のことを多少は知っているとはいえ、竜弥はファンと言えるほど詳しくは知っておらず彼女が今までどのような活動をしているのか全く知らなかったのだ。


「彼女は元からこういう舞台と呼ばれるものに興味があって何度か参加しているみたいだ。彼女は物語を作ったり人が作り出した物語というものに興味を示すことが多くてそういうものに参加しては楽しそうに演じているらしい」


 彼女は物語というものに命というものを感じているらしく人が作り出した物語や自分で物語を作り出すということが大好きなのである。彼女がストーリー性が高いゲームを好む傾向があるのにはこういった背景もあったり、ホラゲーが好きな理由としては人が作り出した芸術と言う名のホラゲーというものがどんなものなのか気になるからだ。


『竜弥さん、リハーサル前を始める前に私はこういう舞台で初めての人と一緒に参加することが多いのですが、是非この物語を楽しみましょうね』


 その笑顔は、まるで穏やかな日差しのような優しげでごく自然的なものだった。

 ミステリアスな彼女が到底見せるような笑顔ではないというのが竜弥にもすぐに分かったが、特に何か潜ませているという訳でもないということにすぐに気づき彼もまた「ああ」と返していたのだった。


 これはリハーサル前夕闇ヒミカと竜弥による会話であり、澤原の言っていた言葉に更に説得力を増すような言葉であるということを見抜いた竜弥は舞台の方へ集中しており、澤原はそろそろ自分の番だと言うこともあって集中力を高めていた。


「いいじゃない爺や、私だって一国のお姫様強くなりたいもの!一国のお姫様として!」


「姫様としての覚悟……私も存じ上げております。では姫様……場所を変えて……」


 少しおてんばな姫様が爺やに稽古を付けてもらうことになり、お姫様は嬉しそうに笑いながらも稽古のために剣を持ち、稽古を始めようとしたとそのときだった。突如、城の屋敷内に入って来た一人の男が爺やを斬り付けようとしてきたのである。


「爺や危な……!!?」


 すぐに声を出そうとしていた姫様だったが、全てが凍り付くような邪悪な気配。

 その気配に会場一帯が押し寄せられて彼がかなりやばい存在だということを空気感だけ伝わらせていた。鬼のような演技力に舞台裏から見ている竜弥たちにも凍り付くような視線に冷たさを感じさせている。


「これが澤原瑛太の演技力……!!」


「あの子結構やるねぇ……」


 舞台劇のスタッフが澤原の演技力を褒めているのを見て、あれほどの演技力があれば会場というものに自分の力強さと言うものを味わせることが出来るのかと面白くなっている竜弥。既にもう竜弥は澤原のことを知るためにだけではなく自分もこの舞台を楽しもうとしている自分を見て違和感を感じていた。


「俺は今楽しいという気持ちを抱いているのか……?」


 竜弥はリハーサルのときクローバーから言われたことを記憶から思い出していた。それはリハーサルが始まる前彼が急遽代役になった竜弥に対して放った言葉。


『ロウガさん、この度は急遽な形で代役大変荷が重いかもしれません。しかし、此度の代役楽しんでこそこういう事態を乗り越えられるのではないのか?と私は思います。私の言葉を聞いてどうお考えになられるか分かりませんが貴方様に最大限なパフォーマンスが出来ますことを……心から応援させていただきます」


 竜弥への激励の言葉はこのときあまり彼の中で響くものではなかったが、今になってこの舞台劇を心の底から楽しみたいという気持ちがあったのだ。


「爺や……!!」


 彼の殺気にやられていた姫様は全く動くことも出来ず、ただ爺やの背中が斬られるを見ているだけしか出来なかったのだ。後悔と悔しさを抱えつつも彼女は一国の姫として強さを見せる為に剣を構えていたがその剣先は震えていた。


「あ~あ、折角の剣が震えているよ……。この爺さんもアンタがもう少し早く声を掛けていれば助かったのかもしれないのになぁ?」


「あ、貴方は……いったい!?」


「俺はメイヴィス……お姫様アンタを貰い受けに来た」


「何故私を……?」


「そんなの決まってるだろ?オーガス王国の姫様を攫えば俺は他国に客将として貰うことが出来たり、金に出来たりするからその為に決まってるだろ!!」


 言っていることは完全に小物そのものだが、澤原の演技力が高いせいもあって此処に子供が居れば今頃泣いていた可能性があるだろう。彼が小物のようなセリフを吐いていても怖く見えているのは殺気に近いものを常に帯びさせているからだ。


