第16話 無口な元ヤン女子
「玲菜ぁぁぁぁぁ!!」
『めっちゃ大声出してて草』
『久々にメアの大声聞いた』
久々に清楚じゃないメアの声が響いている。
俺達はその声を聴いて笑っていた。
「ふふっこれで形勢逆転ね、メア様には悪いけどこのゲーム私の勝ちだわ」
今俺達がやっているゲームはパーティーゲーム。
星と呼ばれるものを集めながら多くの星を集めた人が優勝できるというゲームになっている。もちろん、ただ星を集めるゲームだけではなくミニゲームなどがありそのなかには大縄跳びや相手を足場から突き落とすもの、競争するミニゲームもある。
そして今メアが叫んでいたのは星を奪い取るイベントがあるのだが、そのイベントをメアにされて大声を出していたのだ。
「マジで覚えてろよ!!」
そして、このゲームに参加しているのは俺、獅童、メア、玲菜であった。
先ほどまで一位はメアであったが、星を奪い取ったことにより玲菜が一位に躍り出ている。このまま玲菜が独走状態になるのかもしれない、誰もがそう思っていたときであった。
「ちょっと獅童……!アンタまさか負けるつもりじゃ……!?」
玲菜は今焦っていた。
玲菜が焦っていたのには理由がある。それは現在三対一のミニゲームをやっており、その内容は一人の方はクレーンとなり他三人をUFOキャッチャーのように獲得していき三人全員を獲得できれば大量コインを獲得できるようになっているのだ。
「はぁ!?俺だって必死にやってるけど!!なんだよその言い方」
「どう考えたって笑ってるじゃない、そういうことね!!アンタ達私を陥れる為にグルになってるのね!」
「うるさいお嬢様だな、口閉じてやろうか!」
「な、なっ!?な、何を言い出すのよ!!ば、馬鹿じゃないの!!」
玲菜、物凄い変な勘違いをしてないか。
メアも「えぇ……」と少し引いてるような声を出していた。というか、獅童も「え?なんで」と言うような声を出していた。
「獅童ぉぉぉぉ!!ちょっと本当に負けちゃ駄目じゃない!!」
「しょうがねえだろ、定規使って連打したのに普通に掴まれたんだからさ!」
定規を使って連打。
随分古典的なやり方をしっているんだな、獅童……。因みにあれはコントローラーのボタンを凹ませる可能性があるからあんまりやらない方がいい。俺が視聴者たちに軽く説明を入れていると、メアのターンになる。
「ちょ、ちょっとメア様……まさか私から星を奪い取ろうなんてしないわよね!?」
「え?するよ」
「ま、待ちなさいよ!!ロウガ様だって私と星の数は一緒じゃない。だったらロウガ様から……ぎゃあああああ!!!」
玲菜の断末魔が響いたのと同時に玲菜は星を奪われていた。
このコラボ、さっきから死人が出たように叫び声が響いているな。玲菜が倒れていくような音が聞こえながらも俺のターンが始まる。現状、メアが一位だけど此処からどうやって挽回しようか。俺の位置は星からも遠い位置だからどうすることもできない。
「ここら辺で隠しブロックでも引き当ててくれたらいいんだがな……」
「ロウガ、そんな美味い話があるわけないだろ」
獅童の言うとおり、そんな美味い話があるわけ……。
「え?」
俺が止まった位置に隠しブロックが現れる。
三者三様、それぞれの反応が飛び交うなか俺に現実を見なよと言ってきていたが、獅童が一番大きな声を張り上げてビビり散らかしていた。
『さっきから断末魔しか聞こえなくて草』
『そういうゲームだっけ』
視聴者も案の定、同じような反応を示していた。
正直此処に来てまさか、まさかの展開過ぎて俺は驚いていた。と言うのも隠しブロックから出たのは星だったからだ。こんなこと、こんなことが本当にあり得るんだな。
「おいふざっけんな、こんなのイカサマだ!!」
獅童がキレているのには理由があった。
