第68話 V舞台劇「姫と四人の家来達」 その2

 こういう舞台劇を参加するということは俺は澤原瑛太のことを知るためだけという理由の方が強かった。舞台劇を通して奴が本当に虐待を受けた人間かどうか判断できるかもしれないという気持ちがあったというのに今はどうだろうか……。


 俺はこの場を楽しんでいる。

 自分に楽しむという感情などはなく、ただあの二人に復讐したいという気持ちがただあっただけのはずなのにいつの間にか俺はこういう感情を悪くないと感じるようになっていた。


 そういえば、この舞台劇を出る少し前俺は自分の配信で舞台劇を出るという話をしたとき何故だが嬉しい気持ちになっていたが自分の中で太陽のような日差しが出ていたのは何もあのときだけじゃなかった。





 綾川千里……。

 結局のところ、俺にとってあいつは眩しい光のような存在だと言うことには変わらなかった。俺の傍にあいつが居てくれたから俺は自分でも頑張ろうと言う気持ちにもなれたし、千里ばかりに甘えている訳にはいかないという気持ちになれた。


 何故今千里の話をしているのかと言うと、俺が舞台の方から客席の方へ行くと観客席に千里が居るのにすぐに気づいた。彼女が見てくれているという事実に俺は彼女が聞いていたかもしれい傍であんなことを言っていたのにそれでも舞台を見に来てくれている事実に俺は胸に来るものを感じていると、千里と目線が合ったような気がした。


「俺は結局千里に甘えることしか出来ないのか……」


 自分のことを見てくれている大好きな人間がこの場にいるということが何よりも俺の胸には鼓動を通して伝わっていたし、なによりも「頑張れ」という目線を送ってくれていたが言葉に出来ない正しい感情の喜びというものがあった気がしていた。


 改めて俺の中で彼女と言う大きなものが大切だと言うことがよく分かった気がする。

 見ていてくれ、千里……。俺が最高の舞台にさせて見せるから。数少ない出番かもしれないけどそれでも絶対千里を満足させられるような舞台にして見せる。






 ◆


 剣と剣が何度も交じり合う音が聞こえてくる。

 敵のリーダーであるメイヴィスは各個撃破を相手に狙わせるために自分の配下を分断させたのだ。今現在、ヒュブリスは雷属性の魔法を使う家来、アミネスと戦うことになっていたが優勢となっていたのはヒュブリスの方だった。


「天地を割れ!!サンダーパニッシュ!!」


 一極集中型の雷を自身の手の中で作り上げたアミネスはそれをヒュブリスに放とうとするが、バク転をしつつ攻撃を回避されてしまう。バク宙を披露すると、観客席から大きな声で反応をしている声がチラホラ聞こえていた竜弥。次に、壁を蹴り上げて大きく剣を振りかざそうとするがその攻撃は剣先で弾かれてしまうが、乱撃をやめることはなく両者の攻撃が弾かれて行くなか、互いに剣を交える二人。互いに互角ということに驚く暇すらなかったアミネスに対して余裕な表情で次々とヒュブリスは力強く剣を振りかざしながらもアミネスは食い下がることはなく剣を振っていたがそれでも決定打になるものはアミネスの方にはなかったが、ヒュブリスの方には残念ながら……あったのだ。


「これで終いだ……!!喰らえ!ポイズニック・エンド!!」


 ヒュブリスの背中から蛇が現れて毒息を吐いていた、ヒュブリスが得意としている毒魔法。

 相手の体力をちまちまと奪うという魔法の一つなのだが、竜弥はこれ自体に少し文句ありげだったが言うことはなかった。と言うのも彼は悪役でありながらも炎属性や雷属性の魔法をド派手に使う敵キャラなのかと若干期待していた自分が居たが蓋を開けてみればチマチマとした攻撃方法、つまり敵キャラの中でも一番嫌われやすいキャラなのが本人にとって不服でしかなかったのだ。


「きゃああああっ!!」


 追いつめられているアミネスは蛇から放たれた蛇の息に対して為す術もなく体内に吸い取ってしまう。彼女は治癒魔法を使えた為、すぐに毒を解毒しようとするが間髪入れずヒュブリスは攻撃を入れようとする。


「まだ終わりじゃない、ポイズニック・ブレイド 三刃さんじん!!!」


 ヒュブリスは一瞬姿を消す。

 霧の魔法と共に、一瞬の静寂が間を支配する。アミネスに緊張感が走るなか、ヒュブリスは音もなく姿を現し、鋭い毒の刃を構える。木々が切り裂かれるような音がした次の瞬間、彼女の視界に映ったのは三本の刃が異なる方向から襲い掛かって来る光景。


