第10話 激闘の末に
『チャンピオンが決まりました』
この瞬間だ、と決めたあの判断は正しかったんだ自分の頭で理解していたからだ。敵が銃撃しているのを待ってからその場に現れる。この作戦は怖かった。既に死体のアイテムボックスは幾つもありどれだけからアーマーを抜き取っているのか、そこまでは把握してなかったのだ。先ほど倒した敵からもアーマーを抜き取る事も出来るだろう。そうなれば、ほぼ全快状態の敵と戦うことになるのだ。
その全快状態の敵と戦うことになるという俺の読みは外れた。
その前の直前敵は別チームと戦っていたことにより、一人が欠けた状態になっていたのだ。そのため、俺はこれを好機だと捉えてすぐに叩けるように突撃命令をしたのだ。その命令は正しかった。
「二人共めっちゃ仲良くなったね!」
俺は奏多に貴方がオーダーで良かったと言われて少し嬉しくなっていた。
確かにメアの言う通りだ。最初のうちはお互い遠慮がちだったが、気づけばお互い睡眠時間を削ってでもゲームをしたりまだ奏多しか集まってない通話では二人で一緒にラーメンの話で盛り上がったりしていた。
俺達いつの間にこんなに仲良くなっていたんだな。次の試合も頑張ろう、そう思っていたが……。
「出来る限り生存することだけを考えてくれ!」
事態は最悪だった。
ダメージ線ギリギリのところを回っていたのだがその周辺に敵チームが二チームほど待っていたのだ。俺達のチームだということも理解しているのか、集中砲火で狙い撃ちしてきているのだ。なにより出て来たチームがジリ貧だということも分かっているのだろう。だから俺達を狙っているのだ。少しでもキル数を稼ぐために……。奏多が別次元に移動する能力で攻撃を回避しようとしていたが、能力が終わったところを狙い打ちされて倒されてしまうのであった。
「悪い、私も死んだ!」
メアも倒されたようでボックスだけになっているのが少し見えていた。
残りチーム数を見ればそこに書かれていたのは20チームであり、欠けているのはうちのチームだけだった。
「一位から最下位ってマジかよ……」
敵に見つかった俺も倒されてしまい、そこに表示されていたのは20位という文字であった。
自分の判断ミスが嫌になってくる。今回アンチと呼ばれている活動範囲内が俺達が行動している位置からかなり遠い位置であったのだ。そのため、ダメージ線ギリギリの行動を取っていたのだがそれが仇となりその線を警戒しているチーム、更にそのチームといがみ合ってるチームと鉢合わせてしまったのだ。
俺のせいだ。
「ロウガ君もしかしてもう駄目だと思ってる?」
「だとしたら私は期待し過ぎたのかもしれないのかな」
「は……?」
配信中だと言うのに思わず強めに言葉が出てしまう。
まるで自分が諦めているかのような言い方をされて体が思わず反応してしまっていたのだ。
「だってそうじゃん、今までのロウガ君だったら絶対にこんなところで諦める訳がない。私達が知っているロウガ君なら尚更ね」
メア・ミーネス……。
俺はこの子がどれだけ熱を帯びているか知っている。あまり言葉を発することはないが、熱い言葉が大好きで俺達のことを励ましてくれた。それだけではない、チーム内で一番多くの報告をしてくれたり、俺達のことを一番よく見てくれていたのは彼女だった。
本人は気づいてないようだが、前よりも大きな声を張り上げることが少なくなってきており、清楚系の方が強くなってきているのだ。
「そうだな、メアの言う通りだな……」
諦めるにはまだ早い。
諦めるのは最後の試合が終わったそのときにしよう。
「悪い、俺誘拐された!」
第三戦目、激しい建物同士で攻防が続く……。
「スキン的に多分玲菜のチームだ、気をつけて!」
誘拐というのはあるキャラのスキルにワープゲートのような能力がある。そのゲートと今こちら側に出来ているゲートを繋ぐことが出来るものがあるのだ。そして、そのスキルを応用した技である誘拐ワープと呼ばれているものが存在する。
