第17話 人狼ゲーム

「皆さん本日はお日柄も良いなか、お集まりいただきありがとうございます」


 珍しく玲菜が敬語を使いながら挨拶を済ませていた。

 今回俺達が集められたのは流行っていたゲームであった人狼ゲーム。このゲームのルールは所謂人狼ゲームと呼ばれているもので、民間人と呼ばれている陣営は様々なミニゲーム……。タスクと呼ばれているものを熟していくことになる。

 人狼つまり、人狼は簡単に言えば民間人側を妨害しつつ殺害することもできるのだ。また、会議と言われているものがこれは誰が人狼であるかという話し合いをしたり、疑い合いということになる。


 メンバーを見る限り、何人かはすぐにでも人狼とバレたらいい反応をしてくれそうだ。


「どうもNoAノアでーす、本日はお誘いいただきありがとうございます」


 この声間違いなく恵梨だ……。

 まさかVtuber兼イラストレーターになっていたとは驚きだった。





 それぞれの自己紹介を終えて、ゲームが開始された。

 貴方は……。





 





 まさか初手から人狼とはな。

 なら、最初にやることは決まっている。民間人を殲滅するのみ……。もう一人の人狼は……。


「マジか……」


 コメント欄を見えていないが賑わいを見せていることだろう。

 もう一人の人狼は獅童であった。獅童がこの手のゲームが得意とは思えない。獅童がどう動くか分からない以上怖いもの見たさというものようなものがあった気がしていた。


「は?」


 鳴り響いたのは、通報の音であった。


「え?まさかもう殺したのか……!?」


 殺された相手はメアだった。

 開始されてほぼ数十秒と言ったところで緊急通報されている。これは間違いなく獅童は吊るされること間違いないだろう。安心しろ、獅童お前が追放されても俺が頑張ってやる。


「怪しいのは玲菜じゃないか、お前もそう思うよな神無月!」


「はぁ!?待ってよ、下僕なのに私に盾突く気なの!?大体なんで私が怪しまれているの、おかしいじゃない!」


 怪しまれていたのは何故か玲菜であった。

 と言うのも玲菜とメア、獅童が重なったところでちょうど事件が起きたようで誰が犯人なのか分からない状態になっていたようだ。獅童の奴、ちゃんと考えて行動していたんだな。良かった……。


「あーいや俺は……ほら殺人とかやらないからさ」


「それ反論出来てないぞ」


 NoAは獅童のことを完全に疑っている。

 獅童は反論できるような内容が思いつかず、どうやら完全に何も言えない状態になっていたのだ。

 さっき言った発言は撤回しよう。獅童はもう駄目だ……。


「玲菜、NoAさんまだ獅童さんが人狼と決めつけるのは早いですよ」


「な、なにが早いのよ……!」


 玲菜が反論しようとするなか、奏多が言葉を続けようとする。


「それは獅童さんが……このゲームが」






「初心者だからです!」


 俺はこのとき気づいた。

 この人狼普通の人狼ゲームではないということを所謂、パッション人狼というものだということを……。激しい感情に身を任せて「俺は悪くねえ!」みたいな言い方をすれば大体乗り切れるかもしれなというゲームだ。


「な、なにを言って……あー私はわかっちゃった!隷属の契約貴方だけしてないから拗ねてるのね」


「いや、別にいらないです、本当にいらないんで……あっでも様呼びはして欲しい……かも」


 奏多はマジで要らなさそうな声を出しながらも拒否をしていたが、相変わらずの様子の奏多を見て苦笑いしていた。


「くだらない話している場合?」


 NoAは呆れている様子であったが会議は終了された。なんとかこの会議を乗り切ることに成功した。この様子なら獅童を生存させながら民間人側を殺害することが出来るかもしれない。


「さっきの絶対獅童だって気づかれたと思ったんだけどな……」


 NoA、玲菜辺りは完全に怪しんでいたが蓮司が玲菜を怪しいと言っており、奏多と俺はどっちにも付かず様子見を選んだことが原因だろう。次から本格的に会議に参加しなくては駄目だろう。俺も今から一人を殺すことになるんだからな……。