 右からは、鋭く速い刺突を喉元を抉ろうと迫って来る。鋭い刃先が毒に濡れ、紫色の輝きが霧の中で不気味に光っていた。一撃でも喰らえば、即死も逃れることはできないだろう。油断もできない状況下で左側からも刃が迫って来るような感覚がアミネスにはして一瞬チラッと見ると、ゆっくりと刃が迫ってきていたのだ。その遅さはまだ大丈夫かもしれないと言う油断を誘うような遅さであり、アミネスを安心させるような挙動をしていたのだ。


 そして背後から襲い掛かる第三の刃。その存在すら気づぬほど、無音で忍び寄って来ていた。獲物を殺す、それだけの為に此処まで大がかりな魔法は敵ながらあっぱれとしか言いようがない攻撃であり、アミネスの背中を突き立てんと言わんばかりに迫っていたのだ。


 毒の刃がそれぞれの方向から迫って来ており、真正面からはヒュブリスが刃で喉元を抉ろうとしてきている。彼女は息を吞み込み、全身の筋肉を緊張させ、絶望的な状況に立ち向かおうという決意を固めヒュブリスに突撃を開始した。その突撃が通じるのか通じないのかはこの後分かることになるだろう。







「ブレイクサンダー!!」


 暗転した映像の中で、二つの光が人を突き刺したようにして光っていた。

 暗転が消えていくなか、二つの人影が立ち止まっているようにも見えていたのには理由があった。


「馬鹿な……」


 先ほど二つの光が人を突き刺したように、と言っていたがその突き刺さった人物というのがヒュブリスだったのだ。アミネスは自分にトドメを刺してきたヒュブリスに対して解毒から魔法を転換させてそのまま二つの雷をヒュブリスの体へと炸裂させたのだ。体中には毒の刃が突き刺さりながらも彼女は突撃という選択肢を選び取ったのだ。


「この勝負、私の勝ちだね」


「やるな、だがあの人を甘く見るなよ……」


 体へのダメージが大きすぎたヒュブリスはそのまま倒れて行き、彼の出番は此処で終わるのだった。前もって彼が台本で読んでいた通り、少ない出番だった。




「もう少し出番が欲しかったな……」


 彼が舞台裏に戻って来たとき自分でも気づかぬうちにそんな言葉を言い放っていたことに関しては自分でも本当に全く気付いておらず、不意に出ていた言葉だったのだ。


「お見事でした、樫川竜弥」


「……あの出番だけでお見事でしたと言われてあんまり手応えはないんですがありがとうございます」


 舞台裏に戻って来ると、拍手をしながら自分の出番を待っている夕闇ヒミカがいたのだった。彼女はメイヴィスに誘拐された後、他の部下たちによって何処か別の場所に隠されていることになっている為、一度彼女の出番は終わったことになっていたのだ。


「いやいや、そんなことはないと思うぜ。おじさんも隣で途中まで見てたけどあんなおっかない演技出来ないぜ?」


 頭の裏を掻きながらも「参ったなぁ」と言いながらも笑っている中年の男性。二人の話に入る形で彼の謙遜を否定していたのは彼の隣でもう一人の悪役を演じていた氷室真太郎。


「これに関しては氷室さんの言うとおりだと思われますな。此度の舞台劇、夕闇様から始まり澤原様へと樫川様、伝わるようにして演技が高まっていきました。それに刺激を受けました者達が次々と変わり行きより良いものを作ろうとしていったのです」


「ええ、正しくこれこそが人という者たちが物語を作り出すということ。私はこういうものを見るのが大好きなのです」


 退場済みとなっていたクローバーが氷室の言葉に同調するようにして言葉を放ち、夕闇ヒミカが最終的に言葉を纏めると樫川竜弥はヒミカが言うように人が作り出す物語というものも悪くないという気持ちになっているとヒミカは言葉を続ける。


「それに貴方の良かったところは登場シーンだけではありません。浜羽サユとの緊張感溢れる戦闘シーンはこちらも手に汗握るものでしたよ」


 演技と死闘とも言える戦いの中、サユもまた彼の演技を見て自分の演技というものに集中し高めていきその力を発揮させていたのだ。サユの中でも彼の演技を見てこみ上げるものがあったのだ。


