第11話 過去からの亡霊
「此処だよな……?」
スマホで顔近くまで近づけながら俺は今指定された場所まで来ていた。
周りを見ればほぼ何もないような場所であり、俺は少し困り果てていた。この場所、目印になるような場所がないけど他の二人は分かるか……?都内済みなら分かるかもしれないけどどうなんだろうか。
こう言うのもなんだが無難にハチ公園前とかで良かったんじゃ……。俺は少し愚痴をこぼしながら待っていると、目の前に見覚えがある少年が立っているような気がしていた。
「恭平……?」
あの特徴的な黒髪間違いない恭平だ。
どうしてこんなところに……。周りをキョロキョロしているみたいだし、誰かを探しているようだ。まあ俺には関係のないことだろう。それにあの子には顔を合わせる資格はない。俺は結局坦々から逃げたのだから。
「あ、あの……もしかしてロウガ?」
その少年は周りに人が居ない。
そして此処にいるのは俺だけということに気づいて俺に話しかけきていた。もしかしてまさかこの子は……。
「奏多なのか?」
「えっと……奏多なんだけど。その前にどうしても聞きたい事があるんだけど……」
この少年は……恭平は間違いなく俺が竜弥……坦々だということに気づいている。
できれば気づいて欲しくはなかった。俺はあのときの約束を何も果たすことが出来なかったのだから。
「竜弥さんですよね?」
俺は誤魔化そうと考えていた。
逃げているだけかもしれないけど、恭平を傷つけない為にもその方がいいに決まっていると……。きっと此処で頷いてしまえば、恭平を傷つけてしまうだけ。目の前に俺を見てこんなの俺が見たかった坦々さんじゃないと思うに違いないと……。
「で、でも本当に竜弥さんだったらどうしよう……僕タメ口でいいなんて強く出てしまってたけど……よ、良かったんだろうか……!?というか色々弄ったりしたこともあったけど大丈夫だろうか!?僕今から嬲り殺しにされたりしないよな!?」
「そんなことする訳ないだろ、俺もちゃんとタメ口でいいと了承したんだからな」
都合のいい考えなのかもしれない今の反応を見て恭平は俺のことを恨んでなどいないと自分で納得させていた。だけど、あの恭平の慌てっぷりをみて大丈夫だと確信したのもまた事実だった。
「やっぱり竜弥さんなんですか?でも僕かなり弄ったりしてましたよね……?」
「それも気にするなって、なんなら今もタメ口だっていいんだぞ」
どうやら恭平は俺のことを弄りまくっていたことを気にしてるようだ。
俺もかなり恭平のことを弄っていた気がするし、今更だろうと思っていたのだ。
「そ、それは流石に自分が許せないんでやめておきます……」
流石に年上相手にタメ口というものはキツいか……。
俺も年上の人にタメ口で喋っていいぞと言われても正直無理だろう。
「それにしてもメアってどんな人なんですかね……。その普段の感じを見る限り、やっぱりおっとりした人を期待したい人ですけど。その本性を知っているんでやっぱり清楚の人ほど裏で煙草吸ってたりするんでしょうか……」
「見た目と裏腹になんて言葉があるけど、あんまりそういう偏見は止めといた方がいいぞ」
まあ見た目とのギャップなんてことは結構聞くことはあるが、本人がいないことをいいことにそういうことをいうのは違うだろうと俺は軽く恭平のことを注意した。すると、恭平は「すいません」と謝っていた。
「でもやっぱり気になりません……?」
「まあ、普段のメアがどんな人なのか気にならないかと言われたら確かに気にはなるが……」
雑談で普段どんなことをしているかというのは割と知っている。
確か普段は映画観賞したりしていると聞いていた。二人でメアがどんな人物なのか話していると、偶々後ろを通りかかった女性が俺は少し気になっていた。
「あの女性……」
薄茶色の長い髪をした女性が後ろを通って行った。綺麗な女性だったな、この都会の中でもひと際オーラのようなものを感じさせていたような気がする。そのオーラがどんなものかと聞かれたら困るけど、なんというか普通の人ではないって感じがしていた。