 ナイフが刺さる音が聞こえてくる。

 俺はマップ下辺りで一緒になっていた倒した。倒した相手はNoAであった。俺は人狼ではないと踏んでいたんだろうが、少し詰めが甘かったな。





「ぎゃあああああ!!人殺し!!」

 

 会議に入り、玲菜の叫び声が聞こえていた。

 この会議が俺にとっては重要になるだろう。殺されているのはNoAのみ。残されているのは、玲菜、蓮司、奏多のみであった。後一人を殺せば俺達の勝ちだな。


「見た!見ちゃった!!NoAの死体、この眼で間違いなく……!一応聞いておくけど、獅童は何処に居たの?」


「え?俺はマップの右の方に居たけど……もしかして俺また疑われてるのか?」


「この場で怪しまれても仕方ないのは分かってるでしょ?」


 それに反論出来ず、獅童は言い返すことができなかった。

 此処まで来れば後一人殺せば大丈夫だ、後は任せ……いや、この戦い俺はさっきから獅童を捨てることしか考えてない。矛先を俺に向けられてない今、偽の報告だけして黙っておくのも一つの手だがそれはどうだろうか。

 獅童と一緒に勝ってこそのエンタメではないだろうか。

 見せてやるか……。


「ちょっと待ってくれ玲菜、今回も誰なのか覚えてるのか?」


「えっ、えっ?そ、そう……よ」


「じゃあなんではっきり見たと言わないんだ?曖昧な言葉で濁す必要はないんじゃないのか?」


 あの様子だと誰がNoAを殺したかなんて見ていないだろう。

 俺が殺したのはマップの下の方、恐らく誰か違うエリアの方へ移動したのは見えていても名前までは見ていないはずだ。


「そ、それは……そうね、確かに……言われてみれば」


「え!?なんで丸み込まれてるの!?」


 奏多は結局様子見でどっちつかずでいたがどう出てくる。玲菜たち同様獅童が怪しいと疑ってくるのか……。今のこの状況俺が怪しまれても仕方ないことをしているが、此処は踏み込むしかなかった。


「そういうロウガはなにをしていたんだ?」


「俺はマップの上の方で作業をした後、右のエリアに向かったよ」


「マップの上の方……だと?神奈月、それは本当か!?」


 蓮司が素早い反応をする。

 嘘報告として上の方だと告げたが、間違った選択をしてしまったか。だが、俺を失っても後二人を殺せばその時点で俺たちの勝ち此処は俺を切り捨てでも勝て、獅童……。





「いや、俺はロウガのことを間違いなく見たよ」


 獅童、俺のことを庇おうとしてくれているのか。

 だけど、その行為はダメだ。庇えば庇うほど俺の仲間だと思われるぞ。自分が今疑われていることを忘れるな。


「ん?そうなのか!?俺の見間違えただったのかもしれないな。じゃあ、必然的に謎の殺人鬼の正体は奏多になるのか!」


「は、はぁ!?」





「ちょっと待ってくれよ、俺がいつNoA……ママを殺したんだ!?俺だってタスクしながら脱出に向けて頑張っていたんだぞ。メアが殺されたときだってNoAママと一緒にいたんだぞ!?なんで俺が疑われなきゃいけないのさ!?確かに今は単独で行動してたのは認めるけどさぁ!でもこれ犯人の一人はロウガでしょ!?さっき上の方にいるとか言ってたのに蓮司一人だったじゃん!!後なんで怪しまれてた獅童を誰も警戒してないわけ!?おかしいでしょうがぁ!?俺が犯人だって言うなら証拠を見せてみてくれよ!証拠をさぁ!!おい笑ってないで言ってみてくれよ!!聞いてるみんな!?」





 俺以外全員が奏多の熱弁を聞いて笑っていた。これがプロゲーマーを目指している16歳の少年と思うと、少し可愛らしいなと言う感情が芽生えていた。因みにだがママというのはアバターを制作してくれた絵師のことを指すことが多い。更に後になって知ったが青空奏多はNoAがデザインしたものである。


「息子がこれだと母親がヤクザっぽいのも頷けちゃうわね……」


「はぁ!?よくもNoAママのこと馬鹿にしたな!?確かに刺青入ってて「二人共時間がないぞ!!」」


 全員笑ってるなか、蓮司が二人のことを止めようとするがどうすることもなく再び時間が終わる。すると、奏多に一票入ってるような状況になり怒号に近い声で「はぁ!?」と言っているのが聞こえてくる。因みに一応フォローを入れておくが恵梨は実際に刺青は入れていない。アバターの方に刺青を入れているのである。多分入れている理由は極道が主人公のゲームが好きだからだろう。

