第9話 かつての言葉

 俺がゲームに触れたのは小学1年生の頃、父親から買ってもらったモンスターズZが初めてのゲームだった。このゲームはシリーズ初の3Dモデルが導入されたゲームであり、更なる進化も加わったものだった。

 俺は当時6歳でありながら、ゲームに熱中し対戦まで手を広げるようになったのだ。

 当時はあるモンスターが一強と呼ばれることもあったが、そんななかレート戦という修羅場を潜り抜けていった。用いる情報や用いる戦術の全てを用いて……。


 結果、俺のレートは上位勢と遜色ないものとなり子供ながらに上位プレイヤーとしてその名を轟かせた。

 学校から帰ってくれば、家でゲームをするのが日課であった。勿論勉強を忘れることはなかった。忘れてはいないと言うより、俺の場合少し特殊で学校の勉強だけで好成績を余裕で取れるほどの学力を持っていたのだ。

 それは高校生になった今でも変わらなかった。





「ゲームに熱中するなんて馬鹿みたい」


 小学5年生のとき、俺はある日そんなことを言われた。自分の頬が引き攣り、今にもその言葉を投げかけたクラスの奴を睨もうとして居た気がする。俺はその言葉を「退けよ」と言って全く聞こうともしなかった。それでも、俺の耳に耳障りなほどその言葉が響いていた。


「なんだよ……ゲームの熱中することの何処が悪いんだよ」


 家に帰ってきた俺は枕を抱きながら暗い部屋に一人でいた。


 誰にも迷惑を掛けている訳でもない。

 テストだって点を取れてる。それなのに何故自分がこんなことを言われなくちゃいけないんだ、と苛立ちを抑えれそうになかった。


「返信来てる……」


 俺はSNSである人に質問をしていた。

 それはゲームが好きなことって間違っていますか、という質問だった。こんな質問に答えてくれる訳がないだろう、そう思っていた俺は自分が馬鹿らしくなりながらも目を瞑って待っていたのだ。





『ゲームが好きならゲームが好きって誇れ。誰に何を言われても気にするな!あっでも勉強は忘れるな』


 その人は絵文字付きで俺のことを励ましてくれた。

 どうしてだろう、全く顔も本当の名前も知らない人なの何故こんなにも響くと思ってしまうんだろうか。それはきっと俺がこの人のことを心の奥底から尊敬しているからだろう。


『ありがとうございます……』


 俺は立ち上がりゆっくりと目を開いた。その言葉に全てを込めて俺は感謝の言葉を述べていた。


 俺はその次の日からゲームが好きだと言うことを誇るようにした。

 誇れるようになってからは周りに何を言われても気にならないようになった。『そんなこと何が意味あるの?』とか『もっと将来の為になることをした方がいい』とかそんな言葉は散々聞き飽きた。

 俺はあの人からあの言葉を貰ってからずっと自分の心で悩んでいたこと……。


「そんなことって本当に意味があるの?」


 という嘲笑に答えを導き出せた気がしていた。

 そして、俺を更に決定的に変えたものがこれだった。



 俺は額縁に入れてあるあるサインを見つめていた。

 それはかつてある人から俺が貰ったサインだった。ノートの切れ端というなんてちょっとちゃっちいかもしれない。だけどそのサインは俺にとってかけがけのない物となっていたのだ。

 俺はこのサインを貰ってからプロゲーマーになろうと誓った。


「引退……?」


 だけどあるとき俺が尊敬していたあの人は引退した。

 あの人はゲーム実況者だった。二年半という短い期間で期待したいゲーム実況者に常に上位だったし、面倒見のいい気の兄ちゃんという感じだった。辞める理由は仕事に専念したいからという理由だった。


「リアルが忙しいなら仕方ないよな……」


 本当は少し寂しかったしこれからもっと伸びただろう。だから活動を続けて欲しいという気持ちはあった。だけどそんなものは俺のわがままでしかない。俺は自分を無理矢理納得させて自分自身の目標のことを思い出していた。

 


「それに俺はこれから頑張らなきゃな」


 あの人の引退を受け入れて俺は前に進もうとしていた。きっとあの人なら俺に『頑張れ』と背中を押してくれるはずだからだ。なによりあの人のようになりたかった。


「大体プロ達のデータはまとめられたかな」


 プロ達の動きや配信を見て俺もこの人達みたいになろうと研究していた。しかし、俺にはどうしても足りないものがあった。それは経歴がないということだ。今まで色んな小規模な大会やランクやレートで上位勢と張り合って来ていたが、それだけではダメだと俺は考えていた。

 なにか徹底的に証明となるものが必要だろうと俺は考えていた。


 そんなとき、ある大会が目に入った。


「V最強……」


 Vtuberと呼ばれる人達のみが集まる最強を決めるこの大会……。

 こういう大会に優勝すればきっと声が掛かるようになるのではないだろうか、俺は閃いたように自分のイメージにあったVを考え始める。獣人とか、いろいろ考えたけど俺にやっぱり人間が一番分かり易かった。