それを使えば、チーム一人を誘拐することができ、一方的に打ちのめすことが出来るのだ。
「奏多君、アーマーはどれだけ削れた?」
「一人は多分、半分以上は削れてると思う。多分すぐにでも来ると思うから気をつけて!」
言葉を完全に聞き取る前に相手はワープゲートを使わず詰めてきた。
「まずいよ相手チーム、能力使って攻めてきている」
「メア建物の中入って!」
玲菜のチームが使ってきたのは『不死の力』と呼ばれている、触れれば二度戦線に出て来れる能力である。最近はこのキャラを見かけないと思ったけど、こうして何度も対峙して分かった。この能力色々と面倒な能力過ぎる。
「ごめん能力封じられた!!」
更にもう一つあるのが、相手の能力を封じる手りゅう弾のようなものだ。
これも中々に厄介でメアが今まで使っていたキャラは偵察用のキャラでスキャンを掛ければ相手の位置が分かるという仕様になっている。それが多少の時間だけとはいえ封じられたとなれば、少し状況的にこちらが不利になる。
「メアあんまり出過ぎないでくれ俺も戦う!」
「ごめん、分かった……!」
建物の外から出て応戦しようとしているメアに対して俺は注意する。
メアはすぐに「ごめん」と言って、建物の中に入る。すると、それとほぼ同時に建物の中に玲菜のチームが入って来ようとしたのを見たため、焼夷手榴弾で応戦しながら俺とメアは撃ち続ける。
「撃退した!」
「ブラックホールを投げる!!」
その報告と共に再び玲菜のチームがやって来ようとする。
俺はそれを確認してから、相手が来るのを待ち構えるようにしてあるものを投げた。
その能力に引き込まれていくように吸われていく……。勿論、壊すことは可能だ。
現に玲菜達が撃つことで破壊しようとしている。しかし、それを逃す訳もなく俺は玲菜を撃ち続ける。それを見てから一緒にメアも撃ち続けたことによって、ダウンする。
「メア一気に畳み掛けるよ!!」
「分かった!!」
残りの二人も一掃するように倒すことに成功する。
すると、通話に入って来る音が聞こえてきた。
「参りました……隷属の契約を是非……」
「いや、まだ一試合あるから諦めないでね!?」
奏多のもっともな発言が飛んでくる。
玲菜は何も言わず、通話から出てその場を去って行った。
「なんだったんだ彼女は……」
「いつものことだよ」
メアと奏多がそんな会話をしているのが聞こえてくる。
「メアは玲菜に対して辛辣だな……」
「当然じゃない?」
なんで辛辣なのかは俺は少し理解していながらも、玲菜が少し来たことにより場は少し柔らいでいた。
「なんかその辛辣な対応興奮するね……」
俺は奏多の言葉に驚愕して何も言えなくなった。なにより、いきなりそんな言葉を聞いてあーやっぱ奏多はそういう変態思考があるんだと考えていた。まあ高校生ぐらいの子だろうし、そういうのに盛んな時期だろうから仕方ない。
「メア、ロウガ?」
メアも奏多の言葉に戸惑ったのか何も言わず黙り込んでいた。
「あ、あのですね……芸人でこういう言い方をするのがあってですね……」
「奏多君まだ産まれてないときのネタだよねそれ……本当に16歳?」
「ふ、二人共……?」
既にチームは10チーム。
奏多も復活しており、既にチームは完全復活していた。このまま順調に行けば上位まで生き残ることが出来るだろう。なのだが、二人はこの通り漫才を始めてしまったのである。
「はぁ!?いいじゃないですか!!昔のお笑い芸人のネタ知ってても何か問題あるんですか!?というかロウガが変なこと言っても無視しないのになんで俺のときだけ無視するんですか!?」
「だってロウガ君は天然で言ってそうだし……。奏多君は……」
「はぁ!?なんですかそれぇ!?」
言われてみれば確かに奏多は無視されていることが多い。