「変態みたいだな……」
前にもこんなことがあったなと自分を反省させながらもペットボトルを口に含み、水を飲み始める。喉は潤われていき、メアのことを待つことにしていた。
「もしかして……」
俺の目の前に先ほどの女性が立つ……。
なにかあったんだろうか、と俺は目を逸らしているとスマホを取り出して何かを見せてきた。
「これに見覚えあるやろ?二人共」
なんのことだろうと不思議に思いながら俺は首を傾げつつその画面を見ると、そこには驚きの真実があった。
「メアなのか……?」
「嘘でしょ、こんな綺麗な人なの!?」
俺の前に居る恭平は普通に失礼なことを言っているのを聞いて咳払いして注意しながらメアの方を見る。もう一度SNSを見ると、やはりそこにはメアのSNSが表示されていた。
「それにしても可愛いトコあるんやな、さいぜん見惚れとったやろ?」
「あっ、いや……そう言う訳じゃないんだけど……悪かった」
本人にバレていた。
それもそうか、チラッとだけとはいえ俺はかなりの時間見つめていたんだから。
「別にええで、でも……彼女はん居るのに他の女に見惚れちゃあかんで?」
「
どうやらメアはまだ俺が千里と付き合っていると勘違いしているようだ。
俺もあのとき完全には否定しなかったのも問題なんだろうけど、まさか此処まで引っ張られるとは思わなかった。
「ほして実際にウチに会ってみてどうや?そっちのアホタレはタバコ吸ってそうとか、こんな美人なんやとか普通に失礼なことを言っとったけど」
「す、すいません……」
ほんの一瞬だけメアの全身を見る。
足は長くウエストは細く所謂モデル体型と呼ばれるような体型をしていた。なにより、綺麗な緑色の瞳に俺は吸い込まれそうになっていた。
「凝視過ぎてやで?」
「仕方ないだろ……。どうって言われてもな……綺麗な人だなとしか……」
「自分結構口説き文句言うてるの理解してるんか?」
「そんなんじゃないのは……」
「神崎
メアと呼ぼうとしたがこれ以上何もなく誰も居ない場所とは言え誰が聞き耳を立てているかも分からない。それに気づいてくれたのか、名前を名乗ってくれた。
「んで、二人は仲良さそうに話しとったけど知り合いなんか?」
「ああ、まあ色々あってな……」
神崎は恭平の頭をくしゃくしゃになるまで撫でていると、恭平は「やめてください」と笑いながら止めようとしていた。俺はその様子を笑いながら見ていたがこのときあることを考えていた。
神崎の前では色々と言っていたが色々で片付けて良かったのだろうか。俺は今すぐにでも恭平に謝るべきではないのかと……。でも正直怖い、謝るのが……。やっぱり失望されてしまうのではないのかという気持ちがあったのだ。
「押上ですか……」
俺達がやって来たのは押上だった。結局、俺は恭平に謝ることはできなかった。
高さ634cmの東京スカイツリーが存在しており、中には入れば絶景であり下の様子や町の景観などを楽しめるものとなっている。中にはガラスで出来て下が見えるという高所恐怖症の人はそこに立ち入れないだろう。
「ほーら恭平どうしたんや……ビビって乗れんのか!可愛いところもあるんやな」
「か、可愛い!?だ、誰がビビってますか……僕のことを揶揄うのもいい加減に……ちょっと押すのは駄目ですよね!?」
中に入れば、ガラスの上で神崎が恭平のことを押そうとしていた。
俺はそれを離れた位置から少し笑っていると泣いているような声が聞こえた気がした。何処からだ、と俺は周りを確認するとちょっと歩いた距離に女の子が泣いているようだった。
「どうしたんだ?ママとはぐれたのか?」
俺の言葉に耳を傾けてくれたのか、泣き止むのをやめて頷いてくれていた。
強い子だ……。
「そっか、ママと最後に何処で会ったか覚えてる?」
子供は小さく「分かんない……」と答えていた。
何処ではぐれたのかを把握していてくれれば両親が戻って来るかもしれない場所に行くことも出来ただろう。いや、こんなことを言っていても仕方ないだろう。
