第41話 貅コ繧後◆謔イ縺励∩

「みんなおはよう」


 『おはよう』

 『お疲れ様ですNoAの姉貴!』


 机の上に置いてあるコーヒーを一口飲んだ後に私は配信を開始する。

 マイクに声を吹き込んでおはようと挨拶をする。配信を始めた頃私はどうしていいかも分からずあたふたしたものだ。周りの絵師さんたちが配信者として活動しているのを見てどうせなら私もやってみようと始めたのがきっかけだった。

 あの頃は何もかも手探りでマイクがミュートだったり音楽の方がデカかったりすることが多くて色々と大変だった。今となっては慣れたもので軽々と配信をこなしている。

 因みに私が姉貴と呼ばれているのは本気で極道の女だと思われているからである。配信荒らされたらエンコ詰めろだの漁船行けだの私自身が地域に密着して祭りに参加してるとか言ってたらそりゃそうなるよね。こうやって極道みたいなことを言い出したのは元々私が香織から偶々紹介してもらった極道のゲームにハマったと言うのもあるけど……。私はその中でも虎の刺青を入れた人が好きでその人が言っていた所謂ホルモン理論と呼ばれるものが好きだ。

 焼かれてこそ価値がある。私はその言葉に共感したしなるほどとも思っていたからこそその人のことを頭の中で先生と呼んでいる時もあったほどだ。


 頭の中で考え事をしていると手の方は順調に動いていたのかはパソコンの画面を見るとイラストはいい感じになっていた。


『恵梨は大人になったら絵描きさんになるのかな』


 今になってお母さんの言葉が頭の中で思い出す。

 私は小さい頃から絵が描くのが好きで自分の世界を創り上げるために絵を描くことが多かった。風景とか背景とかはまだ子供の頃は苦手だったから。もっぱら人物絵や動物の絵を描いていた。動物は人が大好き過ぎてもう野生には帰ることが出来ないハスキーが大好きだったからハスキーと人が写っている絵を描くことが多かった。楽しそうに雪の中を駆けたり暖房が効いた部屋の中で飼い主と一緒に寝ている姿を描いたりして想像の世界が好きだった。


 『一曲お願いしてもいい?』


「いいけど……皆私の歌好きだね」


 『マジでいいの!?ありがとうございます!』

 『姉貴の生歌滅茶苦茶いいじゃん』

 『分かる』


「そう……なんだ、リクエストある?」


 私は先ほどコメントをしてくれた人からリクエストを募る。

 すると、リクエストを受けた曲を私はギターで弾きながらも歌い始める。





 寄りによって……この曲か、という気持ちが強かった。

 この曲はボーカロイドと呼ばれている所謂、初音ミクとかそういう系統の音楽であり『GUMI』というキャラクターを知らしめた曲の一つでもある。何故私がこの曲を歌うのが少し嫌だったのかと言うと、別に嫌という訳じゃない。けれどこの曲は二つの人格を表す曲となっているのだ。

 それは学生時代の黒歴史を思い出すからとかそんなのとは全く違くて私は歌うときはある程度曲への解釈を深めようとしている。曲への理解を深めて感情を出しやすくする為だ。例えばアニメのOPEDとかなら物語に触れて見てどんな曲なのかを理解しようとすることも多い。ひと昔前のアニメの曲は全く沿ってないことも多かったりするけど今はとりあえず置いておこうかな。



 私がこの曲を歌うのを控えていたのはこの曲のMVが鏡写しをされているような気分になってしまっていたのだ。MVに登場する二人のGUMIが自分の心の闇を表されているような気分になっていたのだ。あんまり「これ私のことだ!?」みたいなのは流石にうーんって感じだがどうにも誤魔化すことが出来ない感情がそこにはあって私はこの曲を練習することを控えていた。

 学生時代は馬鹿みたいに聞いていたボカロ曲の一つだったのに……。


「どう……だった?みんな……」


 気づけば私は曲を歌い終えていた。

 手を見るとギターから離されていて私の手は腰辺りでぶらぶらとしていた。


 『相変わらずいいね』

 『ギターアレンジにNoAの姉貴の歌声最高にカッコ良かったよ!』

 『元々ギターが合う曲のもあって最高だったよ!』

 『リクエストありがとう代 ¥1000』


 みんな、いつも私の歌声を褒めてくれる。

 イラストレーターで歌も歌えて楽器も弾けるのが珍しくて下手でも褒めてくれるのかもしれないけど私の歌声なんて千里に比べれば全然だというのに……。千里の方がもっと凄いのに……。