「さーてぼちぼち出番ですかな……!」


 クローバーは待機する為に舞台の方へと向かっていくのを見て、氷室は「あの爺さん元気だよなぁ……」と笑っていた。


「樫川竜弥……いや神奈月ロウガ……。貴方という人間に出会えて中々面白い体験が出来ました。此度の一期一会、正しく感謝しなくてはなりません」


 お礼と言わんばかりに彼女は竜弥に対して軽く頭を下げて少しいいものを見れたという気分になっていたが竜弥は少し周りは自分のことを上げすぎだという気持ちになりながらも舞台劇の方を映像越しに見る。


「竜弥のあんちゃん、アンタもしかして舞台って言うのに興味示したのかい?」


「……こういう世界もあるんだなと思っただけだ」


「ふふっ、そうかい……」


 「素直じゃないねぇ、最近の子は……」と苦笑いをしながらも氷室は映像を見ていた。





「凄い……」


 舞台の上で竜弥の姿を見ていた千里。

 彼がアミネスから放たれた攻撃をバク転で回避をしたり、壁キックで助走を付けて攻撃を試みたりしている姿に千里は自分が全く知らない竜弥の姿を見ているようで新鮮な気持ちになっているのを隣で見ている與那城が少し嬉しそうになって見ていたのには気づいてる様子もなかった。





「これが伝説の聖剣……!!」


 話は舞台に戻り、メイヴィスともう一人の部下であるアンビシオンに負けた家来達が命からがらなんとか城を抜け出すことに成功してある場所はとやって来ていたのだ。


 それはかつて家来達や姫様が爺やから長年言い伝えとして言われてきた場所。聖剣が眠る場所として言い伝えがあったのだ。今ではもうただの御伽噺とかしか信じられていなかったが四人の家来達はその居場所を見つけることに成功したのだ。


「これで我々は姫様を……!!」


「そうは行かねえさ!!」


 英雄の剣をついに手に入れたラネス達一行の前に現れたのはメイヴィスが現れるのだった。


「おいゴミ野郎!!姫様を何処にやったのさ!?」


「さぁな?今頃暗い暗い牢獄にでもいるんじゃねえかな?」


 悪役らしい台詞を吐くメイヴィスが高笑いをする。

 舞台の中で響き続ける彼の笑い声は観客達に早く家来達にやっつけられろと言う気持ちを抱かせていたのはなによりも彼女達が聖剣を手に入れたからである。


「許さん……!!」


「ええ!その通りですよ!!彼の度重なる非道なる行為をこれ以上許すことはできません!!」


「許すことができねえか……なら俺と殺し合ってくれることだよなぁ!?」


 彼の鋭い目つきが刃物のように突き刺さるような感覚を浴びる観客達であったが殺気を帯びた視線を浴びることになっていたのは四人の家来たちであり、舞台裏の映像から見ている竜弥たちにもそれは感じ取ることが出来ていたのだ。


「流石だな……瑛太……」


 後ろから足音が聞こえ先に気づいたのは氷室信太郎の方だった。


「ん?ちょいちょい、此処は関係者以外出入り禁止だぜ?綺麗なお姉さん」


 気づいた彼は入ってきた女性を止めようとしている。

 揉め事かと思って後ろを振り返るとそこには竜弥が知っている人物が立っていたのだ。


「私は澤原瑛太の関係者なんだがな……ほれこれは許可証だ」


「ん……?確かにこれは許可書だな……す、すまねえな姉ちゃん。でも舞台裏まで来るのは勘弁してくれよ……頼むからさぁ」


「いや……その人が舞台裏にいることは俺が許可する」


 許可をすると言う言葉に対して氷室は「はぁ!?お前は代役なんだから許可とかそんなの出せる立場じゃないだろ!?」と言おうとしていたが、それを遮るような形で舞台裏に入ってきた女性が「感謝する」と言う。


「そういえばお前にはまだ名乗ったことがなかったな。私は九石京花だ」


「……樫川竜弥」


 彼はこの前会ったとき彼女の名前を聞くことができなかった。

 長い間彼女と会う機会もなく連絡先も知らなかった竜弥にとっては久方ぶりの再会となるのだった。


「それで流石というのはどう言う意味なんですか九石さん」


「あいつはこういう舞台に立ちたくて色々と頑張ってきたというだけの話さ……。小さい頃……憧れていたヒーローに裏切られたと言う気持ちが今でも消えることはなく心の中に残っているがそれでも自分の夢である誰かのヒーローであり続けたいと言う気持ちの第一歩でもあるのさ」


「その第一歩が悪役ってのはどういうことです?誰かのヒーローにとは程遠い気もしますが……?」


「そう拗らせた物の言い方をするな。捉え方によっては誰かの正義になると言う話になると言うのもあるが、今はそんなことよりも大事なのはあいつが出来るというのを証明する為の第一歩でもあるのさ」