俺はクセになる以外にもメアはいい女だもんなとか清楚な女の子っていい匂いしそうとかラインを飛び越えてるような発言を何度かしていたのだ。メアもその度に「もうロウガ君そんな変なこと言っちゃダメだよ」と言われることがあったりした。
よく考えれば俺もかなり変なことを言っているな……。って冷静に自分が言っていたことを分析している場合じゃない。
「奏多」
「は!?悪い、ロウガ俺としたことが……!」
「まーなんだかんだ残り4チームだし気にしなくてもいいか……」
「可愛いね奏多君」
「だからこの人は……!!」
先ほども言ったがなんだかんだ言い合いしながらも俺たちは4チームまでになっていた。その後は、2位という順位で終わった。しかし、それは言い合いをしていたのが原因ではなくダメージ線の場所が崖下と上の崖となり、崖下は俺たちとなり場所的不利を背負わされ俺たちは敗北した。
「反省会だけど一応ふざけるのはやめておこう……何もなかったとは言えふざけ倒すのはよくないからさ……」
「そうだねごめんねロウガ君……」
「本当にごめんロウガ……」
二人が反省していることだし、これ以上何かを言うのはやめておこう。
「今の順位……2位だって」
一度最下位を取っているのが響いているのはあるかもしれないが、それでもこの高順位をキープ出来てるのはいいことだ。
「さあみんな最終戦行こうぜ」
泣いても笑ってもこれが最後。
待っている先が優勝かそれ以外かはこれで決まるだろう。
「二人共気をつけろ!!被せにきたぞ!!」
あの迷彩柄のスキン、間違いない。
玲菜のチームだ。この大会に被せ禁止というルールはない。このチームが俺たちに被せてきたのは間違いなく俺たちが一位を取ると判断したからだろう。
此処まで俺たちは最下位を取った以外かなり大暴れしていたのだ。しかも、それは玲菜たちが一番近くで見ていた。
「やってくれるじゃねえか……」
数少ない物資での戦いを攻められるこの状況。俺が手に持っているのはハンドガンであった。此処でこの武器、更に単発武器。こいつは中々にきついがやるしかない。
まず一人を見つけた俺は銃を乱射しまくる。
しかし、その場から逃げられ俺は相手を見失う。恐らく建物の中には入ってしまったようだ。
「散り散りになるな、二人共!陣形を整えてくれ!!」
相手の編成を見てないが、敵チームには攻撃特化のキャラがそこにはいた。間違いない、あれは移動速度を向上させる敵キャラ。そこにあの不死のキャラが居れば手はつけれないだろう。
此処で俺が提案するべき選択肢は一つ……。
「三人共一旦撤退するぞ……!!」
あの構成を迎撃するのはかなり時間がかかるし、面倒だ。
俺は撤退の選択肢を取り、その場から離れた。
「誰か一つ聞きたいんだけど、敵の姿を把握してる奴はいるか?」
メアからの報告が上がってくる。
それは一番恐れていた報告であった。このゲームにおいて最も超攻撃的と言われているパーティーが出来上がっていたからだ。もう一人の能力は索敵であったが、その索敵は厄介な物でドローンによる物であり、範囲内にいる限りずっと相手からは見えるのだ。
それだけではない、ドローンによる範囲内攻撃でアーマーが削られ設置できるガス管も破壊されてしまうのだ。
「まさか此処に来て破壊的パーティーで来るとはな……」
ドローンによるアーマー破壊、不死の付与、移動速度の鬼……。この破壊メンツが合わさったのは地獄という他なかった。とにかく、その場から逃げ続け俺たちはなんとか別の場所へ移動できた。
そこは中心部分とも言える場所であり、敵が来やすい場所であった。
此処を拠点として戦おうとしていた。その読みは当たっていた。
ガス拠点と化したこの場所は要塞とも言える場所となっていた。何度も何度もダメージが蓄積した音が聞こえてくる。近くには敵がいるようだ。
