第15話 二人の絆
「ど、どうも久龍アンナです……!」
「こんろー……神無月ロウガです……」
今画面の目の前で映し出されているのは俺の配信画面であった。
端の方に俺達のアバターが置かれているということはもう気づいてる人も居るだろうが、これは俺達二人っきりのコラボである。恥ずかしさのあまり死にたくなりそうにながらも俺は一生懸命配信を続けようとしていた。
何故こうなったのかを簡単に説明しよう。
「ど、どうする?竜弥」
「どうするって言われてもな……」
俺達のことをエゴサしながらも電話を続けていた。
俺の名前でエゴサした限り、俺のことを知っていそうな視聴者は寧ろ俺が玲菜やメア以外の女性と話せることに安堵している様子であった。まあこれに関しては俺が異性と付き合いなさそうって前のゲームで証明させてしまったのもあるだろう。
だけど、これには色々考えられる。元々俺の視聴者層は年代が低い。
友達目線というべきだろうか、俺のことを素直に祝福している奴らが多かった。これはこれで良かったというべきかもしれない。思い返してみれば、俺はメアにかなり変なことを言っていたのに向こう側の視聴者から「は?」みたいな反応されなかっただけマシだろう。メア曰く俺は天然だから言われても気持ち悪く感じないと言っていたが俺にはその意味がよく分からなかった。
そして、問題となるのは久龍側の視聴者だ。
俺の名前でも久龍の名前で調べても多少ではあるがざわついている感じはある。俺達が付き合っていると勝手に盛り上がっている視聴者、勘違いしている視聴者が多く見受けられる。まあこればっかりは俺の視聴者とまた別の層が見ていることも原因だろう。
今回の一件、間違いなく獅童のせいなのだが……。
あいつには後でキツく注意するとして今は現状をどうにかしなくてはいけないだろう。
「あのさ……アタシ思ったんだけどこのまま路線を継続させるってのはどうかな?」
「正気か……?」
このままの路線を継続させるというのはつまりコンビかもしくはカップリングというものを組むということ。確かにそういうカップリング等を好きな層を作るとすれば、悪くない手かもしれない。
「あんまり男女同士がベタベタするってのもな……俺達の視聴者側がそれに慣れてくれたとしても外部からやって来た奴らがなんて言うか分からないだろ」
「そんなの関係ないじゃん、確かにそういうのを好ましく思わないという人もいるかもしれないけど……そんなのを黙らせるほど努力すればいいだけでしょ?」
「流石は努力の鬼だな……」
だからこそだろうな俺が千里に惹かれたのは……。
どれだけ苛まれようとも必死に努力をし続けて喰らいついてしがみついて俺は千里のそういう姿勢が好きになったんだろうな……。
「アタシと竜弥なら最強のVtuberになれるよ」
「なにを根拠にそんなことを……」
「高校生時代はお互い支え合って来たじゃん。バンドメンバーの皆もそうだったけど、特にあの頃のアタシを支えてくれたのは紛れもなく竜弥だよ。だからアタシ達が支え合ってお互いに背を任せ合えば最強になれるよ」
確かにあの頃の千里はメンタルはそんなに強くなかった。
だけど、俺が支えて来た訳ではない。それも千里も言っていたがそれでも千里は俺のことを買い被り過ぎている。
「俺には千里の隣に立つ資格なんて……」
「そんなことない、竜弥はアタシの同期でしょ?隣に立てる理由なんてそれで十分じゃん。だから言うよ」
「アタシが聞きたいのは、はいかいいえだけ……。教えて竜弥」
確かに俺と千里は同期だ。隣に立つ理由なんてものはそれだけで十分だろう。
よくよく考えてみれば、千里と同じ事務所に所属して同期として活動しているのだから充分隣に立っているではないか。こんなことで悩んでいた自分が少し馬鹿らしく感じてくる。俺は何を難しく考えていたのだろう。
「ああ、分かったよ。これからは……
「久狼か、いいじゃん……!よろしくロウガ……!」
「視聴者が言ってたのを勝手に付けただけなんだがな……」
俺はこのとき思っていた。
この多少強引なところが綾川千里の魅力の一つでもあり、どれだけ違うと言っても俺を引っ張ってくれる力強さにも俺は魅了されていて……。
俺はやっぱり綾川千里のことが大好きだ……。
そして今に至る。
俺達がしようとしているゲームは空気と読みと呼ばれているゲームである。これは一時期Vや配信者の方が挙ってやっていたゲームでもあり、Vになればやるべき基本のゲームとも言えるべき存在なのだ。
「今日は私達、久狼がどれだけ空気を読めるのか試して行こうと思うんだ!」
『考えた名前採用されてて嬉しい』
『採用されたニキおめでとう』
このゲーム以外で他に候補に挙げていたのは『ヒューマンフォール』であったが最終的に久龍が簡単そうなこっちのゲームを選んでいた。元々ゲームをやってたことなんてなくて俺のゲーム実況を見ていただけと言っていたしこういうゲームの方が楽だろう。
「それじゃあゲーム始めて行くぞ」
簡単なゲームだ。事故など起こるはずがないだろう。
そう思っていた時期が俺にもあった。
「久龍……?久龍、なにしてるんだ?」
『コマネチしてて草』
『そのポーズはまずい』
「えっ?どうしたの?こんなポーズの恰好見たことあるよね、コマネチ」
「久龍!!?女性がそのポーズはまずいだろ!?」
何処かで見たことあるようなダンスの振り付きで久龍はコマネチで止まっていた。
そのポーズのままずっと止まっているせいで俺は困惑し続けていた。女子がそのポーズ取ったままでいいのか!?なんで笑ってるんだ!?