「ありがと、みんないっつも……優しいね」


 私は机の上に置いてあった水を飲みながらもコメント欄を眺めていると、こんなコメントが見えてくる。



 『今日体調悪そうだけど大丈夫?』


 いつもならただの杞憂で流していたただろう。

 昨日の香織に言われた言葉……。琉藍は響くわけがないと言っていたが私にはしっかりと響いていた。

 実際、私は竜弥のことを……。







 ◆



「此処か……」


 俺は今恵梨がいるマンションまで来ており、俺は香織から教えてもらった部屋番号を入力してインターホンを鳴らす。


「やっぱり出てこないよな……」


 インターホンを鳴らすが反応がまるで全くなく、透き通った空気のように空白が続いていた。正直思っていた通りだと言うのが反応である。家の前に来たとしても反応がないのはなんとなく想像していた。どうせ家にはいないだろうとなんとなく気づいていたからだ。


「兄ちゃん、どうかしたんか?」


 俺がどうするかと考えていると後ろから此処の住人だと思われる人が話しかけてきた。


「あーいや親友に会いに来たんですけど生憎留守だったみたいで」


「ありゃそれは間が悪かったな兄ちゃん、そうだ俺も此処開けて入るから一緒に通って行くかい?その後に玄関の前まで行ってインターホン鳴らして確認して見たらどうだい?」


「それは流石にどうかと思うんでやめておきます……」


 それも一つの手かもしれないけどそんなことをすれば恵梨を怒らせるに違いない。此処は一旦家に入る以外の選択肢を考えよう。俺は恵梨の家の前を出て住宅街の方を抜ける。

 その間、恵梨との日々のことを思い出していた。

 あいつはあまり喋らないタイプではあるが表情には出やすいタイプだった為、友達自体は割といたのだ。千里も俺もあいつにはかなり助けられた。高校生のときの水族館デートだって恵梨にどういう場所に行けばいいのか聞いて教えてもらったのだから。あいつは俺達の関係を応援してくれていた。


 だからこそなのだろう、俺が千里のことを裏切ったと恨んでいるのは……。

 こればかりは仕方のないことなのだ。全部俺が悪いのだから……。


「恵梨と話すことが出来ない以上、一旦撤退するか……」


 RINEに連絡を送っても全く反応がない。既読が付くこともない為、無視されているのだろう。分かっている、俺はされて当然のことをした。だけど俺は恵梨と一度だけでいいからちゃんと話したい。謝りたいんだ、恵梨から千里を任されたようなものなのに俺は裏切ってしまったのだから。





「とりあえず帰るか……」


 恭平に俺に任せろと言ったものの、此処で帰ることになってしまっている自分が情けなくて仕方ないが俺は駅の改札口の前に来てスマホをポケットから出す。帰ろう、改札口を通ろうとしたときであった。

 後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきたのだ。





「竜弥?」


「……亜都沙?」


 声が聞こえて来た方向を見ると、薄茶色の長い髪の女性が目に入る。

 俺はその女性を見て目を疑う。彼女は確か京都出身のはずだ。どうして東京に……。俺は改札を抜けようとするのをやめると、後ろにいた人に若干戸惑われて「すいません」と言いながら亜都沙の方へ近寄る。


「どうして東京に?」


「ちょっとした用事で京都から東京に来たんや」


「そうだったのか……」


 まさか恵梨に会いに行こうと思っていた帰りに亜都沙と遭遇するとは思わなかった。東京で会うのは誘わない限りはあり得ないだろうと考えていたがよくよく思えば何か用事があれば東京に来ることもあるのは間違いないか……。


「竜弥、この後空いとるんか?」


「俺は空いてるけど……亜都沙はいいのか?」


 俺は遠慮しようとしていた。

 わざわざ東京に来たということはそれほどまでに重要な話なのだろう。


「ええよええよ、用事は今度開催するうちの3Dお披露目の件で話し合ってたんや」


「3Dお披露目か……いいな」


 俺もいつかは3Dを持てるようになれるのだろうか。

 ああいうのは企業だとチャンネル登録者数何万越えでとかいうのをよく聴くけどうちの事務者は確か十万人で3D決定されるはず。今俺の登録者数は七万人だから後三万人か……。こう考えると天井のように高く感じてしまうな。


「なに他人事みたいに言ってるんや?うちは竜弥のことゲストとして呼ぶつもりやで?」


「俺も……?」


「当たり前やろ」


 俺は少し嬉しくなっていた。亜都沙には気づかれないようにしていたが頬が緩んでいたような気がする。俺は嬉しくなっていたのだ、亜都沙は本当に俺のことを仲間だと認めてくれているんだとそんな気がしていたからだ。