 澤原瑛太は幼少期の悲痛な記憶から誰かのヒーローになりたいという思いが強くなっていた。その夢はこのVという世界で叶えるべく彼は今更なる第一歩を踏み出そうとしている。


 例えその役柄が自分がなりたいヒーローとは違っていたとしても自分が今出来る人間だと言うことを証明する必要があったのだ。


「なるほど、そういうことですか……」


 彼女の言いたいことは充分に伝わった竜弥。

 聞きたいこともなくなった竜弥は黙り込んでいたが氷室の方は何かを考えるようにしてようやく思い出したのか大きな声を出していた。







「思い出した!?アンタ、ラムだろ!?」




「ラム……?」


 氷室が口から出した名前に竜弥は聞き覚えがあった。

 記憶の糸から辿るようにして竜弥が思い出そうとしていると彼の記憶の断片から探し出そうとしていたが誰なのかはすぐに気づくことになる。


 と言うのも千里からラムという名前を耳がタコになるぐらいにまで聞いたことがあったからだ。音楽で辛くなったときは彼女の歌やラジオを聴いて過ごしていたと言っていたほどであり、よく彼女からおすすめされていたことを思い出して、「あのラムか……」となっていた。



「確か名前の由来はジンギスカンが好きで羊は英語でラムだからラムって名前にしていたって言うのを聞いたことあるし、わざわざジンギスカンを食べに行くために北海道にまで日帰りで行っていたという噂も聞いたことがあるぜ……」


「別に構わないが、まるで人をジンギスカン馬鹿みたいな言い方は勘弁願いたいな……」


 樫川竜弥がラーメン馬鹿のように、氷室真太郎がアルコール中毒者のように彼女もまたジンギスカン中毒者である為此処には三人の中毒者が勢揃いしていることになっていた。


「……アンタがラムだって言うなら一つ確認したいことがあるぜ。なんで歌手として大成していたアンタがVtuberになってるんだ?」


 竜弥は心の中で少しばかり「確かにな……」と言う気持ちがあった。

 彼女が歌手として大成していたのは千里からもよく聞いていた為、その彼女が何故Vtuberになったのかと言う話題には気になる内容だったのだ。


「私がVtuberになった理由なんてのはどうでもいいことだろう?……ただ一つだけ言うとしたら私はこのVという界隈で必ず何か変革を齎す者があるかも知れないと思って私はこの世界に入り込んだだけさ」


 どう考えても建前だということが分かる情報だったが、氷室はこれ以上聞き出そうとはしなかった。彼女自身の歌を聞いていたことはあったものの彼女自身にあまり興味がなかった彼としてはこれ以上聞くこともないだろうと判断したのだ。


「変革ですか……?」


 しかし竜弥はその言葉に食いついていた。

 氷室のようにこれ以上聞く必要のないことと判断することはなく、もっと奥深くまで聞いてみたいと言う好奇心があった。彼女のことをよくは知らない為、竜弥は聞き出そうとしていたのだ。


「この界隈は今や停滞していると言っても過言じゃない。大手の箱が強いことは当たり前のことだが、Vが好きと言うより箱が好きと言う人が増えてきたと言うことだ。そんな状況下を打開する何か新しい光が現れてくれるんじゃないかと私は期待して此処に来た」


 竜弥は一瞬不思議に感じた。

 彼女の口から発せられた言葉に違和感というものを感じたのだ。自分で何故達成しないと言うようなこともよりも彼が気になった仕方なかったのは自分の言葉で語っていないと言う感じがしていたのだ。


 自分と同じように偽りの仮面を作り上げてただ上辺だけの言葉を並べているというような気がしていたのだ。


「何故あの人は……」


 確証がある訳がないため、否定することは出来なかったが彼女と言う女性に少し闇のようなものを感じ取った竜弥は自分に近い何かを感じ取りながらも舞台の映像の方へと視界を変えていた。







「こいつやっぱり強いねぇ……!!それにこの闇魔法……間違いないよ」


「俺の一族のことでも言ってんのか?あんな奴らどうでもいいけどな」


 舞台はクライマックスとなり、メイヴィスと四人の家来達の最終決戦へとなっていたが状況は先ほど姫を誘拐されたときと全く変わる様子もなかった。


「この聖剣……てっきり誰でも抜けるようになっているのかと思っていましたが……もしや選ばれし者しか抜くことができないのかも知れません」


「それでも……こいつをなんとかしないとまずいでしょ!!」


「うむ……!!」


 四人の家来達は押されつつあるこの状況でも諦めることはなく勇敢にも立ち向かうことは諦めないでいたが、どうにもならない現状を変えるにはどうすればいいのかを悩んでいた。


