第14話 危機一髪!?

「来たか二人共」


 事務所のある部屋の一室に行くと、そこにはもう一人の姿があった。


「千里も来てたのか」


「うん」


 偶に思うことがある。

 俺は千里のことを意識し過ぎじゃないのかって……。今だって千里が居る事に気づいた瞬間、千里のことばかり気になって仕方なくなってしまっていた。自分でもキモいと分かるぐらい千里のことが好きなのかもしれないと考えると、俺は少し吐き気がしてくる。


『好きなら好きって告白しちゃえばいいのに』


 そういう訳にはいかない。

 俺が千里のことを例え好きでも俺は千里のことを幸せに出来る資格なんてものはないのだから。


「今日呼んだのは他でもないキミ達の方針を決めるためだ」


 それぞれの登録者数が資料には書かれていた。

 俺はその資料を見て思わず驚いてしまっていた。千里の登録者数が八万……!?さすがは千里だな……。俺は千里が評価されいてることに自分のことのように嬉しくなっていた。


「綾川千里、キミは歌ってみたやショートでの伸びがかなりいいな。今後もこの調子でよろしく頼む」


 ナタデ子で活動していた頃の登録者数を少し見たことがあるが、確か13万人だったはず。

 この調子なら余裕で抜かすんじゃないのか……。


「次に樫川竜弥……キミは見事私が提出した条件をクリアして見せた。まさかこの短期間でクリアできるとは思ってもなかったぞ」


「大会中のおかげってのもありますけどね……」


 俺の登録者数は今六万人……。

 大会に優勝したこともあってか、さまざまなゲームの大会から出場依頼が来ていて大変だ。さらに言えば、コラボ依頼も増えてきているということだ。そういえば玲菜からもコラボ依頼が来ていたな。あいつからの依頼ならすぐにでも受けてもいいだろう。


「それでも見事達成出来たのはお前自身の力のおかげだ、誇っていい」


 思っていたより俺のことを褒めてくれているで俺は思っていた人と少し違うのか?と感じていた。俺の中での澤原さんはなんというか怖い人というイメージが強かった。その認識を改める必要があるのかもしれないな。


「次に與那城静音だ……おおむね良好だが言動が多少目に余る。あまりやり過ぎるなよ……」


 與那城が何か言いたそうにしているのを見て俺は肩を押さえて落ち着かせていた。

 與那城の……獅童の配信は何度だが見たことがある。視聴者との絡みが多く視聴者としても嬉しいだろうと思うのだが、問題が一つだけある。與那城の配信は時々アンチがやって来るのだがそれを全く無視することもできず、読み上げてしまうのだ。それを捌けるなら一流の配信者とも言えるかもしれないが與那城の場合はそれが出来ていないのが現状だ。


「なんだよ、ったくこっちは馬鹿にされたから反論してるだけだってのに……!」


「まあなんだ……澤原さんの言い分も理解できる。與那城の配信は少しやり過ぎだ。アンチのコメントだけじゃなく拾わなくていいコメントとか余裕で拾ったりしているからな……」


 特に拾わなくてもいいと思ったのはネタバレコメントだ。

 ホラーゲームとかの配信は特にこの手のが来ることが多い。例えば「次にこの仕掛けがあるよ」とか「このアイテムを取れば~」みたいな奴をだ。後は入れていいのか分からないが、「あっ」みたいな反応もネタバレみたいなものかもしれない。


 じゃあその対策はあるのかと言うと実際はない。

 概要欄にネタバレ禁止とか入れようがタイトルにネタバレ禁止と書こうがしてくる人はいるのだ。俺の場合、こういうことをすると視聴側も配信者側もあまり良い気持ちではないから止めようねとは伝えていた。もちろん、そういうことをいち早く伝えたいのは分かるけど。という相手のことを完全に否定しない言い方で。


