第58話 接触
「恵梨さん」
本条恭平は駅へとやって来ていた。
駅へとやって来ていた恭平は八十科恵梨に呼ばれて此処まで来ていたのだ。
『恭平……昨日のアレは少しやり過ぎ』
二人は企画配信を終えた後、反省会をするかの如く二人だけの通話グループに入り会話をしていた。
『恵梨さんだって恥ずかしいこと言ってたじゃないですか』
『なんか言った?』
『なんでもないです……』
恭平は彼女だって自分のことを可愛いだの泊めたのに泊めてないなどを連呼しながらも大声でハクやサユに対して抗議の声を上げていたのを恭平の記憶の中ではかなり新しいものであり、恥ずかしい思いをさせられることになった出来事の一つだった。
彼女にとって自分は初めてのVとしての仕事を受けた子でもあった為、少し過保護気味になってしまうのは恭平も承知の上だった為、あの企画を参加するとなったとき嫌な予感が少ししながらも「恵梨さんは大人だし自制が効くだろう」と思っていたのが判断が甘すぎる結果となり、最終的にはサユからは……。
『なんか親馬鹿を見とるみたいでこっちが恥ずかしいわ』
と言われてしまっていた。
企画には優勝したものの大事なものを失わされることになってしまった今回の企画、彼にとっても彼女にとっても恥ずかしい思いをさせられることになり無口で歌が上手く絵が美味いNoAの評価は若干落ちていたのであった。
『……はぁ、まあ私がやり過ぎたのも認めるけどさ』
『僕は意外な一面を見せれて良かったと思いますよ?恵梨さんというかNoAさんって視聴者の間では無口で何考えてるのかよく分からないって言われてることもあったんですけどこうやって僕はちゃんと色んな人に恵梨さんのことを知られて良かったと思いますよ』
『そういう問題じゃない……』
溜め息を吐きつつも恵梨は頭を悩ませていたが彼に励まされるような言葉を言われたのは悪い気はしなかった。ただ今後イラストを投稿していくうえでイラストより本人の方が味があるなんて言われたりしたらちょっと面倒くさいと感じていた。
「ほらかお……ハクのところに行くよ」
電話で謝らせるというのも一つの手だと見ていた彼女だったが、彼女が香織に対して謝罪の連絡を入れたらところ「明日ガチファン君連れて来てよ」と言われてしまったのだ。香織に彼を会わせるのは全然構わないけど滅茶苦茶恭平が弄られそうだから自分が守ってあげないと意気込んでいたが……。
「こういうところが親馬鹿って言われるのかな……」
都内を歩いているためバイクを使うことはなかったが彼女は昨日のあの発言に対して「仕方ない奴」と思い出し笑いをしながらも彼の隣を歩いていると恭平が「どうしたんですか?」と疑問そうに聞くが「なんでもない」と彼女は首を横に振りながらも今恭平といる時間が悪くないと息を吐いていた。
「そういえばどうしてそこにいるって知ってたんですか?」
「香織はいつも朝のモーニングを食べに来るために高校時代から通っている喫茶店にいるの」
仕事ギリギリな時間までいつも食べているから急ぐようにして食べているときもあるらしいけどそこまでするなら食べないでいけばいいのに……。と彼女は呆れていると喫茶店に辿り着くのであった。
「ほら私も一緒に謝りに行ってあげるから行こ?」
「……うっ、はい。すみません、恵梨さん」
喫茶店の中に入るのが億劫になっている彼に対して励ますようにして彼女は中に入るように言い、彼らは喫茶店の中に入っていくのであったがそれを眺めるようにして見ていたのは黒髪のウルフヘアーの女性だった。
「なんや?聞き覚えのある声やな」
関西弁が特徴的な彼女は二人が喫茶店の中に入った後首を傾げた後に彼女もまた喫茶店の中へと入っていき、中に入ると当然店員さんが「いらっしゃいませ」と言ってから「何名様ですか?」と言われてしまい、彼女はただある人物に謝りに来ただけの為、彼女は一瞬困り果ててしまうが彼女は「先客がおるんや」と言うと、店員は「偶にあるパターンか」と思ってそれ以上話しかけることはなかった。