「此処までやれたのは少々驚いたぞ。だが、お前達の頑張りも此処までだ」


 四人の家来達の頑張りも虚しくメイヴィスは最後の一撃を放とうとしていた。黒く禍々しい刀身は今にも邪悪な力を放とうとしているのが目に見えており、四人の家来達も目の前で見ている観客達も皆々が最早これまでかと思っていたそのときだった。


 禍々しい刀身に対抗するかのように放たれたのは眩しくも光に包まれた刃そのものの力。その力を身に纏っていたのは姫の召使いである爺やだったのだ。


「爺や……!!生きていたのね!?」


「この老骨……姫様をお守りする為まだ死ぬわけには行きませぬ!!」


 禍々しい刀身と眩しい刀身の二つがぶつかり合う衝撃で四人の家来達すらも近づかないほどの激しい衝撃が発生していた。あまりにも強大すぎる衝撃に高笑いしているメイヴィス。


「何がおかしいのですかな!?」


「悪いなぁ、アンタはどの実力者が生きていて嬉しいと思ってよぉ。アンタは俺と同等ぐらいには強いと見て不意打ちで倒すことを選んだがこの手でちゃんとアンタを殺せることに喜びを感じてるんだよ!!」


 メイヴィスは爺やを生きていたことに対して焦りや怒りを見せるどころか自分の手でちゃんと殺せると言う余裕を見せていたのだった。普通であれば殺さなかったと苛立ちを見せてもおかしくはないこの現状に対して彼は怒りを見せることはなかった。


「なるほど……!ですがこの老体……!!そう易々と倒されるわけには行きませんぞ!!」


「だろうなぁ!楽しませてくれよ!!」


 易々とは倒れないと言う言葉に心が躍っていたメイヴィス。

 好敵手と見たからこそ徹底的に先に潰さなければないと判断していた。判断していたが不意打ちで殺すには惜しいと見ていたからこそ嬉しくて堪らないのだ。


 生きていると言うことに……。

 光と闇、二つの力が混ざり合う、互角の力が互いに反応し合う度に物凄い衝撃がそこには生じている。最早その領域には誰も入ることが出来ないと判断するほどの力だったが、爺やと四人の家来達は分かっていた。この戦い、次第に苦しくなってくるのは自分たちの方だと……。


 メイヴィスはこの状況を楽しんでる一方で爺や達の方は戦いを楽しむなんて余裕は全くなく抗う術を頭の中で四人の家来達が考えようとしたとき、一つの手を考えたのだ。


「爺や殿……!もしやこの剣を抜くことは出来ませぬか……?」


 口数の少ない彼が簡潔的に物を言うと爺やは首を振る。


「無理ですな……その剣の伝承によれば選ばれし者によってしか引くことは出来ませぬ!」


「だから私達も剣が抜けなかったわけね!!」


 ラネスは自分達が何故剣を抜かなかったのか振り返ると答えが今此処に導き出されていたが選ばれし者とはいったいという気持ちになる四人の家来達の中でアミネスが一人答えを導き出したのだ。


「もしかして姫様なら抜けるってことぉ……?だって姫様って王族の一族でしょ?」


「……間違いありません!確かに姫様なら抜けるかもしれません!!」


 確かに王族の血族である姫ならば剣を抜くことは出来るかもしれない。

 しかし、剣が抜けるかもしれないという不確かな情報を得たとしてもメイヴィスが此処を通してくれるかは分からないと言ったのが現状。彼ならば姫に剣などを抜かせることはさせずに此処を通すという選択肢はありえないと誰もがそう判断していたが……。


「おもしれぇ……その剣は確か伝説の聖剣……。その剣が抜ける者を打ち負かし尚且つその姫様を他国に売りつければいい額になりそうだ。いいぜ、その案乗ってやるよ……!!」


「な、なんですって!?」


 突拍子もない彼の言葉に驚きの声をあげたのはラネス。

 無理もないだろう誰もが家来達が出した提案を彼が通すわけのだと……思っていたが彼は爺やを好敵手と見ていたように、彼が生きていると喜んでいたように……。彼は武人としての心を持ち合わせていたのだ。


 自分の立場をコロコロと変えているようにも見えるかもしれないが、彼は自分の状況が劣勢になればなるほど楽しむ気持ちもあり、今まさに自分が絶対的に追い詰められるかもしれないという状況。あわよくば伝説の聖剣を抜いた者と戦い、打ち負かすことが出来るかもしれないというこの好都合の状況に喜びを感じていたのだ。


