第33話 後悔

 神無月ロウガの炎上の件から数日の流れが経とうとしていた。

 今回の件徐々に不可解な点があると話題になっていた。と言うのも玲菜のギャングチームから物資や武器を奪って放棄するのはロウガにとって何のメリットもないからである。彼は確かにバーを経営しながらも武器商人をやっていた。武器を売りつける為にそのような行動を取ったのかもしれないと見られるかもしれないがあまりにも大胆な行動に疑問視する視聴者たちも多くいたのだ。


 主に疑問視していたのは神無月ロウガの視聴者と青空奏多の視聴者だった。この二人の関係は元々兄弟に近い存在に似ていると視聴者達からは見守られていたからである。奏多は当時自分のSNSすらまともに見ていなかった為、知らなかったが流石に「彼ではないのでは?」という意見もあったのだ。

 神無月ロウガの視聴者が配信者本人を擁護していたのは彼を信頼しているからこそであった。短い期間での付き合いではあるが彼がそのような行動を取るとは考えられないと見ていたのだ。証拠が全くない以上、どうしようもなく違うと否定しても「じゃあ証拠は?」と言われてしまう現状、何も言い出すことが出来なかった両者の視聴者は暫く息を潜めることにしたのである。


 その為、彼は決して完全には腫れ物扱いされていた訳ではなかった。

 




「流石に二、三日姿を消してたのはマズかったな……」


 家に戻りカップ麺を食べた竜弥。

 澤原からの動画の確認が終わったのを見て送られて来た内容を確認していた。あの動画の中では與那城が真波やアキラの名前を叫ぶ場面があった為、竜弥もこの動画をどうすればいいのかと迷っていたのだ。


「やっぱりそうなるか……」


 澤原からの指示は動画の最後の場面の前、竜弥が彼女のことを説得する場面から入っていた。そ前の場面ではあの二人真波達の名前が入っていた為、カットするべきだと判断したのだろう。

 実際その判断は竜弥も正しいと考えていた。


「與那城、成長したんだな……」


 カップ麺を片付けながら記憶の書から取り出していたのは事務所での出来事。

 竜弥は自分が罪を背負うと考えていたが與那城の罪悪感を背負うことになるという発言に余計なことをしてしまったのだと自覚していたのだ。自覚したからこそ與那城の覚悟を受け入れてたのである。

 あのとき、竜弥は與那城の成長を見て少し嬉しくなっていたのだ。



 カップ麺を片付け終えた竜弥はパソコンの前に戻り、キーボードを動かし始める。

 パソコンの画面には文字が映し出されていく……。そこに表示されていたのは澤原から指示されていた内容であった。内容は自身が獅童レイを同期を庇う為に自らが罪を被ったことが書かれており、謝罪文も書かれていた。先ほどの動画も載せられており、その内容を竜弥はSNSという深く浅い海に投稿するのであった。


 まず反応があったのはテラーだった。彼はこの内容を拡散したのだ。

 竜弥はこの現象にまさかこうなるとは思わず、少し驚いていた。彼が真っ先に反応してくるなんて考えてもいなかったからだがこの行動が竜弥にとっても良い方向に進むことになるのであった。彼ほど有名のゲーム実況者が拡散してくれれば今回の件、色んな人達に広まっていくからだ。

 勿論、何もかもが良い方向という訳ではない。竜弥が取った行動は本人が正しい行動だったと認識していても真実を隠したのは事実だったのだから。


「ありがとう秀治……」


 彼にお礼を言う竜弥。

 今度彼と会ったとき、本当に替え玉早食い競争でもしようかと少し楽しみになっていた。







『謝罪』


 その動画を投稿したのは神無月ロウガであった。

 澤原さんからの指示で釈明と謝罪の動画も投稿した方がいいと指示があり、急遽ロウガは動画を作ったのだ。


「まずこの三日間、炎上の釈明及び謝罪もせず姿を消したことをお詫び申し上げます。また同期である獅童レイのことを庇った件につきましてですが彼女が自分の同期であり仲間であることから自分が罪を被れば丸く収まると浅はかな考えの下、行動してしまったのは事実でございます。この度は大変申し訳ありませんでした」


 ロウガが獅童のことを庇ったのはあくまで同情心であるが故であったが、澤原は仲間という言葉に置き換えたのである。この内容もすぐに拡散してきたのはテラーであった。テラーは今回の件もし解決する手助けができるのならば是非したいと考えていた。