「この姿ならイケる気がする……!」


 ある程度自分で自分の姿を作り上げる。

 早速、ちょくちょく出ていた大会で貯めたお金やお小遣いを使ってイラストレーターさんやlive2Dを動かせる人に声を掛けた。その人はイラストレーターでありながらVという最近ではよく見かけるようになった形の人だった。ちょっと無口で何考えてるのか分からない人だけど俺はNoAママのことを尊敬している。

 当時は「まだ15なんだ」と凄く驚かれたけど……。


「うん、いいね!」


 半年後、出来上がったものを見て俺は嬉しそうにしていた。

 俺は此処から自分の道を歩み出そうとしていた。あるゲーム実況者の引退は凄く残念なことだったけど、それでも俺はあの人が幸せに生きているならそれで嬉しいと考えていた。それからというものの俺はFPSというジャンルに一点特化でひたすらに練習し続けていた。

 そんなときであった、小規模でありながらもスポンサーがかなり付いている大会を見つけて参加しようとしていた。



「この人、間違いない……」


 大会に参加を決めようと思っていたときであった。あのときあのキル集を見たとき、確信した。



 あの人は間違いなく……。









「そういやチーム名なんだったっけ?」


 俺もそう言えばチーム名を知らなかったことを思い出して確認しに行くと、そこには身に覚えがある名前がチーム名となっていた。


「メア、このネタ好きだな」


 俺達のチーム名は『クセニナール』となっていた。

 ロウガがチーム名のことを託していたのはメアだった。「本当に大丈夫?」と俺は小声でそのときは聞いていたが、やっぱりこうなってしまっていた。まあ、こうなってしまった以上仕方ないかもしれない。

 それにしても本当にこのネタ好きだなメアは……。俺の味があっていいっていうのは完全に無視してたけど。


「変だった?」


 チーム名の名前に全く疑問を思っていないのか、当然の名前でしょみたいな反応をしている。


「いや、変っていうかこれで本当にいいのか?」


「私はこれでいいよ……二人共私の大声クセになってきたんでしょ?」


「俺はなったって一言も言ってないんだけどな……」


 俺の場合、清楚の女の子が大声張り上げるのはなんか良いよねと言っていたのにそのことは完全に忘れているようだ。どうせあれだろ、キッショとか思われてたんだろうなと少し塞ぎ込みそうになっていた。

 ロウガも同じこと言ってたのに……。





 大会当日……。

 第一戦目、俺達は順調の滑り出しをしていた。出来る限り高所からの位置取りを意識して自分たちより下の位置にいる敵を狙って攻撃をしていた。


「二人共、俺の合図で飛び出して!」


 練習中は全員で指示を出し合うような形になっていたが……。しかし、俺が「ロウガの指示の方がいい」と助言をしたこともあって、ロウガは大きな声で指示をするようになっていた。俺とメアは報告をしつつロウガはそれを受けて指揮を考える。そうういうことが多かった。


 それもあってか、ロウガのオーダー……。オーダーとは要は指揮する人のこと。

 オーダー力がかなり上がって来ているのだ。


 今は最終ラウンド……。

 ダメージ線は来ており、これに触れればダメージを受けながら進まなくてはならない。今は最終戦後ろから来ているダメージ線を受けてしまえばこっちのライフはすぐにでも消滅してしまうだろう。既に部隊は俺達ともう一つのチームとなっており、これが最後の戦いとなるだろう。


「行くぞ、二人共……!」


 ロウガの指示の下、遮蔽物から三人が顔を出す。

 メアが先手を打って手りゅう弾を投げていた。既に壊滅している別チームと戦っていたこともあってか、一人はダウンしているこの状況。これを見過ごすほど俺達は甘くはなかった。三人で二人を囲むような状況を作り上げ、一人ずつ一人ずつ着々と倒して行き一人がダウンする。

 そして、もう一人のライフが削られていき……。





『チャンピオンが決まりました』


 『GG』


 『ナイス!』


 『よっしゃあああ!』


 俺はその瞬間、今にも昂りそうな気持ちを抑えれれそうになかった。

 これはまだ初戦だと自分を落ち着かせようとしていたが、それでも落ち着くことができなかったのである。なんと自分の呼吸を整えて歓喜の声を上げる。


「やったなロウガ……!」


「私達最強だな!!!」


 今此処に二人が居ればハイタッチしているところだろう。

 なにより、俺はロウガに伝えなくてはならない言葉があった。


「ロウガ、貴方がオーダーで良かった」


「そういう話は優勝してからにしよう……次も絶対に勝つぞ!」


 ああ、やっぱりだ。

 やっぱりこの感覚だ……。


 この感覚があの人のことを想起させ……あれ?俺泣いているのか?

 ああ、そうか……。




「あの人に再会出来て本当に良かった……」


 ゲーム実況者、坦々……。

 樫川竜弥さんに本当に再会出来て良かった。もし、本当にまた会えることが出来るとしたら俺はあの人に絶対伝えなくてはいけないことがある。

 それは……。




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