第12話 仲間

 物音一つしない暗い部屋の中に布団が敷かれており、そこには三人の親子が眠っていた。

 いや、正しく言えば母親だけが起きていた。


 俺はあのときの感触を覚えている……。

 だからこそあのときのことがトラウマ、恐怖となっているのだろう。俺にとってあの出来事は今でも忘れられないほどの出来事になっているのだ。それはきっと永久的に忘れることはないだろう。


 あの苦しみと恐怖心は……。


「ちょっと待ってください……その子は……!」


 亜実が平手打ちされたことが我慢ならなかった。

 子供から目を逸らしてくせに自分のこと棚に上げて殴ってるんじゃねえよ……。ふざけんな、その子はちゃんと泣かずにアンタ達のことを探していたんだ。不安で泣きたくて仕方なかっただろうのに必死になって探してたんだぞ。それを親の怠惰で殴ろうなんて何考えてるんだ。


 言ってやる、絶対に言ってやるんだ……。

 俺は間違ってなんかない。





「竜弥さん……!」


「えっ、あっ……悪い」


 表情に出ていたのだろうか、憎悪に満ち溢れたその顔を隠すことは出来なかったのだろう。

 俺はその表情を隠すように視線を逸らしていた。


「ママ達見つかって良かったなぁ……次からはハグれちゃあかんやで」


 俺の言葉を遮るようにして声を出していたのは神崎であった。亜実は小さく「うん」と言う。

 両親たちは「ありがとうございます」とお礼を言ってからその場を去って行く……。亜実が俺達に手を振っている姿を見えて、俺は軽くだが手を振っていた。


「自分かなり酷い顔してるで」


「……悪い」


「別にウチは気にしとらんからええよ……。まあ、あの子の親も何もぶつことはないやろって思うは思うけど」


 俺は少しホッとしていた自分と同じ気持ちの人間がその場に居てくれたというにだ。


「恭平も悪かった……変なところを見せて……」


「大丈夫ですよ、竜弥さんの方は大丈夫ですか?」


「悪い、大丈夫……じゃない。少し休ませてくれ……」


 座り込むようにして俺は椅子に座り、少し休むことにした。

 二人はあまり落ち着かないのか俺の周りを歩いているようだった。





『お前は誰も幸せには出来ない、それはお前自身も例外じゃない。それはあのときから分かっていたはずだ。なのに何故未だに縋ろうとする?縋るものなど初めからないと分かっているはずだ』


 頭の中でそんな声が聞こえてくる。

 ああ、そうだよ。そんなことは分かっている。縋るものなどなにもないということぐらい俺だって分かってる。それでも俺が縋ろうとしているのはきっと諦めきれないからだ。千里との再会。Vとしての自分。恭平との再会。この全てが俺を変えてくれたような気がしていたからだ。

 俺は頭の中で聞こえていた声と会話していると、隣に二人が座って来る。



「二人共、俺に気を遣わなくても……」


 俺は二人に気を遣われるのが嫌で仕方なかった。


「別に気なんか遣っとらんよ、竜弥を放っておく訳にもいかんやろ?」


「それが気を遣ってるって言ってるんだ、俺に気なんか遣わなくてもいいから二人で……」


 ああ、そうか……。

 俺一人にして欲しいって思ってるのか。何か悩みがあればいつもそうだった。俺はいつも一人になって考えようとしていた。


「まあ……気を遣うとか以前に見たいものは見れましたし僕たちのことは気にしなくていいですよ」


「だからって……」





「辛いなら辛いって言えばええやろ」


「!?」


 辛い……?