彼女が店内を見ると、恵梨から聞いていた彼女の特徴、オタクっぽくて早口なところが目立ち五月蝿いのが香織だということを教えてくれていたがなんの情報にもならなかったが彼女が最後に言っていた髪色の特徴が手がかりにしてあまり視力が良くない目で彼女は探し出そうとする。
マナは彼女のことを知らなかった為、前に二度お世話になった恵梨に彼女のことを聞いていたのだ。
「あの人やな……多分やけど」
彼女から聞いた特徴通りの人が優雅にコーヒーを飲んでいる姿を見えていた。どうやらまだ居てくれたみたいやなと安心した彼女は香織の下へと行こうとしていたが目の前には黒髪の男の子がいることに気づき、彼女は先客がいることに気づき急ぐようにして彼女がいるテーブルへと向かう。
「ん?高校生……?」
一瞬ある人物のことを過るが彼が此処にいるわけがないと首を振り、彼女は香織の下へとたどり着いて彼女は頭を下げる。
「「誠に申し訳ありませんでした!!」」
ほぼ同時に謝罪の言葉を述べた二人……。
一人は先ほど彼女が見つけた高校生の本条恭平。恵梨に一応謝っておいた方がいいと言われて彼は此処までやって来ていた。
もう一人……。
彼女の名前は神木坂紀帆。彼女が此処まで来ていたのには理由があった。同期である神代マユに「あれはやり過ぎだよ」と言われてしまい、彼女は色々考えた結果彼女に謝りに行くことを決めたのである。
即決即断、それが彼女の良いところでもあるが彼女の行動の早さは色んな人を驚かれてしまうことが多い。その為、今回もまた……。
「えっこわっ……」
香織もまた思考を早めながら彼女が神木坂紀帆ということを知ってしまう。香織はどうやって此処まで紀帆が来たのかを考えると「えぇ……こわっ」となってしまっていたようだ。此処まで来るのに彼女は当日、新幹線の券を購入して此処まで来てすぐに自分に謝りに来たのを考えると恐怖心があったのである。
「え……えっ……?もしかして……」
恭平が隣にいる人物がなんとなく誰なのか気づいており、驚きの声を出しつつも指を指していた。自分が大会に出場して以来ライバルとして君臨し続けていたのを見続けていたからこそすぐに彼女が誰なのか気づいていたのだ。
「なるほどのう……名はなんや?」
「本条恭平……そっちは?」
「神木坂紀帆や」
これまで二人が共に戦い続けていたからこそ二人の間にはすぐに納得という言葉が頭に浮かんでいた。目の前にいる人物が何者なのかというを確信を得ていたのだ。
「えーっと人が優雅に珈琲飲んでるときに目の前で友情芽生えないんで欲しいんだけど……っておーい聞いてる?大体神木坂は私に謝るためだけに此処まで来た行動力エグ過ぎない?即決即断にも程があるでしょ」
と言うかこの二人……。
自分が言えたことではないがVとしても現実としても性格全く変わらないな……。と珈琲を飲みながらもまるで空想世界の人間がそのまま出て来たと言いたそうにしていた。
「まあこの後は神……宮下風夏と落ち合う約束なんや」
「なんか普通の名前だね」
「いや……それ貴方が……あーいや普通じゃないか」
「んー?なにその言い方?滅茶苦茶含み混じられててそうじゃん」
姫咲と言う苗字があまり他では見ないような苗字をしていることに気づいた彼であったがあまり怒られないような言い方をしていたつもりだったがそれは香織の逆鱗に触れるのであった。
「香織、此処行きつけでしょ」
「命拾いしたなガキンチョ」
「はぁ……」と溜め息を吐きながら恵梨は香織を止める。アニメや漫画の世界だったら今すぐにでもやられそうな台詞を吐く香織に対して笑いそうになっていた恭平と紀帆。
「ごめん恭平、紀帆……香織はスルースキルそんなないから」
「見ててそんな気はしてました」
「ウチもそう思ったで」
「んん!?」
恵梨の言葉に頷くようにして連携攻撃を繰り出す香織に対して血管がキレそうになりつつも我慢をする香織であったが彼女は年下相手にキレるのは良くないと自分の心を落ち着かせながらも「来年私は22歳になるんだぞ。こんな子供相手にキレる訳ないじゃん」と堪えようとしていたが……。