「久龍……!?おい久龍!?」
『お労しやロウガ』
「見てロウガ、落ちてるよ!」
久龍は排泄物の方に突っ込もうとしている。まずいこれは流石に踏ませる訳にはいかない。
というかちさ……久龍ってこんな奴だったか!?明々とし過ぎているせいでこんなだったかと俺は困惑していた。絶対違うだろ。もしかして俺とコラボしているせいでテンションが上がっているとかないよな……。
流石に俺の勘違いだよな。
でも、俺も少しぐらいはテンションを上げても怒られないだろう。
「もう~ロウガ最低だよ……!」
「別に変なことしてる訳じゃないんだからいいだろ」
「セクハラだよ、変態!」
『セクハラで草』
『ロウガ君さぁ……』
ライオンたちが群がっているなか、俺達はその現場に突っ込み見ようとしていた。
羞恥心を感じているのか久龍は俺のことを止めようと必死になっていたがそれでも俺は止まることがな突っ込むと、別の空気読みへと変わる。
一瞬だけだが、久龍に罵倒されて喜びそうになっていた自分の頬を思いっきり抓りながらも理性を保たせてるために背筋を伸ばして座り直した。
「ロウガ、これ雪玉全く動かないんだけどどうすればいいの!?」
「えっ、ああ、多分それなら……って俺の方に飛ばせよ!?」
移動方法が分かったのか、棒人間を操作しながら雪玉を飛ばす久龍であったがその姿は子供が雪を見てはしゃいでいるかの様子だった。
「ごめんごめん、こっちに飛ばせばい……あっ終わっちゃった」
「なにやってんだよ」
「なにやってんだよって言いたいのは私の方だよ、さっき交「ああ!!やめろおおお!!!」」
『配慮助かる』
『めっちゃ言いかけてて草』
危ない千里に思いっきり卑猥な言葉を喋らせるところだった。
俺は認めねえぞ。千里……じゃない。間違えた、久龍がそんな破廉恥な言葉を言うなんて……。俺は絶対に認めねえぞ。
「ど、どうしたの?いきなり大声出したりして……ビックリしちゃったよ」
「あーいや……そのゴキブリが居たからさ」
「そんなの潰しちゃえばいいじゃん」
「めっちゃ簡単に言ってくれるな……あいつら結構早いんだぞ飛んだりするし……」
さっきちょっと思ったけど、俺久龍の若干厄介オタクになってないか……。
いや、でも俺が尊敬していて尚且つ……千里のファン第一号の俺から言わせれば千里が下ネタ言おうとしてるところなんて見たくなかったぞ。いや、でも厄介ファンって言うのは「千里はそんなこと言わない」みたいなことを言い出すのであって俺は全く違う……一緒なのか?
もしかして、その領域に踏み入れてる!?嘘だろ、俺がその領域に踏み入れてるのか……!?
俺はただ千里がエッチな言葉を使おうとしていたのを阻止しようとしただけだ。そもそもこれが間違いなのか……。
「俺もう久龍が分かんねえよ……」
視聴者にも久龍にも聞こえない声で俺がそう言う。久龍としての彼女は子供っぽいところが多いのは知っていた。知っていたが、此処までとは思わなかったのだ。獅童は獅童でやや問題行動が多いし、もしかしてまともなのは僕だけ……いや、女性に変な発言する俺がいい人ではない。
「ロウガ、電車に乗らないとほら早く……!」
先ほどまでまるでカップルのように二列で並んでいた俺達であったが、電車が来て俺達はそれに駆け込み乗車しようとする。
「あっ……ぷっ……!おもしろっ……」
乗ろうとしていた電車に間に合わずちょうど扉のところに顔面が張り付くような形になり、久龍は楽しそうに笑っていた。
「私達全然空気読めてないってなんでだろうね」
「いや心当たりしかないだろ……」
やっていることと言えば、テレビの中継中に撮影を妨害しているようなもんなのばっかだった気がする。
しかも、それが悪びれることもなくお互いにキャッキャッしているとかいうカスみたいな状態だったしな……。
「じゃあ私達って空気は読めてないってこと?」
「空気は読めてなかったけど連携力は強かったんじゃないのか?」
「おっいい感じにまとめられたじゃん!確かに空気読みに関しては全然ダメダメだったけど私達の連携力は試すことが出来たかな」
途中までは俺が久龍にツッコミを入れながらなんとか孤軍奮闘していたが「もうどうでもいい」と言った感じに脳の制限が解除されてからは俺達を止められる奴は居なくなっていた。
「それじゃあ、今日の配信は此処まで!それじゃあ……せーの」
「「おつドラロー!」」
いい感じに終わった今回の配信。
視聴者数も結構な人達が見ていてくれていたようだ。
「竜弥、生きてる?」
「人を死んだみたいな言い方するな……」
「ふふっ、さっきは色々ごめんね」
「なんであんなテンション高かったんだよ、ビックリしたぞ」
あんなにもテンションが高い千里をあまり見たことがなかった。