 奏多、お前が長く喋ってくれていたおかげで時間が稼げた感謝する。





 俺は最後に通りかかった蓮司を殺して勝利となった。


「おい蓮司ィ!!」


 通話に戻ってきた奏多が枯らしたような声で蓮司を呼んでいた。


「いやぁすまんすまん!まさか本当に神奈月と獅童が人狼だったとは気づかなかったんだ!」


 声は震えているようでかなり笑うのを堪えている様子。


「はぁ!?おっかしいでしょ、あの状態でまず疑うべきはロウガなんだ!おい、なに笑ってんだよロウガ!!」


 先ほどからずっと叫びっぱなしの奏多を見ていて俺もとうとう笑ってしまった。

 パッションも此処まで来ると凄いものだな……。


「お、落ち着こう?奏多君」


 声を出したのは自己紹介以来ようやく喋ることが出来たメアであった。

 獅童にすぐ殺されて会議に参加できなかったからな……。


「これが落ち着い……あー試合進まないからいいか……あーもうぜったいおかしいでしょ」


 いつにもなくテンションが高い奏多の姿を見ながら16歳っていいな……。と頭の中で思っていた。





 次の試合……。

 それは波乱の展開が待っていた。


 通報ボタンが押されたことにより、誰が押したのだろうとなっていたなかそのボタンを押した玲菜はある発言をするのであった。





「玲菜、俺は見たぞ!!奏多を殺すところを……!」


 俺は民間人になり殺人鬼のレッテルを貼られることはなくなっていた。

 今度は蓮司が玲菜を人狼だと疑っているようだったが、玲菜の様子が何処かおかしかったのである。


「私、お花掴みに行ってくる!!」





「え!?」


 思いがけない玲菜の行動に俺は「え!?」と言ってしまった。





「え、えっと……どうする?玲菜お手洗い行っちゃったけど」


 メアも俺と同様困惑していたがこればかりはそうだろうとしか言いようがない。

 このタイミングでお手洗いに行くなんて怪しんでくれと言っているようなもんだ。


「まさか会議中に行くなんて、ロウガは何処行ってた?」


「俺はメアと一緒にカードのタスクをやっていたぞ」


 NoAに俺がなにをしていたのか聞かれていた為、答えていた。カードが全く入らなくて焦っていたのは内緒だ。メアは素即なく出来ていたがそんなに簡単だったんだろうか。一瞬、黒というのも考えたが俺と二人っきりだったし殺す瞬間はあったはずだ。


「それは私も見ていたよ、全然通らなくてちょっとキレちゃったけど」


 簡単に通せたと思っていたが、どうやら違っていたらしい。

 キレていたというのは前のような人格が出ていたんだろうか。


「じゃあ二人は現状白、私は途中まで獅童と行動していたが居なくなってた……何処に行ってたの?」


「俺はパスワードのタスクをやっていたよ」


 どうやら四人共も今のところ白という可能性は高い。


「どうする?玲菜に票を入れてみるか?私はそうするべきだと思うが」


「ちょ、ちょっと待ってよ!!私本当に何もしていないってば!!」


「お手洗いから戻って来たのか」


 部屋の中を走って来るような音が思いっきり入っている。

 それぞれが「おかえり~」と言うなか、玲菜は反論を続ける。


「確かに私が疑われても仕方ない、だけど蓮司が殺した可能性だってある!違うの!?」


「待て待て!玲菜、何故俺を疑う!俺は右下のエリアに入った瞬間奏多の死体を見たんだぞ」


 どう見たってこの現状を見れば玲菜が殺したというのは間違いないはず。殺すにしても二人っきりになったところを殺すか、もしくはもう一人の人狼が居るときに蓮司も殺すべきだったかもしれないな。