 俺が辛い……。そんなことないはずだ、俺は今だって二人の前で笑顔という偽りを作って見せているはずだ。それなのに、俺が辛そうにしている。そんなはずがない、そんなはずがないんだ。

 俺は二人の前で……。


「辛いなら辛いでええやないか、なのにはウチらには絶対に分からへんみたいな顔しとるのがムカつくんや」


「出会って一ヶ月しか経ってない奴のことなんて分かる訳ないだろ……」


「それが間違ってるって言いたいんや。仲間に出会った日数もクソもないやろ」


 俺は神崎の顔を見ることが出来なかった。

 怖い、というような感情より目を逸らしたい現実がそこにあったからだ。俺は二人に自分のことなんて分からないだろうと思っていたからだ。恭平は俺のファンであって本当の俺のことを知っている訳ではない。神崎はこうして顔を合わせたのは今日が初めて話をして一ヶ月ぐらいしか経ってないのだ。それなのに俺のことなんて分かる訳がないと決めつけていたのだ。

 自分の中で他人に分かってもらえるわけがないと言う気持ちで器いっぱいになっていると、俺の手を誰かが掴んだような気がしていた。


「ちょっ、ちょっと……神崎!!」


 その手を握ったのは神崎であった。

 見えて行く景色が変わって行くような気がしていた。此処は展望台。見える景色なんて外を見ない限り変わらないと言うのに何故変わって行ってると思ったのかなんて俺には理解できなかっ……。いや、理解できていた。

 それは神崎が俺の手を握ってくれて暖かい気持ちになっていたからだ。

 だけど……。


「恭平止めてくれないか……」


「悪いですけど、僕は止める気はないですよ、見ていて中々面白いですから」


 なんで神崎は此処まで俺に関わって来ようとする。

 俺なんて放っておけばいいだろう。こんな惨めでどうしようもない俺なんて……。


 どうだっていいだろ、俺のことなんて……。


「別に竜弥の過去を聞いたりはせんよ、聞かれたくはなさそうやからな。ほんでも一人で抱え込むのは見てられへんのよ。まあウチなりのお節介っちゅうやつや」








「ありがとうな……亜都沙」


「うん、その笑顔やな……」


 初めての感覚だったかもしれない。

 俺は今まで自分が辛いという自覚はなかった。あのとき以外は笑って見せて誤魔化していた。それを今日初めて見抜かれた。まさか見抜かれる日が来るなんて思わなかったけど、これはまた俺の……。


 偽りが崩壊しようとしているのだろうか……。


『でもいいことなんじゃないのかい?キミはまた新しくなろうとしている。それはきっととてもいいことだよ』


 また声が聞こえてくる。

 先ほどの声とは違い、俺の背中を押してくれるような発言であった。そうかもしれないな、元々この虚構はかなりガタがついていた。なら、今度の新しい俺に託そうと思う。それがきっといい方向に転がると思うから。


 今の俺は何もない訳ではない。

 今の俺にはVという仮の姿があるからだ。


「ほら竜弥、恭平行くで!東京案内してくれるんやろ」


 俺達を呼ぶ声が聞こえてくる恭平と俺はお互いに顔を見て笑い合いながらも後を追いかけるのであった。




 続いてやってきたのは下の階にある東京ソラマチと呼ばれる場所であった。此処は三百のお店があり、色んなお店で賑わっており数年前にはゲームのカフェが出来て反響がかなりあったらしい。


「これ大阪にもあるで?中は入れるんか?」


「あーそこは予約が必要な場所でな……」


 俺達が見ていた場所はピンクで丸っこいキャラが主役のゲームカフェがある場所であった。

 他にも店舗が出来たとは聞いていたが、まさかまだこんなにも混んでいるとは……。


「因みに予約ってどれぐらい混んでるんや?」


「あーそれがなんですけど……」


 恭平は予約のリストを見せる。

 そこは一か月先埋まっているような状況であり、とても予約できるような状態ではなかった。


「なんやこれ予約いっこもでけへんか……そんな人気なんやな」


「まあそんな感じです……モンスターズセンターありますけど行きますか?」


 俺達はカフェを後にして、モンスターズセンターへと向かうのであった。

 向かう途中、こんな会話が聞こえてくる。


「恭平ってほんまに16歳なん?」


「え?あ、ああ……そうですよ俺は16歳です」


「ほんまに16歳やったんか、通りで可愛いらしいところ結構あるんやな」


「どういう意味ですか……!?そういう亜都沙さんは何歳なんですか?」


「女の子に歳聞くのは感心せんなぁ……竜弥くん何歳に見える?」


 二人の会話を後ろから聞いてるといきなり振られて来たことに俺は驚きが隠せずに居て俺は必死に考えていた。女性に人の年齢を当てるのって何気に失礼なんだろうと思うんだけどいいのだろうか。