「まあそんな感じな奴だけど良かったら相手してあげて、絡んでくれるの後輩と同期しかいないみたいだからさ」
「恵梨は私のお母さんか!!」
確かに私はあまり外部の絡みというものは薄いけども……!!そこは反論できないけども……!!とグッと堪えていた気持ちがどんどん堪えるのが無理そうになって来ている香織。最近はああいう企画で外部との繋がりも出来つつあるんだよ……!!と反論したくなっている香織。
「はい気が向いたら!」
「ウチも!!」
「おいおいあんま調子乗んなよキッズ共……!」
多種多様な顔を見せてくる香織に対して恭平と紀帆は楽しくなりながらも立っているのも店員さんに迷惑だろうと思い、三人は香織がいるところに座り始める。
「ねぇ恵梨……この二人に奢るのは私は別に良いけど恵梨に奢るなんて一言も言ってないんだけど?」
「え?奢るんじゃないの?」
「ナチュラルに奢ってもらって当然みたいな言い方やめてくれる!?」
確かに二人に奢って恵梨にだけには奢らないと言う状況はおかしいかもしれないけども……!と微妙に納得されつつも微妙に当たり前だと思っているところが腹が立つと感じていた。
「まあいいや……こんなことで腹を立てても仕方ないし……それより……二人のことだよ」
「二人のこと……?」
恭平はなんのことだろうと疑問を感じていたが、恵梨は香織が何を言いたいのかすぐに理解していた。
「っそ……恵梨と恭平のこと!二人共あんな仲良かったの?」
「それはウチも感じたやで!恭平があんなに恵梨さんと仲良いとはなぁ……」
「この子が高校入ってから独り暮らしを始めたって言うから一人じゃ不安なこともあると思うから私が手助けしただけ」
とは言え少し自分でもやり過ぎ感は否めないのかもしれないと感じていたのは彼がパソコンの機材が足りないと言われたときに使わなくなったのをあげたりしていたこともあったり、彼がゲームの大会に出る度その都度大会メンバーとの集合絵を投稿したり本番当日は何もなければ必ず見に来るほどなのである。更に夏休み暇そうにしていた彼を旅に連れて行ったのも彼女であり今年の冬休みもそうだったのである。
「普通ならこんなことしないもんね……」
一度他の絵師に言われたことがあったNoA。
他の絵師に比べてVとの距離感近いよねと……。何の嫌味もない言葉だったからこそ彼女には響いていたのだ。
「恵梨どうしたん?まあ仲がいいのは良いことじゃん。悪いよりは全然さ」
「確かにそうだね……」
悪いよりは全然マシ……。
その言葉もまた彼女に響いていたが他の誰かが知ることはなかった。
「それよりさ二人はこの三月に本気でかき氷を食べる訳?はっきり言ってトチ狂ってるとしか言いようがないよ?」
「いやこの寒さに食べるかき氷が一番美味いんや!!寒さに耐えながらも食べる氷の冷たさ!シロップの味わい深さ!これが最高なんや!!あの子も寒い中食べるのはない言うやけど私からすれば年がら年中ホットドッグ食べてるあの子の方が意味わからんのや!!」
恭平が紀帆の言葉に頷きながらも「そうそう」と言っているように聞きながらもホットドッグの話をしているのが聞こえて来て彼女と仲がいいんだなと改めて実感していると、前から誰かが歩いて来ている音が聞こえて来ていたのに気づいて彼はそっちの方向を見るとそこには竜弥と千里が立っていた。
「お?今世紀最大のカップルが来たで」
「竜弥さん!!」
恭平と香織が反応を示すなか、竜弥が首の裏を掻きつつもう片方の手で恭平に手を振っていると、竜弥と千里の後ろから一人の女性が立っていた。
「ようやく来たんやな、また人助けでもしてたんやろ?」
肩にまで伸びている黒に近い茶髪の彼女。
恭平は彼女の風貌を見るだけですぐに分かった。明るく元気を象徴するように緑色のニットに紺のジーンズ……。特徴的なマスコットの顔が描かれているバッグを肩には下げていたのを見て彼女が何者なのかすぐに分かった。
「うん、そんなところだよ」
彼女こそ宮下風夏なのだから。
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