最終ターンも終わり、一位になっていたのは俺だったのだ。そして最後の結果発表で一位は俺であり、その結果に不満を抱いていたのだ。そして、それに乗っかる形で……。
「そうよ、もう一度勝負よ!!」
玲菜もそれに乗っかる形で抗議の声を上げていた。
俺が一番遠かった星は獅童が取る事に成功したのだが、その次の星は俺からかなり近い位置にあった為そのこともあって二人は怒っているのだろう。メアもそのとき「え?ほんと?」みたいな声を上げて自分の負けを悟っていたが……。
このゲームどうやら一回で終われはなさそうだ。
「こりゃあ時間が掛かりそうだな」
俺は二人の抗議の声を受けてゲームを続けることにしたのである。
この配信、いつになったら終わることやら。きっと二人が満足するまでだろうな。
『竜弥……!!』
途切れ途切れで聞こえてくる声。
迫ってくる目の前の女性に力で勝つことは出来ず対抗することはできなかった。そして、俺の目の前で何が起きようとしていたのかまるで理解できなかった。
「とうとう悪夢じゃ無くて妄想を見るようになったか……」
ベッドから起き上がり、今まで見ていた夢にツッコミを入れる。
二人に完全に振り回された地獄の耐久配信を終えた後、俺はベッドに倒れるようにして眠っていた。
「あの配信の後だったから、コラボ配信結構千里の話出ていたな」
見る限り俺の視聴者ではないのは理解していたし、コラボ配信だから咎めることはしなかったけど配信が終わった後、SNSでちゃんと咎めるような内容の投稿をした。それを理解してくれたかはともかく伝えることが重要だろう。
「それにしても本当にコンビを組むことになるとはな」
千里とコンビみたいなのを組むようになってからどうも浮かれ気分な気持ちが抜けていない。昨日配信が終わった後、珍しくラーメン以外の麺類を食べに行ったりなどしていた。ああ、そういや與那城とファミレス言ったときはパスタ食べたっけ……。
「俺そこまで……まあいいかもう」
自分を落ち着かせる為に窓を開けて風を感じながらも俺は自分の心を落ち着かせていた。
「浮かれ気分過ぎて今ならどんな押し売りも通しそうだな」
ああいうのは基本的に断っているけど、実際中に入れずこっちの話だけベラベラと話していたら勝手に帰ってくれるんだろうか。少し気になるけどそんなことを試す機会は……。
俺の部屋のチャイムが鳴る。
誰だろうと思って覗き穴から見てみると、全く知らない人であった。見たところスーツを着ているようだ。この感じ多分押し売りだろう。待てよ、押し売りなら試すいい機会ではないだろうか。俺は扉を開くと押し売りが話し始めようとしていたが俺はそれを遮り始める。
「近頃ラーメンはヘルシーやらイタリアンなんてものが流行っていますが、ラーメンというものはやはり中華そばが至高であってですね。近頃のラーメン屋は……」
「話し相手になってくれなかったな……」
相手は「失礼しました!」と言って逃げていった。
そりゃ当然だ。売り込もうとして来た相手が一方的に喋ってきたら相手も怖がって逃げるに決まっているだろう。しかも、厄介ラーメンオタクみたいなことを言い出したのだから……。
ちなみに俺は最近流行りのイタリアンだとかヘルシーとかのラーメンについては特に何とも思ってない。ラーメンを食べてくれる人が一人でも増えるならいいことだ。
「都内脱出してラーメン屋でも探しに行くか……」
俺が目指そうとしているのは都内には全くないラーメン屋。どうして都内にあんなに美味いラーメン屋が全くないのだろうか。理解に苦しむ……。確かにスープがクソ暑いと思うときはあるけど、その熱々のスープがいいというのに……。
「忘れないうちに行っておくか……」
俺は自分の部屋を出て隣に住んでいる與那城の部屋のチャイムを鳴らす。今日は土曜日。出かけたりしていなければ恐らくいるはずだろう。
「出ないか……」