「じゃあママとパパがどんな人か分かる?」
俺は簡単にだがパパとママのことを教えてもらった。
なんでもママに欲しくて買ってもらったモンスターズの象徴ともいえるぬいぐるみを持っているらしい。それを目印にして見れば多少は分かるかもしれないな。俺も子供の頃、よくアニメでそのモンスターを見ていたからよく知っている。
「竜弥、その子どうしたんや?」
「あーこの子親とはぐれたみたいで……」
俺が居なくなっていたことに気づいたのか、神崎と恭平が駆けつけて来ていた。
恭平は何故か息切れをしているが高所に立たされたことによって恐怖心でいっぱいいっぱいになったんだろう。
「大丈夫、俺の知ってる人だから」
そう言うと安心したのか、顔を出しながらも俺の手を握っていた。
手を握っている間に教えてもらったが、名前は亜実というらしい。
「亜実は……モンスター好きなのか?」
バッグにピカマルのキーホルダーが付いているのを見て俺は話を持ち出した。
「うん、ピカマルが一番好き」
「そっか……俺も好きだな。お兄ちゃんがやってる頃のアニメではピカマルがボルテッカーって技覚えてすっごいカッコいい技だった。だから俺もその技覚えさせたくて必死になってたんだけど全然覚えなくてな……」
子供の頃、よくモンスターズのアニメを見ていた。俺はピカマルが使うボルテッカーが好きであの高電気をため込みながら突進する技に俺は子供ながらにカッコいいと思っていた。
「それウチも知ってるで。ボルテッカーって特殊な配布か方法でしか覚えてないんやろ?」
「それ僕も知ってますね……確かでんきだまを持たせたピカマルを親にして卵を作る必要があるんですよね?」
「そうそう、それを聞いたとき俺ちょっとガッカリしたなぁ……」
俺がガッカリした理由は今まで育てていたピカマルにボルテッカーを覚えさせられないということが分かったからだ。当時、魂を込めて育てたとも言えるモンスターに覚えられないのは少し残念だったのだ。
「亜実はピカマルのどういうところが好きなんだ?」
亜実はピカマルの好きなところを教えてくれた。
可愛いところやカッコいいところと子供っぽい言い方であったが、俺はそれが一番だと思って聞いていたがケチャップが好きなことまで知っていて俺は少し驚いていた。
「えっ?ピカマルってケチャップ好きなの?」
「そういえばピカマルってケッチャプ好きな設定やったな……」
あの設定はかなり昔に設定されていた設定のはずだ。
子供が知っているとは少しビビったが最近のアニメでそういう描写があったと考えれば何も不思議ではないか。
「それにしてもピカマルがケチャップ好きな設定まで知ってるなんて凄い好きなんやな」
亜実は小さく頷きながらも、神崎の手を掴んでいた。
神崎はゆっくりと手を開いていき、その手を握るのであった。
「周りから見ればウチら家族と思われてるんかな」
「どう……なんだろうな」
家族か、あの人は……。いやあの人のことは考えるべきじゃない。
俺はあの人のことを頭から離して三人で歩き出していた。後ろを振り返ると、それを少し羨ましくしていながら見つめている恭平の姿が見えて俺は恭平の手を握る。
「あ、ありがとうございます……」
「気にするな……」
「すいません、うちの子がありがとうございます……!」
「いえ……」
少し親を探しているうちに簡単に亜実の両親は見つかった。
俺は少し安心してホッとしてながらも一安心していた。
「全く何処行ってたの!?」
次の瞬間、親はその子のことを平手打ちしていた。
俺は今目の前で起きた現象を理解できず思わず「は?」と言ってしまった。
『俺のことを殺してくれて構わない……。だけど……』
辺りは照明が切れたかのように暗くなったような気がしていた。
やめろ、思い出したくもない記憶を思い出させるな。俺はあのときの記憶を思い出したくないんだ。
親に殺されかけたあの記憶だけは……。
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