「姫様……!!此処は逃げなさい!!」


 此処にやって来たのが家来四人衆。

 爺やや見張りの兵士たちがやられていることを聞きつけて、すぐに駆けつけてきたのである。


「四対一か……いいぜ相手してやるよ!!」


 黒いマントを翻しながらも、無表情で四人の戦士たちを見つめているメイヴィス。

 圧倒的な不利な状況においても彼は全く取り乱すことはなく、威圧感だけで四人の家来たちを身震いさせていた。それでも四人の家来たちは諦めることなくメイヴィスに決意を固めて立ち向かうことを決めて、紀帆役の担当が剣を構えてまず一人が彼へと突っ込み始める。メイヴィスは特に微動だにせず、冷徹な瞳で先に立ち向かってきた彼女の剣技を完全に見切っており、彼女がメイヴィスの隙を作り出そうとしていたが全く隙を作り出すことは出来ずにいた。


「これじゃあまるで歯が立たない……!!」


 何度も何度も剣技を蠅を叩くような感覚でまるで相手にもしていないような形で彼女の剣技を止めていた。彼女は此処で止まる訳にはいかないと判断して……。


くうを裂け!!ウィンドブレード!!」


 風を纏わせた魔法の剣技……。

 攻撃範囲を広げることによって、彼への肉体的ダメージを図ろうとする為に二人の戦いを見ていた二人の男性の家来が今度は隙を作るために剣を抜き放ち、立ち向かおうとする。何度も何度も軽く叩くような形で剣技が弾かれてしまい、意味のない状態が続くなかもう一人の女性家来、つまり真波が担当しているキャラが拘束魔法を放ち、鎖で彼のことを縛り付けようとするが……。


「この程度の魔法か……」


「嘘でしょ……!?こんな短時間で解除魔法を!!?」


 彼は拘束魔法を何もなかったかのように拘束を解除させたのである。

 解除できたのは彼が縛られたとの同時に即座に高等魔法である解除魔法を使用したからである。


「もう面倒だ、此処ら辺で更なる絶望を見せてやるよ!おいお前ら!!」


 竜弥は目を瞑っていた、自分の出番がもう目の前に来ていたからだ。

 澤原の気迫迫る演技を見せられて自分もあんなふうに面白いものを見せてたいと……。この舞台劇というもの、自分はただの代役ということで呼ばれており無難に済ませて来ればいいとしか見られていないということを……。観客の奴らもきっとただの悪役の一人としか見ていないということも……。なら敢えて意表を突かせるというのはどうだろうかと、竜弥は少し面白くなっていた。


 メインはあくまで姫を攫った悪役、メイヴィスであるが……。

 此処に今人物が悪役を演じている人物に名を付けるとしたらそれはヒュブリスという名前を付けるのはどうだろうか。彼がこの名前を付けたのには意味があった。ギリシャ関連の彼がというより坦々がやっていたときに偶々ギリシャ語で野心を表す言葉。言葉の意味を込めて名前を付けたこともあってか竜弥は俄然自分の番が待ち遠しくなっていた。


「チッ、仲間を呼ぶつもりか……!!」


 悪役の親玉であるメイヴィスが俺達二人のことを呼びだすと、まず悪役のもう一人であるアンビシオン。こちらも竜弥が心の中で名付けた名前であり、こちらの由来も同じく野心という意味合いである。


「姫様、アンタをもらい受けるぜ!」


 悪役の一人である、アンビシオンは悪役の一人としてかなり良い演技を見せたのと同時に一人の家来と交戦状態に入る。続いて竜弥もこの場に入ることになるのだが、竜弥は何も考えることはなく乱戦状態のこの場へと入り込み、舞台の中央に立つと一歩前に踏み出して、会場全体を鋭い目で見渡した。まるで竜弥の視線が刃物のように感じられたのか、その場の空気が凍りついた。観客たちは息を呑み、椅子の背もたれに身を沈めたまま動けなくなったのがひしひしと伝わってきていた。


「お前達家来が何人束になろうともメイヴィス様には勝てねえよ」


「フッ、その通りだ!!」


 竜弥の気迫に負けじと澤原もまた刀を構え直して演技に力を入れようとしていた。

 竜弥の心が宿った魂の演技を見たこの場にいる全員が素晴らしい舞台にしようと改めて意気込んでいたのであった。







 ◆


『何故だ?何故香織は自分がオタクだオタクだと貶され馬鹿にされていたのにも関わらず何故そうやって肯定しない?』


 肯定なんて出来る訳がない。

 結局復讐という鋭い刃を他人に向けてそれを突き刺したりしたら誰かを悲しませてしまうことに繋がってしまう。私はそんなことを望みたくないし、やりたくもない。あのときの竜弥が竜弥だなんて思えないけど私にはどうしても知りたいことがある。


「琉藍…‥‥聞きたいことがあるの」




「その言葉……今日で二人目だよ……」




「どういう意味……?」








「千里からも連絡来てたの」







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る