「そういえば秋葉原に行きたいって言ってたな」


 此処は秋葉原。

 昔とは違ってかつてのオタクの街という感じは薄れつつある。今ではサラリーマンだったり、所謂コンセプトカフェ……コンカフェというものが目立つようになってきている。


「竜弥はああいうのは興味あるん?」


「ああ、いや……俺は別に……」


 香織はこういうのも好きだから一緒に行こうと高校時代連れていかれることはあったり、何気に琉藍もこういうのに興味があるのか強引に連れてかれたりしていたこともあった。ああいう場所の空気感というものはああいう場所でしか味わえないから楽しいっちゃ楽しいのではあるのだが俺にはあんまり合わなかった。

 ただまあ距離感が近い感じで話してくるところは正直危なかった。危うくハマるところだったかもしれない。


「顔に興味なくはないって書いてあるで?」


「なくはないけど……通い続けたいとかそういう気持ちはないからな」


 どうやら最後の方に思っていたことが顔に出ていたようだ。


「ほんまか?」


「な、ないからな……!!と、とにかく……着いたぞ!!」


 自分の顔に出ていたことを誤魔化そうとしていたが、声はかなり動揺していたが亜都沙が行きたいと言っていた場所に辿り着いて俺は指をさしながらも「着いたぞ」と言う。周りの人にはきっとなんだこのオタクと思われているに違いないだろう。

 羞恥心を感じながらも俺は亜都沙に抗議するような目で見ると亜都沙は笑っていた。くそっ、とっとと店の中に入って温まってやる……。





 亜都沙と俺が入った店はオムライスが美味しいとよく言われている店だった。

 此処は確か俺も聞いたことがある。此処のオムライスはスプーンでオムライスに触れようとするとプリンのように物凄くふわふわとしていると……。確かこの情報は恵梨から聞いたんだっけ。


「恵梨……」


 オムライスを食べている最中、俺は恵梨のことを思い出していた。


「どうかしたん?竜弥?」


「あっ……いや……その……亜都沙はこの前のこと聞いたりしないのか?」


「この前のことって?」


「俺が炎上したこと……」


 恵梨のことを相談しようと思ったが俺は何処か亜都沙に対してこのことをはぐらかしたいと言う気持ちがあったからなのか他のことを聞いてしまっていた。これは少し気になっていたことを聞こうとしていた。


「うちは信じてなかったで?竜弥がそんなことするわけないやろってな。どうせ誰かのことを庇ったとかそんなところやろ?」


 本当のところを当てられて俺は驚いていた。

 いや、これに関しては恭平と同じようなものだろう。俺のことを信頼してくれていたからこそ俺がそんなことをしないと信じてくれていたのだろう。


「信じてくれたのか?」


「当たり前やろ?仲間やし、友達やからな」


「友達……か」


 仲間か……。

 やっぱりこういうものはいいな。友達だとか仲間だとか俺はこういうものを得ると色んな意味で人間だということを実感できる。嬉しいんだ、自分のことをそんなふうに言ってくれる人がいることを……。


「でも庇う必要のないことを庇ったのは感心せえへんけどな?」


「それは……悪かったよ」


「別に気にしとらんからええよ。んで、聞きたいことってのはそれだけなんか?」


「……亜都沙」


 こういうところだろうな……。

 俺が亜都沙を信用しているのは……。彼女ははっきりと物を言ってくれるからこそ俺は話していて楽になれる。多少強引だけどお節介なところも俺は好きだ。

 スカイツリーのときにそれを俺は実感した。


『それが間違ってるって言いたいんや。仲間に出会った日数もクソもないやろ』


 あのとき、たった一ヶ月で仲間になんかなれる訳がないと思っていたけど亜都沙の言葉で俺はハッとなった。仲間というものに日数なんて関係なんて教えてくれたあのとき……。あの言葉があったからこそ與那城と和解できたも同然なんだ。


 やっぱりいいもんだな、仲間は……。

 俺は拳をゆっくりと握り締めて恵梨のことを相談しようと決めて声を出す。


「亜都沙は……昔から仲が良い親友のことを裏切ってしまって謝りたいとき、どうすればいいと思う?俺は素直に謝るべきだと思うんだけどそいつは俺の電話も連絡も見なかったし、家に行っても居なかったんだけどそれでも俺はアイツに謝りたいし烏滸がましいのは分かって居るけど俺はアイツとかつてのように話してみたいんだ」


