第31話 晴れやかな気分

「ほら着いたぞ」


 竜弥兄が私のことを起こしてくれた。

 飛行機に乗って離陸したまでは覚えてるけどその後のことは全く覚えてなかった。目の前を見るとコップは置かれていたまま割と早めに寝たのか……。


 私は竜弥兄の後ろを歩くようにして飛行機から降りて空港の中へと入る。さっきの竜弥兄の感じ、かなり違和感を感じていたけど竜弥兄からあの言葉を聞いたときと同じで聞いてはならない気がしていた。


「竜弥兄……そのごめん」


「なにがだ?」


「聞いたこともそうだけど……私やっぱり竜弥兄に色々言い過ぎてた……。だから本当にごめん……」


 あの言葉は竜弥兄に言ってはならない言葉だったんだ。

 絶対に言ってはならなかったのに私は平気で口にしてしまった。知らなかったとはいえ私はなんてことを……。


「……さっきも言ったろ?謝罪する気持ちがあるならこれからも仲間だと思ってくれればいいって」


 でも……と言えなかった。

 言いたかったけど言うことができなかった。竜弥兄からそれ以上詮索しないでくれというような感じが漂っていたからだ。


「わ、わかった……」


 結局竜弥兄に押されてしまい私はそれ以上聞き出すことが出来なかった。あのときの竜弥兄の目、普通の目をしていなかった。何か見えちゃいけないものが見えていたようなそんな目だ。霊的なものは話として言うことはあれど全く信じちゃいないけどそんなものが見えてしまったような感じだった。


 羽田に戻ってきた私たちは竜弥兄は誰かを探していた。

 これ以上竜弥兄から聞き出すのは諦めよう。とりあえず今は今後のことを考えなくちゃ……。これから私は先輩とのコラボがあったのにも関わらずそのコラボ配信に現れなかったこと。視聴者たちに何も言わずに何日も音沙汰なく消えていてこと。竜弥兄に庇ってもらったことへの説明……色々と謝ることがある。両親達に……謝らないといけないこと。

 なにより……。


「與那城……どうやら来たみたいだぞ」


「え……?」


 竜弥兄が後ろを振り返り、誰かを見つめているようだった。

 私も後ろを振り返るとそこには……。




「アキラ……真波先輩……」


 人混みで溢れ返るなか、そこに立っていたのは真波先輩とアキラだった。

 後になって分かったことだけど元々竜弥兄は私と会う前に千里と連絡をしていて二人のことを知ったらしい。私と二人の間で起きたことまでは知っていたかは知らないけど多分竜弥兄はなにも聞かなかったんだろう。

 そういうところ本当に竜弥兄らしい……。


「えっと……」


 私は何から話すべきなのか迷っていた。

 もちろん最初は謝罪からと考えていたが二人に出会って何から話すべきなのか分からなくなっていたのだ。


「二人共本当にごめん……!!」


 色々頭の中で整理した結果私はやはり謝罪するのが最初だろうと考えて二人に頭を下げていた。本当はアレがああだったから悪かったよなとか言いたかったけどそんなことよりも謝罪だよな……。


「私ずっと自分のことしか考えてなかった。嫌われるのが怖くて……出会って少ししか経ってないのに友達なんて心の底から思えなくて……それで二人のことを完全に信じられなくて……本当にごめん!!後物資とか武器と盗んで大量に放棄してごめんなさい!!!」


「與那城さん……」


 二人に何を言われようとも私は受け入れようとしていた。

 あの頃の自分がまともな状態ではなかったのは間違いないけどそんなのは言い訳にはならない。私は友達のことを信じきれず疑って勝手に裏切られた気分になっていたのだから。


「はぁ……全く……」


 真波先輩の溜め息が聞こえてくる。

 そうだよな、簡単に許してもらえるなんて訳ない……よな。


「顔上げなさい」


 私はゆっくりと顔を上げていく……。

 真波先輩の顔を見るのは怖かったけど此処で怖気ついてちゃダメだと勇気を振り絞って顔を上げる。





「いい!?ただでさえアンタは危なっかしいしすぐ思ったことを口にするクセがあるんだからそこを直さないとまたこうなるしあいつらにまた迷惑をかけることになるんだからそこだけは本当に注意しなさいよ!!」


「うっ……そ、それは分かってるよ……」


 真波先輩が私に何度も指を突きつけながらも警告してる。この前の私ならきっとこの忠告すら全く聞き入れられないで反発していたに違いない。あれ?あいつらってのは多分竜弥兄たちのことだろうけど……。なんで真波先輩があの二人のことを知ってるんだ……?って、今はそんなことどうだっていいや。