 彼の友人である人間として……。


「此処からは自分達で示して行くしかないな……」


 動画が投稿されてから時計の針が進んで行く……。

 ロウガにとってこれほどまでに緊張する瞬間はなかっただろう。自分が招いた種とはいえ、どのような反響があるのかは分からないからだ。両目を閉じながらもマウスでコメント欄をスクロールしていくと……。





 そこに書かれていた内容は意外にも自分を批判するコメントが少なかったのだ。全くなかったわけではない。ただ批判というよりこうすれば良かったんじゃない?という意見が多かったのだ。何も言わずに居なくなるのはやめて欲しかったとかそういう意見は多かったのだ。

 だがコメントを幾ら見ても自身へのものは少なかったのだ。思わず「何故だ?」と不思議になってしまうロウガだったがそれが何故なのかはすぐに気づいた。自分のSNSを見るとどうやらロウガ、奏多の視聴者達が彼の信頼回復のために彼がそういう人間ではないと証明する為に切り抜き等を拡散してくれていたのだ。彼が人一倍誰かに対して優しい人間であるということを……。

 そう、彼らは息を潜めただけではなく行動もしていたのだ。







「ありがとうみんな……」


 視聴者達に感謝をしながらも自分はいい視聴者達に囲まれたのだというのが嬉しかったのだ。自分がパソコンの前で二時間も立ち続けていたのに気づいていた。

 竜弥は出かける準備をしてある場所へと向かうことにした。





「この前の件本当に悪かった」


 ラーメン屋の前で待っていた人物、杉森秀治に竜弥は謝っていた。

 今回の件、一番迷惑を掛けたとしたら彼だろうと竜弥は思っていた。自分が正しいことをしたという気持ちはあるもののそれでも結局彼のコメント欄が荒れたりしたのは事実。彼があのゲームのサーバー管理者でもあった為、バランスを保てなかったお前が悪いという意見もあったからこそ竜弥は本当に申し訳ないと感じていたのだ。


「気にしないでくれていいよ竜弥」


 竜弥は再び納得がいかないような表情をしていた。

 何故自分は誰にも怒られないだろうかと疑問でしかなかったのだが竜弥は何も言わずそのままラーメン屋に一緒に入って行くのであった。


「今回の件……俺の方も悪かった」


 ラーメン屋の中に入ってラーメンを注文した後、語り出したのは秀治であった。


「秀治は何も悪くないだろ?」


 竜弥は何故秀治が謝るのか分からなかった。

 今回の件、秀治には何処にも非がないと感じていたからだ。


「竜弥の件の前から元々ゲームバランスが悪いと言われていたのもまた事実なんだ。俺は主催者であるのにこういう事態に何も出来なかった。それにキミが炎上しているときもなにも出来なかった。これでは主催者としても友人としても失格だな……」


 心を落ち着かせる為か、水を飲んだ後にゆっくりとした口調で秀治は話していた。


「いや、秀治が何も出来なかったのは仕方がないだろ。それに俺が勝手に行動して炎上したんだから……」


「それでも俺はキミが炎上しているときに何も出来なかったのが悔しかったんだ」


 秀治は彼が炎上している間身動きが取れなかった。

 炎上している竜弥を擁護すれば何故あんな無名を庇うんだと言われるのが怖かった。そんな情けない自分を思い出す度に秀治の中で腸が煮え返る気持ちでいっぱい、いっぱいだったのだ。後悔だらけの気持ちが降り積もるなか、秀治は出来立てのラーメンを力強く啜り今の自分の気持ちを再確認していた。


 秀治はこの後これ以上この話をすることはなく、ただひたすらにラーメンを食べ続けていた。出来る限り竜弥に自分の異変を悟らせたない為にも……。


「それじゃあ竜弥……」


「ああ、またな秀治」


 ラーメンを食べ終えた二人であったが秀治はこのとき思い悩んでいた。

 もし竜弥に何か起きたとき自分は行動できるのかと……。はっきりと言って自分に何か出来る、なんてことは無理かもしれないと……。怖くて仕方ないのだ、勇気をもって立ち向かうということが……。


 それでも……それでも例え自分に何も出来なかったとしても……。






 彼は次こそは……彼の友人として助けたい、と誓っていた。


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