「おら、どうした……!?早い所姫様を連れてこいよ、場所は此処から川沿いの物置小屋だからな」



「え、ええ……!そうさせてもらうわ……!行くわよアレス!!」


「御意……!!」


 副リーダーであるアレス、そしてリーダー格であるラネスがこの場を離れる選択を取り、残されたアレスとアミネスは爺やの援護として残ることになったのだ。





「少し意外ですな……!」


「なにがだ……!!」


 この場に残った爺やが先にメイヴィスへと攻撃を入れようとしていたが、、メイヴィスは腕甲で攻撃を受け止めながらももう片方の手から闇魔法を発動しようとしているのを見てリネスが炎属性の魔法で龍を作り上げて最大火力で彼のことを引き付けようとすると、彼は魔法の質が高いと判断したのか攻撃対象をに変えようとしたとき、アミネスへと攻撃をしようとしているメイヴィスに対してアミネスが風とアミネスが魔法を合わせ合体魔法を放つ……。


「これで行けぇ!!」


「はぁぁぁ!!」


 間髪入れずにアミネスが風に雷の魔法を纏わせた魔法を放ち、爺やが剣に光を纏わせて一つの閃光のように放つが、メイヴィスは闇魔法で地面を抉りながらも高く宙に浮いたのを見て爺やもまた宙に浮き、彼の剣と自分の剣を一瞬交える。


「貴方が彼女達の提案を受け入れるとは思わなかったという話ですよ」


「言っただろ?俺が伝説の聖剣を手にした人間を倒せば箔がつくってよぉ!!」


 メイヴィスの言い分はそれ以上でもそれ以下でもない。

 ただ自分と同等、それ以上の人間ならば倒してみたいという気持ちがある。それが一国の姫様であろうと誰かに売りつける代物であろうと、強さがあるならば試してみたいという気持ちがあったのだ。




 この後もメイヴィスと爺やと二人の家来達の攻防は続いていた。

 先に言った通り、三人は疲れ知らずのメイヴィスに対して決定打を与えることが出来ずこちらの体力だけが削れていくことになり、徐々に追いつめられているような状態になっていたのだ。爺やは姫が到着するまでにもしもの事態もあり得るかもしれないということを考えて早期決着を視野にも入れつつ立ち向かうことも決めていた、そのときだった。


「ごめん、爺や……みんな……!!お待たせ……!!」


「姫様……!!」


 体力が極限の状態に入りつつあった三人の前に現れたのは姫様。

 戦意喪失に近い状態だった爺やにとってはこれ以上嬉しいことはないと言いたいほどの増援だったのだ。伝説が正しければ彼女という存在は……。


「待っていたぜぇ姫様ァ!!アンタの到着をよぉ!!」


 極上の料理が現れたとばかりにメイヴィスは声を荒げる。

 彼の声は音響越しに響き渡り、嬉しそうにしているのがこっちにも伝わっていたのだ。


「さァ!!見せてくれよぉ!!伝説の聖剣の力とやらをぉ!!」


「ええ、見せてあげるわ!!」


 伝説の聖剣は本来選ばれし者以外が剣を引き抜こうとしても何も起きることはなく、抜く事自体はそもそも出来ないが伝承によれば選ばれし者が剣を引き抜くとき、金色の輝きと共に邪悪な力を打ち払うと言われていおり、彼女は今まさに剣を引き抜こうとしたときだった。


「す、凄い眩しい光……!!」


「これはすごいねぇ……!!」


「金色の輝きとは正しく名の通り……!!」


「凄まじい光だ……!!」


 四人の家来達がそれぞれ反応を示すなか、爺やはただ一人金色の輝きに言及することはなくただただ見守りつつも目を見開き驚いているのが伝わっており、彼女もまた王家の血の引く者だということを言葉を言わずとも伝わっていたのだ。


「これが伝説の聖剣の光……!!すげぇな!!」


 敵であるメイヴィスですら魅了するほどの眩い光。

 映像越しからも伝説の聖剣の光、金色に輝き生命の息吹を感じさせるような光に観客達はこれこそが伝説の聖剣というものをその目でしっかりと焼き付けることになっていたのだ。


「だけどなんだ……この包み込まれるような感覚……!!」


 自分という人間を温かな気持ちにさせていくこの感覚に違和感を感じ始めるメイヴィス。

 まるでその感覚は赤ん坊が母親に抱かれて安心するかのような感覚。彼はまさしく今光の中で包み込まれていたのだが肌や体で自分の中で何かが変わろうとしていることに気づいた彼はそれを拒むために、ある醜い姿へと変わり果てる。