急ぎの用事でもないし連絡だけしといて後でまた部屋に来るかと思って、念の為にドアに触れた。
「開いてるな……入るぞ」
全く不用心だな……。
そのまま部屋の方まで行くとそこにはボーッとしている與那城の姿があった。
「大丈夫か?」
俺は慌てて與那城の体を揺らすと、目は動いているようで俺のことを認識しているような感じはあった。
「あ、ああ……竜弥兄来てたのか?どうしたんだ?」
何か様子がおかしい。昨日のコラボ配信のときはあんなに大きな声を出していたのに今日は元気がなさそうだ。俺が話しかける前までの魂の抜けたような感じはなくなっていたが、それでもまた何処か違和感を感じさせる何かがあったのだ。なんの違和感かは流石に見抜くことは出来なかったが、あまりいいものではないのは間違いなかった。
「どうした、なんか魂が抜けてたみたいになってたが」
「別になんもないよ……それよりなにしに来たんだ竜弥兄?」
「いや……なに話そうか忘れたしまた連絡するよ」
今の状況ではとてもじゃないが話を出来る状態じゃないな……。
俺は立ち去ろうとしていたがあることを思い出した。
「あー思い出した、明日知り合いのVに人狼ゲームやらないか?って誘われたんだけどさ、與那城も来るか?」
「何時にあるんだ?」
「コラボ自体は21時にあるからそれまで通話グループに参加してくれればいい」
俺は結局昨日のコラボ前も怒ることが出来なかったし、今日も怒ることが出来なかった。
確かに獅童レイとしてやったことは下手すりゃ俺たち全員プチ炎上していたかもしれない。俺はそれを怒りに来たのだが、どうしてもそれを怒る気にはなれなかった。
恵梨や香織だったらちゃんと此処で怒れたんだろうな。
恵梨は特に俺のことを口煩く心配してくれたし怒ってもくれたことがあった。中学時代元ヤンだったから怖いと思っていた時期はあったけどそれでも悪いやつではないのは間違いなかった。
「分かったよ、21時だな……覚えておくよ」
「ああ、飯食ってちゃんと日の光浴びろよ?」
今度こそ與那城の部屋から出ようとしたときであった。
與那城が俺の手を握ってきた。
「與那城……?」
振り返るとそこには震えている與那城の姿があった。
何故、何故與那城は此処まで震えているだろうか。俺にはそれが分からなかったのだ。
「竜弥兄、千里にも伝えておいて……一昨日のことは私が悪かった。だから、私のことは……本当に悪かったって……」
今何かを言いかけようとしていたよな?
言おうとしていたが、それをやめていた。そんな感じがしている。あまり詮索はしない方がいい。だけど、こればかりは詮索しないとダメだ。これ以上放置しておけば何か大きな綻びとなってしまう予感がする。
「家族となにかあったのか?」
「別になんも……」
微かにだが怒っているような声を出していた。
この反応の速さ間違いなく家族絡みでなにか起きたと見ていいのかもしれないが、これ以上この件に触れるのは得策ではないだろう。
「そうか、俺はもう部屋に戻るけどちゃんと飯食べろよ」
それ以上なにも触れることなく俺は部屋に戻ることにした。
部屋に戻った後、俺はある電話番号先に電話をした。
「俺だ、竜弥だ」
電話をかけているのだが全く声を出そうとしてこない。
完全に怒っているな、二年間電話してこなかったことを……。
「恵梨、二年間電話しなかったのは悪かった。だけど力を貸して欲しいんだ」
「別に電話をかけなかったことを怒ってるんじゃない」
低めな女性の声が聞こえてくる。
そう、その声の持ち主は間違いなく
正直千里達の中でなら二番目に電話するのが怖かった。けれど、今はそんなことを言ってられない。なにより、彼女ならちゃんと謝れば許してくれるだろうという気持ちがあった。
「私が怒ってるのは千里のことを裏切ったくせになぁなぁでよりを戻して一緒にいること、それが私には許せない」