「落ち着いて蓮司、此処は完全に玲菜が不利。私は玲菜に一票入れる」


 場の混乱を治めようとしてきたのはNoAであった。

 なんとかNoAのおかげでこの場を収めることが成功できそうだ。


「た、確かにその通りだったな……少し興奮し過ぎたすまない!俺も玲菜に票を入れるぞ」


「ま、待ってよ!私が殺したのを証明できるのは蓮司だけじゃな……なんで四票も入ってるの!?」




「覚えてろぉぉぉぉ!」


 最後に玲菜の断末魔が聞こえて来ながら、表示されていたのは人狼の文字であった。


「奏多いないと会議静かだな……」


 先ほどの試合かなり奏多がパッションをしていたせいもあってか、かなりにぎやかなものになっていた。その奏多が最初にやられたせいもあってかかなり静かに感じていたのだ。


「メアは安全そうだし一緒にタスクしながら行動するか」


 蓮司は先ほどまで一緒に居たがどこか別のところに移動してしまっていたようだ。あの感じを見るに右上だ。





「嘘……だろ」


 事件が発生した。なんとメアに殺されてしまったのだ。

 安全圏だと思っていたメアがまさかの人狼だとは気づかなかったのだ。


「お疲れ、ロウガ」


「ああ、NoAさんが生きてるからあとは任せよう」


 NoAは今回の会議でかなり主導権を握れていた。

 彼女が英梨なら次の会議も主導権を握ることが出来るだろう。


「ああ、停電のところを一気に刺された」


 人狼は妨害行動が出来る。扉を閉めさせたり、毒ガスを流したり先ほど言ってたように停電を起こせたりなどだ。


「頼む、頼む!メア様お願いします!!」


 土下座しているような音が聞こえてきてそれを俺たちは苦笑いで見守っていた。


「人狼で負けたらF1カートの物真似を長時間するって約束をしてしまった……お願い、お願いします!!」


「なんでそんなことやるって言ったんだ……」


 奏多が呆れたように発言する。芸風とはいえ色んな耐久配信をやっていかなければならないのは大変だ。そういうところは素直に凄いと思う。


「そういえば玲菜本当にお手洗いに行ってたのか?」


 どうしても気になっていてそのことを俺は聞こうとしていた。


「し、仕方ないじゃない……ほ、本当にああ!もうなんでこんな羞恥プレイみたいなことを言わされなきゃいけないの!!」


「あーそれは悪かった……」


 女性だから色々と事情があるのかもしれない。

 余計なことを聞いてしまったようだ。





 この試合が大きく発展したのはNoAが殺された後だった。

 既に民間人側は蓮司、獅童の二人となっていた。この二人かなり不安だったが最終的に……。





「俺はマジでメアがおかしいと疑ってるんだ!一緒に行動してたときがあったけど俺のことをずっと追いかけるような素振りを見せていたし、絶対殺そうと思ってたんだ!蓮司は俺絶対白だと思う!!だって人殺すような奴に見えねえもん!これで殺すような奴なら俺は人のことマジで信用できなくなる!頼む俺を信じてくれ蓮司!!お前もRPGが好きなら俺たち友達になれるだろ!!?」」


 奏多ぶりのパッションに一同全員が笑っていた。

 殺したのは間違いなくメアだが蓮司目線からしたら先ほどまで人狼だった獅童が疑ってしまうの無理はない。今回の会議獅童は全くと言って喋ろうとしていなかったからだ。此処にきてようやく喋り出したせいで更に怪しくなっているのだ。


「じゃあ一つだけ聞かせてくれないか!さっきの投票は玲菜に入れていたのか!?」


「ああ、それは勿論さ!俺は玲菜に一票入れたぞ!」


「そうか!なら俺は獅童を信じるぞ!!」


「ちょっ……ちょっと待って!!え!?」


 実際に獅童が玲菜に投票したかはともかく惑わされずちゃんと決断できたのはナイスだ蓮司。



 そして、結果は当然メアが人狼であった。

 その後玲菜が何故お手洗いへの遅延行為をしていたのかと問い詰められていたが、漏れそうだったことが判明した。なんというかドンマイとしか言いようがない。





 続いて三戦目だったが……。

 此処に来て大問題が発生する。


「お、俺は……どっちを選んだらいいんだ……!」


 残されたのは俺含めて三人。

 しかもそのメンバーはメアと獅童の二人だったのだ。メアは仲間だし、獅童は大切な同期だ。俺はどうすれば……。


「ロウガ君私信じてるからね?」


「ロウガ俺を選べ!!」


 どうすりゃいいんだよ、この状況……!