「ちぇ~千里はどうやってそういうコメ無視してんだよ?」


 配信を見る限り、千里のコメント欄はあまりそういう人は少なかった気がする。

 俺があまり想像できないだけだが「音が外れてますよ」とかそういうコメントが多いのだろうか。


「あーごめんアタシそういうコメントあんまり来たことが無いから参考にならないかも……。来ても全部無視しちゃうし、言われたことをバネに歌唱力や音楽力上げればいいとしか思ってないから……」


「つ、強すぎて参考にならない……」


「千里らしいな」


 俺は千里が悔しさをバネに成長するタイプだと知っていた。

 中学三年生の頃、俺は千里と出会ったが動画サイトで「下手」とか言われた際はかなり凹みながらも練習に練習を重ねていた。あれから徐々にメンタルが成長していき、今の強靭な鋼を手に入れたと考えると感慨深いな。





「手伝ってもらってすまないな、樫川」


 ミーティングを終えた後、俺は澤原さんの片付けの手伝いをしていた。

 澤原さんはテキパキとした人で俺が手伝う必要性もないぐらいの速さで片付けを済ませていた。


「この前は少し厳しく言ってすまなかったな」


「条件のことですか……?」


「ああ」


 俺の条件は同期とのコラボは禁止……。同時接続1000を越えなければコラボは解禁できないという条件。かなり厳しい条件ではあったが、俺はそれを突破することが出来た。大会中の出来事だからそれを突破したと言っていいのか分からないけど、澤原さんも千里達もあのときのことはおめでとうと言ってくれたんだし、素直に俺の実力と捉えるべきか。


「比較的最近は異性同士がコラボしてもとやかく言われることは少なくなってきた。そういう交流の場が増えたからだろうな。だけど、それでもやはり異性同士のコラボは見られないというし著者もいるのは事実だ、ただ見れないのなら問題はないがそれを指摘しようとしてくる視聴者もいる始末だ。だからキミは証明する必要があった」


「証明ですか?」


「ああ、キミ自身がそういう人間ではないということを多くの人に知ってもらうことでな。もっとも、キミの前世を見る限りそう言った事に関しては我々は杞憂に過ぎないということは分かっていた。だけど、そのことを知っている者ばかりではないのもまた事実だ、本当にすまなかった」


「いえ、気にしないでください」


 この界隈のことについて調べたことがあったから俺もそのことは知っていた。

 異性同士のコラボはご法度。そういう認識を持っている人がいるのまた事実だった。だから俺がそういう人間ではないという証明をする必要があったのだろう。そういう意味ではこの前の大会、背負う物以外にメアという異性が居てくれたから証明になれたのかもしれない。


「もっとも君は少しばかり天然のようだな」


「す、すみません」


 メアに対しての発言のこともあって、俺は何も言えないでいた。

 事実だからな……。


「気にしないでくれ、それが面白いと思ってくれている視聴者もいるようだからな」


 澤原さんは片付けを終えると、家の鍵がポケットの中から出ているのを見えていた。

 キーホルダーのようなものを付けているようで見ていると……。


「それってあれですか?」


 ベイソードのキーホルダーが気になってしまい、俺は澤原さんに聞いてしまっていた。本当は人のものを見て言及するなんてよくないのは分かっていたが……。


「知ってるのか?」


 俺が頷くと、若干澤原さんの目が輝いたように見えた。

 それはまるで少年の心を取り戻したかのように……。澤原さんのような人でもそんな目をすることがあるんだな。


「ま、まあ最近またベイソードは流行り出すようになったからな……知っていても」


「ソード、何が好きなんですか?」


「ああ、それは……」


 澤原さんは楽しそうに語り出した。

 俺もベイソードについては多少は知っていたから一緒に語れると思っていたのだが澤原さんはそれ以上だった。限定品であるものについての話やら大会でのことなど事細かく話してくれた。