「18歳とかか?」


 頭の中でじっくりと考えた答えだ。

 これで間違っていたら俺は絞められる気がする。頼む、合っていてくれ……。拝むようにして祈っていると、答えが聞こえてくる。


「若く見過ぎやで、21や。でもありがとうなぁ、そんなに若く見られるとちょっぴり嬉しい気分やわ。全く見習ってほしいわ人に年齢聞いてきた恭平は特に」


「悪かったですね……」


「あ……えっと亜都沙さん」


 俺は今まで自分より年上の人のことを平気でタメ口で呼んだり話していたりしていたのか……。

 急いで俺は敬語に戻していた。


「もしかして年下やったんか?」


「二十歳です」


「一歳しか違わないんやろ?別にええって……気にするほどのことでもないやろ?」


「亜都沙がそう言うなら……」


 本人がそれでいいと言っている以上、何も言わないけど一歳しか違わないとはいえ年上の人をタメ口で話すと言うのは中々に違和感があるものだな。


「着いたで此処がモンスターズセンターやな……あの蛇みたいのもモンスターなんか?」


「ああ、あれは……」


 恭平が簡単に説明していた。

 中に入り、俺達は中のグッズ等を見ている。


「恭平ってそういえば世代的にZなのか?」


「ああそうですね……ちょうどギガシンカとかの時代になりますね」


 世代的にそうだろうと思っていたが、まさかもうZをやっていたような子が高校生ぐらいになる年齢か……。


「俺はギリギリ白金世代だったからな……まあ馴染みがあるのはその後の白黒だけど……」


「白黒いいですよね!確か最後のドット絵作品で、しかもドット絵が動くという……あれは3D世代としては少し羨ましかったです!」


 白黒は当時動くドット絵が注目された作品でもあり、尚且つストーリーをクリアするまでその地方に生息するポケモンしか登場しないという作品でもあり新しいポケモンばかり見れるというワクワク感もかなり得られた作品であった。


「そうか?モンスターが3Dで動くのも当時は結構画期的だったと思うぞ」


 白黒と言えば、当時俺はオノドクスというモンスターが好きだったが対戦ではいつも妹が伝説ばかり使って来るのでこれでもかと言わんばかりの暴力を味わされたことがあるのを今でも覚えている。その度、妹は俺に勝てばいいんだよと言っていたのも覚えている。


「あっこれって確かリープやな……!このポケモン覚えてるで!」


 亜都沙が手に取っていたのは羊のモンスター。

 確か第一進化のモンスターで進化すればかなり強いのになったはずだ。


「リープですね、確かに可愛らしいモンスターですが進化すれば強力なポケモンになって……」


 多分その解説は亜都沙は聞いてないぞと思いながら俺は恭平のことを見つめていた。


「オノドクスのぬいぐるみがある!?」


 俺はオノドクスのぬいぐるみを見つける。

 このフォルム……。ぬいぐるみになっても健在ということか。怪獣を思わせるそのフォルム。顎の周りにはカッコいい斧のようなもの牙が付いており、それがまたカッコよくこの姿から放たれる「逆鱗」という技がこれまたカッコよくこのモンスターの専用技にして欲しいぐらいだと俺は常々思っている。