 何故こうなったのか、それを説明するにはNoAが生きていた頃までに戻る。

 そのときは既に五人となっており、会議は難航していたのだ。それもそのはず、この場にいる誰が人狼なのか全くわからない。そんな混乱が混乱を呼ぶ会議のなか、話を切り出してきたのはNoAだったのだ。


「怪しいのは獅童、何処行ってたの?」


「あーそれが停電のとき場所が遠くて迎えなかったんですよ」


 このとき、蓮司が殺されたことにより通報が起きた。

 通報したのは獅童だったがそれが混乱の下になっていたのだ。人狼は自分で通報することも出来るからだ。


「じゃあ残りの三人は?」


「あっ俺はメアと一緒にタスクこなしてたぞ」


 殺す機会があればメアを殺すことも出来たのかもしれない。

 だけど、今にしてみれば……。


「じゃあ奏多か」


「あの……俺思うんですけどこの場で怪しいのはNoAだと思うんです」


「は?」


 思いがけない「は?」の言葉に俺はビビってしまう。

 これが恵梨だと考えるとガチで怖くて仕方ない。威圧的な言葉に俺は恐怖心すら感じていた。額に冷や汗が流れているのを感じていた。ヤンキー健在と言ったところだろうか。アバターの姿の刺青も相まってそっち系の人に見えてしょうがない。早脱……いや親友とはいえ女性に対して何を言っているんだ俺。


「奏多、お母さん助けてくれる?」


 自分の息子である奏多に助け舟を出してもらおうとしていたが、奏多は困り果てているようだった。


「あーごめんNoAママ、全く見てないから分からないんだよね」


「は?一回通り過ぎてるよね」


「えっ?あ、ああそうなの……?ごめん、本当に分かんない」


 後になって分かったことだが、奏多は本当にNoAママと会っていなかった。

 いや、会っていなかったというのは間違いだ。一回だけすれ違っているはずなのだが本人が全く覚えてなかったのだ。もし、本人が覚えていればアリバイになり殺していなかった証明になっていたかもしれないだろう。

 もっとも、俺が選択を間違ったせいなのだが……。


「奏多とロウガ、一つだけ言うから」


「え?は、はい……」


「な、なに……?」


 俺はとてつもなく嫌な予感がしていた。

 画面越しに殺意の塊のようなものを浴びせられている気がしてならなかったんだ。





「後でエンコか漁船好きな方選んで」


「こっわ!?」


 ヤンキー通り越してヤクザじゃねえかと本気の殺意に俺はビビり散らかしながらもこの後絶望することになる。


「あちゃ、これはNoAママのこと怒らせちゃったよ……これでNoAママが民間人だったらお前は絶対エンコ詰めろって言われるよ。マジでどうしよう、終わったわ俺」





「ごめんなさいいい!痛いの嫌なんで漁船で勘弁してくださいい!!本当に許してください!!」


 俺は床に座り込み土下座をしながら謝罪していた。

 まさか自分がミスするなんて思いもよらなかったからだ。しかし、思えば反論を全くしてくれなかったNoA……様にも問題があると俺は思っていた。あそこで反論してくれれば俺の心も変わっていたかもしれないというものだった。





 此処までが回想であった。

 此処からは獅童がマップ中央にある緊急通報ボタンを押したことで会議が発生。二人が混乱しているなか、俺は蒸発して溶けてしまいそうなほど混乱をしていた。それもそのはず、元仲間を疑わなければならないというこの地獄のような会議に俺はどうすればいいんだという気持ちが強くなっていたのだ。

 因みに奏多はいつの間にか死んでいた。その死体は誰も見ていないらしい。

 見ていても俺が殺したって言っているようなもんだもんな。


「ロウガ、俺のことを信じてくれよ!さっきすれ違ったよな!?」


「ロウガ君、私のことを信じて!私だって何度もすれ違ったよ!!」


 二人は俺に信じて欲しいという言葉を投げかける。

 それは当然だ。どちらかが民間人なのだから。そして民間人を追放すればこの勝負負けになってしまう。


「ロウガ君、聞いて……私とのクリスマス楽しかったよね?」


「待ってくれ、俺はそんな記憶知らない」


 今年のクリスマスなんて一人だったぞ。

 一人でホールケーキ食べて胃もたれ起こしてたんだぞ。二度と食べないって心に誓ったばっかりなんだぞ。


「二人で一緒にケーキ食べて二人でプレゼント交換したよね?ロウガ君、マグカッププレゼントしてくれて嬉しかったんだよ?大晦日だって二人で新年祝おうって言ってお参りしたもんね」