 俺は正直澤原さんのことを固い人だと思っていたから少し意外になっていた。これこそ本当に見た目と裏腹にということか。


「すまない、少し長々と話し過ぎたな。そうだ樫川、今度一緒にベイを見に行かないか?幾つか布教用に買ってやれることもないんだが」


「そ、そんなにですか?流石に……」


「遠慮するな、聞いた限りだと最近はやってないみたいだからな。これを機に新しいのに触れてみるも悪くないだろう?」


 澤原さんは再び少年のような目に戻っている。

 流石に断りたいけど折角の機会だしいいかもしれない。それに澤原さんのことを知れるいい機会にもなりそうだ。


「じゃあお言葉に甘えて」


「ああ、楽しみにしてるぞ」


 澤原さんと約束を交えて軽く握手をする。

 澤原さん、最初は厳しい人かと思っていたけど結構面白そうな人だな。ベイソードの話をしている時なんて特に楽しそうだったし。二人の間で約束を交えていると、室内に千里が入ってくる。


「まだ帰ってなかったのか?」


 てっきり俺はもう帰ってるとばかりに思っていた。


「澤原さんお疲れ様です、外で静音と待ってたんだ。それと竜弥、帰り静音と一緒にご飯を食べに行こうと思ってるけど行く?」


「ああ、俺も行くよ……澤原さんは……」


「俺は遠慮しておく、これからまだやることがあるからな」


「そうですか、それじゃあ澤原さんお疲れ様です」


「ああ、お疲れ」


 澤原さんも誘うとしたが、これからまだ仕事があるなら仕方ない。

 俺達は部屋から出て事務所を出ようと、三人で歩いているときであった。俺の目の前を銀髪の女性が通り過ぎたのであった。


「あ、あの……面接のとき会った人ですよね!?」


 間違いない、あのときエレベーターで一緒になった人だ。

 俺はあれから何度か事務所に来ていたこともあったが、あの人に会うことはなかった。


「……お前か、此処にいるということは合格できたんだな」


「は、はい……!」


「これからも頑張れよ二期生」


 少し低めで綺麗な声を持つ女性に俺はお礼を言ってからその場を去る。俺は女性からエールを貰って少し元気が出てその場から去るのであった。





 あっ名前聞くのを忘れた。







「今日はとある二人に来てもらってまーす!!」


 俺達は家に帰った後、二期生コラボをしようと話になった。

 俺はそれを了承して配信の時間になるまで準備をしていたのであった。



 コメント欄を見ると、初の二期生コラボということもあってかなり湧いているようだ。

 数ヶ月とはいえ同期コラボを無しで今まで活動してきたんだ同期の仲が悪いと心配していた人も居ただろうな。実際エゴサをしていると、かなり心配していた人達はいたようだからな。