「ごめん、俺が悪かった。全部恵梨の言う通りだ」
床に思いっきり打ちつけている音が聞こえて来ていたのはそれは土下座をしながら頭を打っているからである。それを聞いていた恵梨は少し嫌そうにしながらも溜め息をする。
「はぁ……反省してるのは伝わった。それでなに?」
「実はある旅館を調べて欲しいんだ、情報は本当に少ないんだが與那城って珍しい名字の人がやってる旅館のはずだ」
「情報少なすぎ……もっとないの」
少なすぎと言われても與那城は俺に旅館のことをあれ以上喋ってはくれなかった。何か手掛かりになりそうなもの……。ん?そういえば、随分前に旅館の名前が入った名刺を拾ったよな。
「天屋旅館、天屋旅館で調べてくれないか?」
それが本当に與那城と関係する旅館なのかはわからない。
だけどなんとなく俺の中で関係するんじゃないのかと考えていたのだ。
「天屋旅館、分かった。調べてみる」
溜め息を吐きながらも了承してくれた。
これだけしかの情報を持っていなかったのは俺の責任でもあるな。與那城は自分のことを聞かれようとすると基本的にはぐらかすから、聞けるタイミングが全くなかった。
特に自分の過去のことは全くな……。
「調べておくけど聞く前にちゃんと調べた?」
「あー悪い……調べてない」
「調べてから電話してよ」
自分で調べるという選択肢はほぼなかった。
元より恵梨を頼れば早いだろうという気持ちしかなかったのである。
「悪かった、今度会ったとき殴りでも蹴りでも受けるからさ」
「分かった、じゃあ本当に蹴り入れるから覚悟してて」
「お、お手柔らかに頼む……」
恵梨の蹴りをもろに受けたらきっとひとたまりもないだろうな。
正直俺は恵梨と最初会話したときは正直かなり怖かった。基本的に恵梨は無口だし喋っても口数が少ないからだ。なにより一番怖がってたのは不良グループを一人で倒したという噂を聞いていたからだ。まあそれは本当のところを言うと暴走行為で近隣住民がかなり迷惑していたところを恵梨がたった一人で潰したと言うだけの話だ。
やば過ぎてその話を知ったときは更に戦慄したけど……。
「私を頼ったの……一人旅が好きだから?」
「そうだな……旅好きなの恵梨なら何か分かると思ったんだ。千里と調べてても時間が掛かるだろうし……香織はなんか別の方向に話行きそうだし
特に琉藍はまずい。
話を聞いてるは聞いてるんだが、知らない人からすればなにを考えてるのか全く分からないし最後に最後に上げて落としたりするからな……。
「竜弥……次千里のこと裏切ったら指詰めさせに行くから」
恵梨はバンドメンバーの中で俺と千里の関係をかなり嬉しそうに見ていた人間だった。
だから俺達の関係は結構応援してくれていた。結局俺は恵梨の期待も裏切ることになってしまったのだ。本当に最低な男だな、俺は……。
「それとそうやってウジウジしてる竜弥も嫌い」
恵梨はそれだけ言って電話を切るのであった。
ウジウジしてるか、やっぱり恵梨には誤魔化せないか。どれだけ誤魔化そうとしてもきっと顔に出てしまっているのだろう。だから、亜都沙にはバレたんだしな……。
「俺も調べるか……」
俺は恵梨からの電話を切った後にスマホで與那城が言っていた旅館について調べ始める。
変わってなかったな恵梨……。
「どうも
人狼ゲームが始まろうとしていた。
最初に挨拶をし始めたのはNoAというイラストレーター兼Vtuberの人だ。最近絵師の人がこうやってアバターを手に入れているのはもう当たり前のことになってきているらしいが、俺はそんなことよりあることが気になっていた。
この声何処かで聞いたことがあるような……。
普段のダウナー系の声ではなかったが、仄かに彼女の感じが残っていたのだ。
八十科 恵梨の声であった。
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