「うぉぉぉぉぉぉっ!!!」


 聖剣の輝きが人を導くような才のあるの光だと見るならば、今メイヴィスを包んでいるのは闇の力を秘めた孤独の力。ドス黒く邪を己の中で解き放ち、その全てを解放させたような姿。額からは角が生え牙は剥き出しになり爪は大きく伸び、肌は大きく剥がれて行き、薄赤い肌へと変貌を遂げる。


 闇魔法を使う者の一族、彼らには特徴があった。





「これってまさか……!!?」


「もしかしなくてもですよぉ……これは間違いなく……」





「鬼神族の力……!!かつては武の神とも呼ばれ、今ではごく少数しか生きてないと言われている者達の力……!!」








「さぁ殺し合おうぜェ!!」


 闇魔法を両手から発動をすると、その力で地面を大きく砕いたのを見て四人の家来達と爺やは驚愕の表情を見せていた。彼が砕いた地面は自分周辺だけではなく家来や姫様たちの方まで粉々にしていたのを見て凄まじい力だと言うのをこれでもかと証明させていたのだ。


「ガァァァッ!!」


 力を解放したメイヴィスが次に放ったのは口からの闇魔法。

 その威力は凄まじく周辺の崖や近くから見えていた川の勢いを激しくさせるほどのものであり、更に爪から一発放たれた閃光を姫様は間一髪で回避をしようとすると、彼女の髪の毛が大きく切り裂かれつつも先ほど粉々になっていた崖から崩れ落ちていた岩々が跡形もなく消滅しており、彼の攻撃の規模の大きさが証明されているのを見て、すぐに決着をつけるべきだと判断した姫様はメイヴィスの下へと行き、金色の光が放たれている剣で彼のことを斬り付けようとするが……。


「嘘……!?」


 斬り付けようとしていた剣の先に見えているのはただの地面だったことに何が起きているのか分からなくなっていたのは姫様。上を見上げるとそこには高く飛び上がり爪先で今にも姫様のことを斬り付けようとしていたのだ。



 彼女には圧倒的に足りないものがあった。

 それは実践経験というもの。平和の国々となった今では姫様は実際に戦いというものを経験したことがなかった。反してメイヴィスは徒党を組んで他人を殺したり誘拐をしたりしていることで戦いということに関しては経験があった。


 なによりも彼は鬼神族……。


「姫様ァァァァ!!」


 大声を上げながらも雷を帯び立たせた自らの剣を放ったのは爺や。

 更に片手には風魔法。もう片方には炎魔法を放ち、彼を止めようとするのを見てラネスとサネスが同時に拘束魔法を発動して彼の攻撃を止めようとしながらも、サネスは口から黒い霧を吐き、メイヴィスの攻撃の軌道を少しでもズラそうとしているのを見て爺やと同じようにリネスもまた同時にそれぞれ違う属性の魔法を放ち、彼の攻撃を止めようとするなか、一人だけ自分の体に雷を纏わせて走り続けていたのは……アミネスだった。


「雑魚共がァァァ!!邪魔をするなァァァ!!」


 拘束魔法をすぐに解除され、黒い霧もすぐに彼の足先の爪により足払いですぐに晴らされていたがその行動の間に少しだけ姫様への攻撃の軌道がズレていたのにすぐに気づいたメイヴィスは爪先から黒い閃光を放とうとしているのを見て、サネスは今度口から油を吐くと手から発動した炎魔法で引火させて爆発を引き起こし、爆風でメイヴィスを吹き飛ばそうとしていたが彼が厄介だと見たメイヴィスがもう片方の爪先から閃光を放ち、彼の肩を打ち抜いたのだった。


「サネス……!アンタ大丈夫わよね!?」


「ぎょ、御意……!!」


 致命傷を受けたものの、動けなくなってしまったサネス。

 まだ口を動かす事は可能であったが、呼吸が荒くなっており口からの魔法を放つことも手から魔法を放つことも出来ない状態になっているのを見て、一瞬躊躇いそうになりながらもアミネスは単身でメイヴィスに対して玉砕覚悟で突撃を図ったのだ。


「行ってェェェェェッ!!!姫様ァァァ!!」


 いつも気だるそうにしている彼女が大きな声を張り上げながらも姫様に攻撃をするように指示をする。メイヴィスの体は彼女の体に纏った雷魔法によって一瞬痺れたようにも見えていたが、すぐに痺れは消えアミネスの顔を掴んでそのまま地面へと叩きつけたのだ。