 最後の言葉は心からの本心であった。

 自分勝手なことを言っているのは分かっている。恵梨が許してくれるかも分からないのにこんな発言をするべきじゃないのも分かっているつもりだ。それでも俺はかつてのようにあまり喋らないけど笑っている彼女の姿を見たいのだ。


「なんや、ちゃんと答えは決まっとるんやないか。それに……スカイツリーのときの竜弥はもう居ないようやな」


「え……?」


「今の竜弥は自分が何を為すべきなのかよく分かっとる。その子との間に何があったのかは知らんけど竜弥に諦めたくないという気持ちがあるのならその子にもきっと想いは伝わるはずや」


 俺の想いが伝わるか……。

 スカイツリーのとき俺は恭平や亜都沙に情けないところを見せてしまった。家族というものに対して過敏な俺はどうにもあれを見て止まることが出来ず頭に血が登っていた。あの子と別れた後、俺は疲れたように椅子に座り込んでいた。あのときの自分から成長できているのだろう。

 この成長はきっと……千里や恭平達のおかげだろう。あいつらが居てくれたから俺は……。俺は変わることが出来た。



 だったら今度はその変わった俺の力で恵梨を……。


 俺は拳を握り締めて、急ぐようにしてオムライスを食べ始める。亜都沙、ありがとう。俺は自分が成長出来ているのだと実感できた。この空白の二年間、俺はずっと後悔し続けながら生き続けていたけど今は違う。千里に誓ったもう離れないと、恭平に言われた罪を背負って生き続ける。亜都沙に言われた想いは伝わるという言葉……。

 俺はスプーンでオムライスを口の中に入れて食べ続け完食したのを見てから水を飲む。


「そんなに急がなくてもオムライスは逃げへんで?」


「だな……」


 亜都沙は俺の食べっぷりを見ながら笑っていた。

 気合を入れる為に勢いよく食べていたのだが確かに少し急ぎ過ぎたような気もする。こればっかりは笑われても仕方ないな……。


「んで?これからどうするんや?その子と会う手段も連絡する手段も完全にない訳なんやろ?」


「ああ……それなんだが……」


 俺はバンドメンバーの誰かに恵梨に連絡してもらって何処かに呼び出そうと考えていた。千里はまず恐らくだが恵梨は若干ではあるものの恨んでいる可能性が高い。香織はああ見えて少しキツいところがあるから呼び出すときに返って反発させてしまうかもしれない。


 なら、此処は琉藍に頼るしかない。

 俺はスマホから琉藍に電話をしようと耳にスマホを近づけようとしたときであった。





「恵梨……!?」


 店の外を窓からチラッと見てみると、そこには茶髪の女性が見えていた。それだけでは恵梨とはとても判断がつかないがインナーカラーにピンクが入っているのを見てすぐさま恵梨だと気づく……。


「悪い、亜都沙!代金此処に置いておくからこれで払っておいてくれ!!」


「え?ど、どうしたん竜弥!?」


「会わなくちゃいけない奴が出来た……!」


 俺は慌てて店を出てすぐに恵梨が歩いて行った方へと向かった。

 恵梨の背中は見えているはずなのに遠く感じてしまっているのは俺が内心恵梨に謝罪をしてその後に何を言われるのかを恐怖しているのからなのかもしれない。きっと恵梨は俺の謝罪を受け入れてくれないだろう。





 それでも俺は……。



 悪いことをしたとはっきりと言えるからこそ彼女に謝りたいんだ。





「恵梨……!!」


 恵梨の背中にようやく追いついた俺は彼女の肩を手で軽く掴む。


「恵梨……俺は謝り……!?」


 俺は恵梨に謝ろうとしていた。

 していたはずなのに体から力が段々抜けて行った。自分でも何が起きているのか全く理解できなかった。恵梨が何かしたという訳でもなく周りの人々が何かをしたという訳でもない。


「なんだ……これ……」


 視界が徐々にぼやけていく……。

 この感覚は間違いない……空港のときと同じ奴だ……。俺はあのとき、見てはいけないものを見てしまった。それは人を殺す瞬間や誰かが誰かを虐めている瞬間でもない。

 見てはいけないもの…‥‥。


 それは……。





 ああ、これは図書室でも聞こえていた奴だ。

 どうなっている、なんで急にこんな……。














『早く返せ……』

















「竜弥……大丈夫……?」


 なんだ、なんなんだこの声は……。

 なんでこんな声が聞こえてくる。俺はいったいどうしたんだ……。







「よぉ……久しぶりだな……」



「……!?」
















……」






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