 ゲーム実況者だった頃、こいつでマスター級を目指す動画を何本も撮ったのを今でも覚えている。


「買うか」


 俺はそれを手に取ってそのまま買い物カゴの中に入れた。

 その後、俺たち三人はそれぞれ好きなものを買って此処を後にして俺は恭平と二人っきりになっていた。


「恭平その……」


「竜弥さん、僕はどうしても貴方に伝えなくちゃいけないことがあります」


「俺に……?」


 柱の前で俺と恭平はお互いに向き合っていた。

 恭平は真剣な表情をしていて何かを言おうとしていた。







「僕は貴方に失望なんかしてませんよ」


「恭平……」


 俺は正直その言葉を言われたとき、嬉しくなっていた。俺はずっと恭平に失望されていると悩んでいたからこそあの言葉を聞いたとき心の底から救われていた気がしていたのだ。


「伝えたかったことはそれだけです」


 恭平はそれ以上何も言うことはなく、戻ってきた亜都沙の方へと行くのであった。

 ありがとうな、恭平……。その言葉のおかげでどれだけ救われたことか。





「デビル君……?竜弥、これ知っとるか?」


 偶々もらったビラのところを見ると、そこにはデビル君というマスコットが来るというものだった。あれ?スカイツリーって普通に自分のところのマスコット居たはずだよな。


「いや、俺も知らないな」


「デビル君……?あー最近この東京で有名になっているマスコットですよ」


「知ってるのか恭平」


「僕もあんまり詳しい訳ではないんですけどなんでもすっごい身体を張ってるマスコットらしくて地方のテレビでドッキリ爆破で全力疾走していた姿を見て一躍有名になったそうです」


「大変なんやな最近のマスコットも……」


 マスコットキャラクターも最近はあまり見かけなくなってきたし、色々と大変なんだろう。


「ちょっと見てみるか?神崎はまだ時間あるか?」


「ウチは大丈夫やで、それより見に行くなら急いだ方がええんちゃう?こういうの混むやろ?」


 それもそうだ、俺達は急ぐようにしてデビル君のところへ向かった。


「随分奇妙なマスコットやな」


 俺たちがデビル君と呼ばれるマスコットの前に行くとそこに居たのは確かに奇妙なマスコットであった。全身は紫色、丸く何処かとなく昔ブルーベリーのCMで見たような気がするフォルムをしていた。


 何をするのかと俺たちは見ていると、始まったのはマスコットキャラとはとても思えないものであった。バク転をしたり前転をして見せたりマスコットでありながらかなりの身のこなしに更には司会の人も扱いに関してはかなり雑にしていいと思っているのか飛ばしたりなど割とやりたい放題であった。


「な、なんかウチが知ってるマスコットと扱いかなり違うんやな……」


「確かにマスコットってもっとこうゆるふわな感じだと思っていたな」


 後で調べてみたが特撮作品?の敵キャラにもされたことがあったそうでどうやら扱い的には間違いないようだ。


 そして、俺達は今デビル君と写真撮影をすることになったのだが、恭平があることに気づいたのか何か言おうとしていたが、俺はそれに首を振っていた。


「あのマスコット……ファス「それ以上はダメだ」」


 写真を撮り終えた俺たち三人は「面白かったねー」と話していたのだが、写真を撮っている途中に気づいたのか恭平が言ってはいけないことを言おうとしていた。


「あかんで恭平、ファスナ……ウチも危ないところやったわ……」


「とにかく子供の夢を壊すようなこと言うのはまずいからな」


 でもデビル君を見に来ていたお客さんたちって大人が多かった気がする。なら別に良かっ……いや、良くないか。普通に考えてダメだろ。俺はスマホで時間を見ていた。


「いたっ!」


 スマホを見ていると、走ってきていた女性とぶつかってしまう。


「あ、アンタ何処見て……いや走ってたウチが悪いか……。悪かったわねアンタ!でも元はと言えば周り見てなかったアンタも悪いんだから次から気をつけなさいよ……ウチ時間ないからじゃあ!」