「うぜェェェ!!うぜえぇぇぇぇ!!」


 先ほどまでの武人のような感情はなく、ただ彼は暴れたいがために暴れているそんな感じだった。彼は理性などはなくただ本能のままに暴れているというのは本当なところだったのだ。彼は貴人族の力を解放したことにより、理性などなくなっていたのだ。


 アミネスが作った隙……。

 その隙すら潰えたようにも見えていたそのときだった。先ほど最早呼吸すら危うかったあSネスが最大火力の炎属性の魔法で具現化させた龍の渦をメイヴィスへと放つ。無限に続く地獄のような業火のなかでメイヴィスは苦しめられることになり、それを見た爺やとアレス、ラネスがほぼ同時による魔法の攻撃によって他属性を付与させた渦を作り上げてたのを見て爺やは頷きながらも姫様へと攻撃を叩きこむようにして言うのだった。


『姫様……アンタまさかこんな状況でも勇気が持てないなんて言わないよね?』


 姫様は力一杯を剣を握ろうとしたとき、ラネスに言われた言葉を思い出す。

 彼女が聖剣をラネスから受け取り引き抜けたとき、自信がなかった。自分はロクに戦ったことすらもないただの姫だというのに彼のことを倒せるのか本当に不安でしかなかったのだ。


 ラネスは心底自分の仕えている姫というものが勇気がない臆病者だと思い知らされていた。

 メイヴィスの力をあの場で見ていたからこそ姫様は恐怖していたのだが、今この場で恐怖などというものは捨てるべきだということを彼女は言おうとしていたのだ。


『待ちたまえラネス、姫様が怖がるのも『何が怖いって言うのよ?平和ボケしてるだけのくせしていざという事態で怖くなるの?それで一国の姫様が務まる訳ないじゃない』


 アレスは姫様が怖がるのも無理はないということを言おうとしていたのを遮りながらも言葉を続けようとするラネス。アレスはサネスが言いたいことも分かっていたが、姫様の気持ちも尊重するべきという気持ちがあった。


 彼女は戦いというものを知らない為、怖がるのも無理はないと……。

 しかし、ラネスはそんな甘えを決して許すことはなかった。


『貴方が一国の姫様であるならば、下の者達の為にも怖がるなんてことはしちゃダメに決まってるじゃない!!それじゃあ誰も付いて来ないわよ!!』


 恐怖というものは誰でも感じる感情だ。

 姫と言う立場であってもそれは変わることはないが今ある標的に立ち向かうと言うときに恐怖と言うものを表に出していれば下の者達は不安になり安心できなくなるだろうということをラネスは教えようとしていた。


 彼女がこれから先一国の姫として成長をするのであれば恐怖と言うものを乗り越えなくてはならない。その気持ちを彼女は伝えようとしていたのだ。


『ラネス……ありがとう……』


 ラネスの思いが伝わった姫様は恐怖と言うものを一旦裏に忍び込ませ、メイヴィスと戦うという心を固めていた。





「行くよ……みんな……!!」

 

 一瞬の出来事のように過去のことを思い出していた姫様。

 ラネスから貰った言葉を胸に彼女は伝説の聖剣を力いっぱい、握り締めると金色の光が輝きを放ち続けていた。まるで彼女の思いに共鳴するかのようであり、彼女の剣から放たれている光がメイヴィスを包み込もうとすると、彼は身動きが取れない状態になってしまっていた。



「これで終わり!!!」







「おのれェェェェェェ!!」


 包み込まれた光の中で抵抗しようにも全く抵抗することが出来ず、彼は彼女の剣から放たれた無数の光が彼の体へと直撃していった。





「勝ったよ……!みんな……!!」


 最初で最後の聖剣での一撃はメイヴィスへと直撃した彼は目を閉じて砕けた地面へと倒れて行くのだった。





「やりましたよ!!姫様が!!ついに……あいつを倒しました!!」


 完全に倒れたことを確認してからアレスは姫様の勝利の宣言をする。それぞれ思い思いの反応を示すなか、姫様の周りに行かなかった爺やとラネスは少し嬉しそうに微笑みながらお互いに見合っていたのだった。




 メイヴィスが姫様によって誘拐されそしてメイヴィスを倒すことにして成功した姫様一行達、四人の家来達はあの日以来またあのようなことが起きないためにも姫様を守るために爺やや兵士たちと共に鍛錬をする日々が続くのだった。


 一方その頃姫様は……。





「なんで俺を……助けた……!!?」




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