「本当に分かってるんでしょうね!?」


「まあまあ……水野先輩……與那城さんも反省してるみたいだし……」


「アンタも樫川竜弥も甘過ぎなのよ!!」


 あれ?やっぱり竜弥兄のこと知ってるみたいだ。

 やっぱ聞いてみよ……。


「なぁ真波先輩……なんで竜弥兄達のこと知ってるんだ?」


「そんなことは今どうでもいいでしょうが……!アンタはこれからのことを……!」


「ごめん、ごめんって……!!」


 確かに真波先輩の言う通りだけどなんで二人のことを知っているのかやっぱり気になってしまう。


「えっとですね……僕たち二人は……樫川さんがあの人だと言うことは……人狼ゲームのときになんとなく気づいたんです……」


「え?そうなの……?」


 え?じゃあもしかして流れ的に私のことも知ってたのか……これ。私の場合二人のことを怪しんだのは人狼ゲームのときだけどもしかしてそれよりも前に私のことを知ってた可能性があるのか……?

 な、なんか先越された気分なんだけど……。


「もしかして私のことも知ってたのか……?」


「ええ、アキラはすぐには気づいてなかったみたいだけど私はアンタがあいつだということはなんとなくは分かっていたわよ。アンタ分かりやすいぐらいあいつにそっくりだったからね」


 え?私そんなに分かりやすいのかな……。

 よく考えてみれば獅童レイのときの私っていつもの私とそんな変わらないから私のことを知ってる人からすればいつもの私にも……見えるのかも。


「え?じゃあ……二人は……二人はどうなんだよ。もしかして真波先輩はアキラが……なのを知ってたのか?」


「ええ、知ってたわよ。喘息持ちで本来の自分は気弱ってのを踏まえてその上でおっさん臭いモツ煮が好きだと言うところも含めてもね」


「お、おっさん……臭くて……悪かった……ですね」


 え?じゃあ本当に私だけ何も知らなかったってことなの……?


「ちょっとアンタ何塞ぎ込んでるのよ!!治ったと思ったら豆腐メンタルになってるじゃない!!アキラ、アンタのせいよ!!」


「えぇ!?僕のせいなんですか!?」


 私は拗ねるように隅っこに座り込んでいた。

 わ、私だけ仲間外れにされてた……。真波先輩知ってたんだ、アキラが蓮司だってこと……。


「当たり前じゃない、アンタのそのウジウジとした性格がこいつにも移ったのよ!」


「そ、それは……絶対違いますよ……た、多分僕たちに仲間外れにされたって思ってるんですよ」


「へぇ、アンタ言うようになったじゃない」


「え?え?水野先輩、なにを……!?」


 真波先輩がアキラの頭をしわくちゃにしていた。そんなことされたら禿げるんでやめてくださいと言うような声が聞いて私は友達っていいなと思いながら見つめていた。


「なに笑ってんのよ、アンタ……」





「いや……友達っていいなって……!!こんな私にもいい友達がいてくれたんだなって……」


 二人のことを裏切った私のことを今でも友達だと言ってくれるのかは分からないけど、私にとって今でも友達だ。大事な友達……。


「なに恥ずかしげもなくそんなこと言ってんのよ馬鹿じゃないの」


「なっ!?人がいいこと言ってるときになんだよその態度……それとも私のことなんてやっぱり友達なんて……」


「そんなこと……ないです、僕にとって……初めて出来た友達が……與那城さんでした。今まで……僕のことを……可哀想な人としか……見てる人が……いませんでしたから……」


 それだって本当は……お母さんと重なってるところが見えたからと言うのが本当なところだ。だから可哀想に見えてしまったから彼と一緒にいたのだ。純粋な気持ちじゃないのに……。


「アンタまた余計なこと考えてるじゃないでしょうね?」


「えっ……?いや……」


「いい!?アンタが自分に自信がないなんてこっちは分かってるの!アキラのことを可哀想だと思ってたのだって分かってる!それでもあの子はアンタのことを友達だと思ってくれてるのはそれまでの過程があったからじゃないの!?」


 確かに言われてみればそうだ。

 出会ってそんなに日数が経ったわけじゃないし、数えられるほどの思い出しかない。RPGが好きだからあのゲーム終わり方が幸せでいいよなとか戦闘システムがいいよなとかって……。アキラは物語を通して色んな感情になりたいと言っていた。それは私も分かる気がしていた。物語を見ることで一喜一憂することがとても楽しいのは私もそうだからだ。