「あっ自己紹介が遅れましたライオン界の元ヤンキー、獅童レイとは俺のことよ!!」


 この自己紹介を何度も聞いたことがあるその度に俺は頭にハテナマークが浮かんでいる。

 縄張り争い的なのはもちろんライオン界隈でもあるのだろうけど、ヤンキーという括りのものは存在するのだろうか。


 それにしてもヤンキーと言えばあいつのことを思い出すな。

 元気にしているのだろうか……。と言っても俺が二年間連絡をしていなかっただけなのだが……。


「はい、次……久龍アンナ」


「こんドラ、みんなに届け私の音楽!久龍アンナだよ……!」


 久龍アンナ、これが千里のVの姿だ。

 姿はドラゴンの翼のようなものと角のような物が生えており金髪の髪型をしている。かっこかわいい系が合わさったそんな感じにも見える。


「じゃあ最後……!ロウガ!」


「こんろー!どうも神無月ロウガです」


 こうして始まった俺達二期生のコラボ……。

 このまま何事もなく進んでいくかと思われていた矢先に事態は起こる。


「なんでこうなるんだ……」


 俺たちがやっていたのは同期の絆を測るためにそれぞれ出された問題に三者が答えてそれが合えば配信終了という配信であったが、問題が起きた。


「思い出の場所はライブハウスだね……色んな音楽が聴けたりしたのは勿論バンドとかとの一体感を感じて楽しかった!!」


「なんで久龍と同じ答えなんだ……」


 これに訳があった。

 訳あって俺が一緒にライブハウスにやって来たことがあった。そのときには久龍は俺にありがとうと伝えてくれたのを今でも覚えている。

 俺はそれが嬉しかったし何よりも代え難いものだった。


「好きな曲は『完全感覚dreamer』です!あ、あれ?す、すごい偶然だねロウガ……」


 『さっきから二人だけめっちゃ一致してない?』


 『レイハブられてて草』


「もう俺のことハブらないでくれよ!?」


「ごめん、ごめんそんなつもりじゃないんだけどね……」


 これも一緒だった。

 この楽曲は俺が久龍と初めて会ったときに偶々歌っていた曲であり、俺はそれに惹かれるように彼女が歌っている姿を見ていたのだ。あれからもう5年は経つのか。


 それからも久龍と俺の答えがほぼ一致していたのであった。それが偶々なら偶然で済んでいた。久龍が俺の答えに全肯定をしたりするせいで変な関係かと怪しまれないか心配していたのだ。


 極めつけは獅童が俺たちに……。


「実は二人って付き合ってたりするのか!?」


 大きな声で堂々と声を張り上げる獅童に俺たちは一瞬黙り込んでしまう。


『俺は千里のことが好きだ!!』


 あのときの告白。

 久龍……いや千里は覚えているのだろうか。結局それどころではなくなってしまったが……。


「あーいやほらロウガって孤独に生きてた狼人だったじゃん?偶々羽を痛めて飛べなくなっていた私に話しかけて来てそれから意気投合して友達になったんだ。ごめんね、レイには内緒にしてて」


 『あったけぇ……』


 『同期てぇてぇ……』


 よしっ、多少無理はあるかもしれないけどなんとか俺たちが付き合っていないと言うことを分からせることが出来た。これで一安心だと思っていると……。


「えーでもこの前二人っきりで昔水族館行ったって話俺にしてたじゃん」


 『えっ!?そうなの!?』


 『二人って実は……!?』


 獅童は止まろうとはしなかった。

 しかし、この状況少し危ういかもしれない。話自体俺達が高校生時代のことだが、異性同士の同期が外で二人っきりで仲良くしているというのがバレたこの状況が……。行った先が水族館ということもあって、余計怪しまれるだろう。


「あーそれはね、ロウガに山以外の外を教えて欲しいって頼まれてそれで水族館連れて行ったんだ。ロウガは美味しそうな魚が泳いでるって涎垂らしてたけどね」


「そ、そうなんだよ!俺が美味しそうだなって言ったら食べちゃダメだよって笑いながら言ってたもんな!」


 『ほんとに?』


 『久狼めっちゃ仲いいじゃん』


 『なにそのカッコいい呼び方』


 これもなんとか久龍がフォローしようとする。

 コメント欄を見ると少し湧いてるようだがこれでもまだ荒れているような感じではない。


「ふーん?」


 獅童、完全に俺達の関係を怪しんでいる。

 此処で配信を終わらせないと駄目だ。これ以上は荒れる確率が高くなるだけだ。お題に関しては祭りの屋台で好きな物で完全一致でたこ焼きとなった。終わらせるには最善なタイミングだ。


「さて一時はどうなるかと思ったけど二期生は仲が良いということを証明できたと俺は思う!久龍はどう思う?」


「え?えっと……私達二期生の絆を改めて皆に見せることが出来てとても良かったと思う!!獅童はどう思う?」


「えっと俺は二人のかんけ……」


 俺は出来る限り獅童に喋らせないようにして配信をぶつ切りにした。この方法は俺と奏多の地獄の長時間配信で結構取った手段だから俺の配信を見ている奴なら知っているはずだ。リスクは高いが、こうするしか方法がない。包み隠さずこの場を丸く収めようとしてくれていた久龍には感謝しかない。俺は適当に配信を終わらせてすぐに自分の名前と久龍の名前でエゴサする。


「まあ多少は怪しむ人が居ても仕方ないよな……」


 俺達の関係を所謂「てぇてぇ」と呼ばれているもので考えている人も居たが、やはり俺達の関係を怪しむ人も多かった……。


「はぁ……参ったな……。まさかこんなことになるとは……」




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