「あー二人共これ最悪な場所が最後の位置になるかも」
聞かされた報告は最悪を更に上乗せするものだった。
それは高低差もなく何もない平地が最後の位置になっていたのだ。これは間違いなく銃撃戦がものを言う戦いになる。既にチームは3チームになっており、俺のチームは既に9人ほど倒していた。
「玲菜のチーム来た!来てる!!」
「さっきからかなり暴れてるみたいだな……」
奏多もメアも二人は玲菜のチームを警戒していたようだ。ようやく来たか、鬼殺しチーム……。待っていたよ、どうせ遅かれ早かれこうなるんじゃないかと思っていた。
「使ってる、能力使ってる!!」
まずシールドを削ろうとしてくる。
更に不死の付与が発動された音が聞こえてきて、扉が開く音が聞こえてくる。入ってきたのは中央の扉、左右の小さな扉からであろう。俺たちは上まで後退し、ガスを真ん中の入り口に投げる。ダメージが入っていくのが確認されるが何かがおかしかった。
一人が見当たらなかったのである。
「ロウガ君、後ろから攻めてきてる!!」
「なに!?」
後ろを確認するとそこには移動速度を上げるヴィアスがいた。
いつの間に後ろに回ってきていたのか……!?いつだ、いつから……。いや、考えてみたらこの場所の周りには他のチームが居ない。更に玲菜のチームは玉砕覚悟になっている。
まずい、隙をついて後ろから攻めてきたんだ。
「ごめん二人共……!!」
動揺のあまりに俺はダウンされてしまった。
確殺を狙おうとしていたが、奏多がヴィアスをダウンさせようとするが、二人から囲まれてしまう。
「ごめん、俺もやられた……!!」
万事休すか……いやまだ俺たちのチームにはメアがいる。
既に俺たちは倒されているがメアがまず一人ダウンさせている。それに今のメアには強力な武器を持っている。
「ナイス、メア!!」
胴体にダメージが入った音が聞こえる。メアが持っているのは頭に入れば倒すことができる強力な武器。
それで既に一人を倒しているようで俺は少し期待をしていた。すると、敵二人が攻めてきたのを見てメアがまた一人ダウンさせる。そして、最後に……。
「玲菜倒したよ!!」
最後の一人、ほんのわずか頭を出していた玲菜の姿を見過ごさずにメアは撃ち抜いた。
「ナイス、メア!!」
「最高かよ惚れちゃいそうだよメア!!」
「そういうところだと思うよ……」
長きに渡る玲菜たちとの戦いが此処に終焉を迎えた。
何度も何度も激しい銃撃戦が続き、その度に戦略を練っていた。出来る限り高い位置でというのを忘れずに倒していた。なにより味方が散り散りにならず、報告を忘れないこれを徹底していた。
『最終ラウンド』
残ったのは二チーム……。
それぞれのチームが最後まで小競い合うような戦いばかり続いていた。最終ラウンド、ついにその場所は何もない場所であり戦いのスキルだけがものを言う戦いになっていた。
「二人共一緒のやつ狙って絶対勝つぞ!!」
後は残る一チームだけだ。
俺たちはひたすら撃ち続けた。その勝敗は……。
『勝ったのは、チーム名クセニナール!!』
勝ったのは俺のチームだった。
俺は無我夢中に撃っていた為、何が起きたのかは分からなかった。それでも、目の前の『チャンピオンが決まりました』という文字が表示されていることに俺は驚きが隠せないでいた。まさか本当に勝ってしまうとは思わなかった。俺は今置かれている状況に理解が追いつかなかった。二人が喜んでいる声が聞こえてくる。
「おめでとうメア様!ロウガ様!!奏多……」
「おいなんで俺だけ様付けしてねえんだ!?」
通話に入ってきたのは玲菜だった。
俺たちを称賛する声が聞こえてくる。本当に俺たちは優勝したんだ。俺はようやく喜びの気持ちが心の奥底から湧いてきていた。
「勝ったんだな俺たちが……」
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