 言うだけ言って去っていく女性。

 嵐のような人だったな、と思いながら俺は去っていく彼女の姿を見つめていた。


「竜弥、大丈夫なん?」


「あー大丈夫だよ亜都沙……俺も周り見てなかったのが悪いから……それより時間大丈夫か?」


 先ほど時間を見たが新幹線の時間が迫ってきている。


「あーもうそんな時間なんやな……二人共今日はありがとうな」


「駅まで見送ってくか?」


「ええんか?じゃあ甘えさせてもらうで」


 少し名残惜しそうにしていた亜都沙を見て俺は駅まで着いていくことを提案した。此処で別れるというのは少し悲しい話も気がするしな……。


「竜弥……元気になって良かったで」


 俺の隣を歩こうとしてくる神崎。

 俺はそれに対して少し意地悪するように早歩きをするとそれに合わせようとしてくる亜都沙を見て俺は根負けして普通に歩くことにした。


「ありが……「お礼はええよ」すまな「それもええ」」


「ウチは別に竜弥の過去も詮索せん、でも竜弥が何かあったらウチは力になる。それだけは絶対に言えるで」


「どうしてそんなふうに言ってくれるんだ……?」


「なんでやろうな?困ってる竜弥を見過ごせへんって気持ちがあるんやろうな……庇護欲というかそういうもんに近いのかもしれんな。自分で言っててちょっとドン引きやけど。だから、辛いときには相談してくれてええよ……もちろん恭平もな」


「えっ、はい!分かりました!!」


 俺は自分のことを今までそんなふうに言ってくれるような人は居なかった気がする。

 俺の真意に触れた人は皆俺のことを可哀想だという目で見て来ることが多かった。だけど、亜都沙は違った。亜都沙は俺のことを異質という目で見ずにちゃんと俺という人間を見てくれていた気がしていたからだ。それが俺の中で嬉しかった気がする。

 知り合って一ヶ月弱の人間をそんなふうに思うなんて、単純だと思われるかもしれないけどそれでも俺は嬉しかったんだ。





「じゃあ二人共今度こそありがとうなぁ……次は秋葉とか案内してや」


 秋葉か……。

 最近はオタクの街と呼ばれていた頃よりは物が少なくなってきたけど電気街のほうに行けば配信とかに役立つものが多いからな。行ってみる価値はあるか。


「恭平、勉強忘れちゃあかんで?学生はちゃんと勉強してな」


「勉強はできてますよ」


 前に聞いたとき、勉強はできていると聞いていたからそこは大丈夫なのだろう。何故か勉強はしてないと言われて「は?」となったが……。


「竜弥は……そうやな。悩みのことは散々言ったしこれだけは伝えておくで……。竜弥の笑顔ウチは好きやで、年相応って感じがして」


「えっ?あ、ああ……!!?」


 今目の前で起きている現象に俺は追いつかなかった。

 それは神崎が俺たち二人のことを抱いていたのだ。いきなりの出来事に俺や恭平まで驚いていた。俺は神崎に密着されて、少し動揺していた。


「二人共また元気でな」


「うぇ!?えっ!!?は、はい!!」


「ふふっ、じゃあ二人共元気でな!また会おうな!!」


 最後に俺たちの手を握り、握手をして手を振りながら去って行く神崎に俺達は手を振っていた。正直あそこまで大胆なことをしてくるとは思わなかったし、驚いたがこういうのも仲間っぽくて……抱きつくのは仲間っぽい行為なのか?

頭の中で混乱していると恭平が口を開く……。


「竜弥さん、俺初めて女の子に抱きつかれました……」


「良かったな……」


 俺は嬉しそうにしている恭平の言葉を軽く受け流していた。


「手握られるのも初めてでした」


「それも良かったな……」


「その……初めて感触が分かりました」


「……そうか、良かったな」


「とにかくもうなにかもヤバ過ぎて……!」


「そうか……」


「なんでそんな辛辣なんですか!?やっぱり彼女に毎日抱き付かれてるんですか!?かぁー!!いいですよね、彼女がいる人は!!いいですよ、僕はゲームが彼女でいいんで!!さっきの竜弥さんに失望してないって発言撤回しますから!!!」


「ごめんごめん、俺が悪かったよ」


 恭平の暴走気味な発言を軽く受け流していたら恭平が更に暴走を重ね始めた為、俺は流石に反応を示す。というより、駅の中で普通に大きな声を上げているので滅茶苦茶周りに見られているのもあって宥めようとしていたのだ。


「でもさっきは本当にありがとうな、俺のこと許してくれて」


「俺はただ貴方が元気にしてくれていて嬉しかったですよ」


 俺は恭平からこの言葉を聞けて良かったと安心していた。

 この言葉を聞かなかったら一生後悔していただろう。それほどまでに嬉しかったのだ。

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