 私はハッピーエンドが好きだから後味がいいのが好きだけどさ……。

 あのとき、私のことを止めてくれたのだって私のために思ってくれたからだ。心配してくれていなかったら止めるわけがない。


「そう……だな」


 過程か……。

 真波先輩ともこれまで色んなことがあった。先輩のことを生意気だと思うこともあったけど、それでもいい先輩と思えたのは私になんだかんだ寄り添ってくれるからだ。先輩は私のことを嫌っていた訳じゃない。それは事実だ。

 嫌っていたら今もこうして私の前に立っているわけがないんだから。



「アンタ、なに泣いてるのよ?」


「え……?」


 二人のことを思い出していたら私は自分の目が滲んでるように見えてきていた。

 ああ、そうか。

 私二人に今でも友達だと思われているって分かって嬉しいんだ……。


「泣いてなんか……ないよ」


 本当に良かった……。






 ◆


 與那城の奴、上手く玲菜達とも話せているようだな。

 良かったな、今度こそ大事にしろよ。


「千里……その本当にごめ……「此処に琉藍の連絡先があるんだけど今から竜弥がアタシにエッチな言葉教えてきたって連絡していい?」


「ちょ、ちょっと待ってくれ!!」


 え?今琉藍に連絡するって言ったか……!?

 香織はまあ許してくれそうだけど恵梨は嬲り殺してきそうだけど琉藍は本当にまずい。あいつはネットの力を借りて俺のことを社会的に抹殺にかかるに違いない。そんなことになったら俺はもう終わりだ。


「悪かった……!一人で突っ走ったこともそうだけど千里との約束を破ったことも本当に悪かった!!」


「約束の内容覚えてる?」


「無茶しないこと……命を粗末にしないこと」


 與那城のことに夢中になり過ぎてて千里との約束を完全に忘れていたなんて俺は言えるわけがなかったのだ。ぶっちゃけ千里なら許してくれるだろうと言う気持ちもあった。


「覚えていたのに破ったのはタチ悪いと思うんだけどなぁアタシ」


「本当に悪かったって……!今度激辛系のなんか奢るから……!頼むから琉藍に言うのだけは勘弁してくれ!!」


 マジで琉藍に言われたら俺の人生が終わる。

 俺のことを今でも親友だと思ってくれてるなんて分からないし恵梨みたいに恨んでる可能性だって充分にあり得る……。


「……冗談だよ、琉藍に言ったらとんでもないことになりそうなのは私も目に見えてるし、竜弥の誠意に免じて許してあげる」


「ほ、本当か……?」


「うん、でも次またそういうことしたら暫く口聞いてあげないし今度は恭平君に言うね」


「恭平……?」


 なんでそこで恭平の名前が出てくるんだろうか。

 千里も確かにあいつのことは知っていたけど……。もしかしてさっきまで一緒にいたのだろうか。


「恭平君、竜弥によろしくって言ってたよ。それにあの子、竜弥が絶対炎上するようなことはしないって信じてたよ。あの子竜弥のことを本当に信頼してるんだね」


「そうだったの……か」


 恭平……本当に悪いことをした。

 今度会ったときにちゃんと謝らないとな……。


「竜弥って慕ってくれる子多いよね」


「そうか?」


「うん、きっと竜弥の人間性を見てみんな竜弥のことを慕ってくれているんだと思う」


 俺の人間性か……。

 いや俺と言うより坦々の人間性だろうな。坦々だった頃の俺はかなり落ち着いていたし炎上するようなことだけは避けていた。そう言うのもあってか安心して見てられるみたいなことは言われることは多かった気がする。

 與那城も恭平も……俺のことを慕ってくれてるみたいだしな。


「アタシもさ……竜弥の人間性っていうか……ちゃんと人のこと見てくれるところとか好きだよ?平等に扱ってくれるっていうかさ……そういうところ本当に……ぁぁもう!そういう建前みたいなのいいや!アタシは……」





「竜弥のことちゃんと好きだからね?」


「えっ?あ、ああ……」


 空港内とはいえいきなりの好きという言葉に俺は戸惑わずにいられなかった。此処空港内だからそういうのはちょっと抑えて欲しかった気はするけど言われて……悪い気はしなかった……。


「ほら行こう?」


「あ、ああ……!?」


 千里は俺の前を歩き出して俺の手を掴んでいたのだ。

 ただ掴むだけならまだ良かった。大胆にも俺の手のひらを広げて手を結んできたのだ……。廃墟にいたときはそんな場合じゃなかったけどこう堂々と手を繋がれるというのはどうも恥ずかしいものだ。



「でもまあ……いいもんだな……」




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