何故なのかという疑問が浮かんでいた。
「アハハ、配信中元々子供っぽいって言われること多いんだけど、なんか今日の配信テンション上がっちゃってさ……本当にごめんね?」
「はぁ……まあ次から気を付けてくれればそれでいいよ。俺も途中から悪ノリしちゃったし……」
まさか自分があそこまで悪ノリするとは思ってもいなかったが……。
次のコラボからはこういうことが無いように気を付けなくては……。
「一応聞いていいか?配信中下ネタ言いそうになったのはなんでだ……?」
「それもテンションが上がっちゃったから……。後それに関しては本当に忘れて」
「まあ忘れて欲しい内容ではあるよな……」
今にも悶え苦しみそうな声で千里が唸り声を上げ始める。
相当恥ずかしい思いをしたんだろう。俺はてっきりあれはあれで楽しんでいるのかと思っていたが……。
「ところでなんであんな言葉を知ってたんだ……?」
「竜弥の部屋にあったやつ……」
「は?……それってアレだよな?」
一瞬思考が固まる。
千里が俺の部屋に来たときかなり動揺していたことがあった。俺はそれがなんだったんだろうと今の今まで分からなかったがようやくそれが分かった。
間違いなく俺の部屋にあるパソコンで起動したままのゲームを見てしまったのだろう。俺は何故消すのを忘れていたのだろう。
「多分そうだと思う。机の上の置いてあったし起動しっぱなしだったから目に入っちゃった……」
「ごめん……俺のせいで変なことを覚えたよな」
言い訳をしようと思った、例えばそういう系のゲームも興味を持ってしまって偶々買ってしまったからと……。色々と言い訳は頭の中で思い浮かんでいたが、結局のところどれも解決策にはならないだろうと俺は考えた。
考えた結果、素直に謝るのが正解だろうと考えた。
それによく考えてみればあの言葉を学ばせたのは俺のせいとも言ってもいいだろう。俺はなんてことをしてしまったのだろうか。
「別にいいよ、アタシは気にしてないよ……でもなんでそういうの買ったのかは割と気になるかな……」
「18歳になったからその……手出したくなって買った……」
「めっちゃ素直じゃん」
本当は坦々で活動した頃、18になったらそういうのやって見なよと言ってきたダメな視聴者に勧められて買ってしまったのだ。しかし、そんな建前はいらないだろうし何の意味もなさないだろう。
「幻滅したよな……」
「いいんじゃない?男性ってそういうの好きなんでしょ?」
「好き……?好きでは……まあはい」
本当のところはそういうシーンになって顔を真っ赤になって見るのが耐えられなくなってそのままにして千里を部屋に招き入れたということを思い出していた。
「本当にごめんな、……言いふらしたりだけはしないでくれよ?」
あれを千里に見られたのは最悪そのものだった。
最悪なのはそれを目撃してしまった千里だろうけど……。
「しないよ。でも、竜弥がまたアタシの目の前から何も言わずに消えたりしたら香織達とかに全部話しちゃうかも。嬉しそうにセクハラしてきたこととかエッチなゲームをアタシに見せてきたとか…‥後はずっと思ってる人がいるのに女の子とイチャイチャできるゲームしてたとか」
最後の方がごにょごにょ言っていて全く聞き取れなかった。
「いや、見せてはないぞ!?」
「偏向報道ってやつ……。嫌ならずっとアタシのそばにいて」
「居てくれないなら全部バラす。アタシにそういうえっちな知識仕込ませたって」
「仕込ませてはないんだけどな……。はぁ、分かったよ……」
気を紛らすためにも俺は別のことをしようとしていた。
これ以上千里に聞かれたくないしな……。
俺は今日の配信のことをエゴサしていると、割と反響があったようだ。
『二人共あんなにも仲良いなんて知らなかった!』
『途中からロウガも悪ノリしてて笑った』
『久龍初めて見たけどめっちゃノリ良くて可愛い子じゃん!』
俺は検索で引っ掛かった投稿を見ながら千里の電話に出続けていた。
「どんな感じだった?」
「良さそうではあったな」
此処まで好評だとは思ってもおらず、肩の力が抜けたような感じが自分でしていた。
俺的にはほぼ玉砕覚悟での配信だったからどうなることとは思ったけどな……。
「竜弥……」
「なんだ?」
「これからきっともっと忙しくなってくると思う。久狼としてのコラボも増えることだろうしさ……」
「だから改めてよろしく、アタシの相棒として!!」
彼女に魅力に引かれたのは何も音楽や強さだけではない。
心の奥底から楽しそうに笑っている心温まるこの声にも惹かれたんだ……。
「ああ、こっちこそよろしく頼む」
───俺はやっぱり綾川千里のことが大好きだ。
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