 本当に知らない。

 全く知らない記憶。プレゼント交換なんてしてないし大晦日に一緒にお参りなんてしていないしそりゃメアみたいな女の子と過ごしたら楽しそうだけどって……違う。今はそんなことじゃない。

 後コメント欄が「羨ましい」だの「リア爆」と言ってるように見えるのはなんでだ。


「ロウガ、俺と一緒に海行ったよね?俺の水着見てすっげえ可愛いって言ってくれたよな!それであんなことやこんなことしたよな!?」


「おい語弊を生みそうな言い方やめてくれないか……」


 今ので更にキャンプファイヤーが出来そうなぐらい俺の火の手が燃え上がった気がする。

 というか俺はその頃獅童とは出会ってないし、知らない……。


「ご、ごめん……。だけど俺はロウガのことが大好きだし凄い尊敬しているんだ!だから頼む!ロウガ……俺のことを信じてくれ!二人で最高のハッピーエンド目指そうぜ!!俺バットエンドは嫌だもん!!」


「ロウガ君、私の手を取って……二人で幸せをつかもう?」


 こんなことを言われては俺は更にどうすればいいのか分からなくなってしまっていた。悩みに悩んだ末に俺は同期である獅童の手を取った。同期の絆はなにより代えがたいもののはず。





 と思っていたら……。





「も~!ロウガ君……!」


「ロウガなに考えてるんですか、全く……!」


「奏多とロウガは後で指」


「本当にごめんなさいでした、二人共……俺このゲーム全くやったことなかったんです……」


 これは本当だ。このゲームが一人で出来るというのは知っていたがそれでも多くの人とやるゲームのイメージが強かった。だから、俺はやれる機会がなかったのだ。


 まさかこんなことになるとは思ってなかった……。


「引っかかったな、ロウガ」


「マジなんだな……」


 目の前に表示されたのは人狼ではないという表示であった。それが何かの間違いでないかと俺は疑ったが、そうではなかった。まるで目の前で起きていることが信じられない。そう言いたそうになっている俺には理解できなかった。


「すまないロウガ!お前を騙すようなことをしてしまって!」


「いや、これ騙し合いのゲームだし蓮司……あともうちょっといい感じに言い訳してくれよ頼むよ」


 もう一人の人狼は蓮司であり、嘘をつくのが下手過ぎてすぐに追放されたのである。蓮司は分かりやすかったがまさか奏多がそうだったなんて……。


「一番信じてくれそうなロウガを生かしといて正解だったよ」


「騙したのか……俺を……」


「まあ、そうなるのかな。ロウガが生きてくれれば俺のことを同期だから信じてくれると思ってたんだ、NoAを疑い始めたときとか傑作だったよ。すっげえ腹抱えて笑いそうになった、まさか此処まで気持ちいいぐらい思い通りに動いてくれるとは思わなかったな、やばいやばい腹痛い」


 裏切り者が……!

 俺は机の上で台パンしそうになるもそれを堪えた。


「覚えてろよ獅童、マジで殺し……刺してやるからな」


 今まで頭の中では殺すって言葉を使っていたが途端に来てこれを見ているちびっこの心配を……いやもう時刻は23時を過ぎている。良い子は寝ているだろう。


「ふふっロウガ様こればかりはいい気味ね」


 俺はその瞬間、殺意が芽生え始めた。

 向けられていなかった矛先に今向かおうとしていたのだった。






「よしっ殺せたな……」


 四戦目……。

 俺は獅童と玲菜を必死に追いかけ続けて殺すことに成功した。



 二人の断末魔が聞こえそうな気がしていたのでそれをBGM代わりにしながら俺は殺人鬼の俺ではなく普通の人狼の俺に戻るのであった。




「なんで私まで殺されなきゃいけないのおおおおお!!」



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