第7話 愛情
デビューしてまさかすぐに大会に出る、なんて思わなかったけど頼もしい仲間に恵まれ俺は今日も今日とてゲームをしていたのだが……。
「ふぉおおおお!」
「ふぉおおお!!」
徹夜でゲームをしていた俺達二人……。頭がおかしくなってとうとうパーティーズ語を喋り始めていた。
このパーティーズと言うゲームは様々なミニゲームをクリアしていくゲームとなっているのだ。で、何故こんなことをなっているのかと言うと徹夜明けで頭がおかしくなっているとしか言いようがない。
因みにメアは疲れきって寝てしまっていた。
……それが正解だと思う。
60人が集まった時点で奏多が言葉を発する。
だが、その言葉はずっと謎言語を話しているだけで何を話しているのか視聴者側には分からないだろう。
そして、その言語は俺達に翻訳されて聞こえているのだ。
「60人集まったみたいだ!行くぞ!!」
『ごめん本当に何言ってるのか分からない』
『いつもの配信の後にこれって頭おかしくなりそう』
「邪……行け行け!!」
最初に選ばれたのはゴールまで走り抜けるステージだ。
だが、ただ走り抜けるだけではない。正解の扉を叩いてそれを突破していくと言った形のステージとなっている。しかし、当然その扉を叩こうとするものは多くかなりの人で大行列になっているのだ。
となんだかんだ言ってるうちにゴールをして俺達は第二戦をくぐり抜けることができたのである。
続いては……。表示されたパネルを覚えてそれと同じものが表示されている足場に留まる競技となっている。これは比較的簡単だ、覚えておけばいい話だからな……。
俺は何事もなくこの競技を終えられるかと思ったそのときであった……。
「大丈夫か?ロウガ」
なんと対戦相手の一人が俺のことを押し出そうとしてきたのである。
必死に抵抗するなか、落ちたのは……。
「いっちゃああ!」
「よっしゃああ!!」
『凄い喜んでて草』
『初めて何喋ってるのか理解できた気がする』
勝利の雄たけびを叫ぶようにして、俺は舞い上がっていた。何故か奏多の方が多く叫んでいた。
そう、勝者は俺であった。思わず画面越しにガッツポーズを決めて、まるでもう一位を取れたように喜んでいる自分が居た。
そして、次に始まったのは……。俺が苦手とするものであった。
そう、それは尻尾取りと言われているもの。説明は簡単で、他の人の尻尾を掴んで奪って制限時間内までに維持することが出来れば次の第四戦目に移動できるという仕組みになっているのだが、これがかなり難しく立ち回りが上手い人が多いと中々奪い取るのが至難の業となっているのだ。
「突破出来た、ロウガは?」
どうやら難なく奏多は尻尾を盗んでクリアすることが出来ていた。
「よしっ、これで維持すれば……」
なんとか敵から奪い取ることに成功した尻尾を持って維持しようとするが、当然俺の尻尾を奪い取ろうとしてくる者達は多く居た。それを避けるために俺は風が出ているところから上の階を目指してそのまま……下に向かい振り切ろうと何度もしていた。
しかし、此処で問題が発生する。
「なに!?」
前方からいきなり俺のことを誰かが掴みかかって来たのであった。
それだけならまだ良かった。実際立て直すことは出来たのだから。しかし、一瞬の隙をついて俺の尻尾を掴んできた奴が居たのだ。俺は必死に抵抗しようとしたが、蛆のように他の奴らも集ってきたのだ。そんな状況ではどうすることも出来なく、俺は尻尾を奪われるのであった。
「早く返せ……!」
逃げようとする敵を俺はひたすら追い続ける。
だが此処で問題が発生してしまう。俺が今すべき行動は奪われた尻尾を奪い返すことではない。つまり、どういうことかと言うと取れそうな尻尾を奪い取るべきだったのである。だが、目の前で奪われた尻尾を取り返すのに必死になっている俺は……。そんなことは頭の中から綺麗さっぱり消えていたのだ。
そして、当然この勝負の行く末は……。
「ああ!クソががああ!!」
あっぶねええ、台パンするところだった。
この配信は子供も見ているかもしれないのに台パンなんて出来るわけないだろ……!俺は冷静さを取り戻すために振り上げそうになっていた拳を自分の胸板に置き、叩き始める。まるでゴリラにでもなったような気分になっていた。
「うほほほっ!うほほほほっ!!」
『なんとなくゴリラの真似してる?』
『分かって来たニキも居て草』
『なんか俺もなんとなく分かって来た気がする……』
自分でも何をやっているんだと思わざる負えないほどに馬鹿らしくなっていた。
だが、俺の台パンを見て真似する子どもが居たら色々と大変だ。だからそこだけは回避させてもらう。
「はぁ……眠い」
流石に徹夜明けのゲームは身体に来るな……。
俺は肩をゆっくりと回しながらソファーの上に座り込んだ。
誰かが俺の家の中に居る気がしていた。宅配だろうか。
俺はゆっくりと目を開けると、俺の顔を覗き込むようにして見つめている茶髪のポニーテール女子の姿があった。そして、その女子は俺の手を掴んでいた。
「千里……」
俺の手を掴んでいたのは千里であった。
俺はそれに目をハッとさせて驚きを隠せないでいた。なにより、目の前に居る千里の姿が俺を見て少し悲しそうにしていた。
「竜弥……大丈夫?」
「ああ、大丈夫だけど……。なんで俺の手を握って……」
言葉にしてから俺は気づいた。
何故、千里が俺の手を握っていたのか……。それは間違いなく、俺が悪夢を見ていたからだろう。迷惑を掛けてしまった。俺はすぐさま謝罪しようとしたが、千里は指を口に置き「何も言わなくてもいい」と言い、キッチンに立ち始める。
「ご飯食べるでしょ竜弥?」
「ああ……食べる」
千里の料理は美味い。食べてしまえば舌が肥えてしまうほどだ。
俺は期待しながらもソファーの上から立ち上がり、料理を手伝おうとしていたが「大丈夫だよ」と言われてしまう。
「なんで俺の家分かったんだ……?」
「結衣に教えてもらった。そしたら今は此処に住んでるって」
千里は料理の準備をしながら俺の妹である結衣に家を教えてもらったことを話していた。
そうか、結衣や……母さんは俺が今何処に住んでいるのか知っているもんな……。
「そういえば朝までゲームの配信してたよね?」
「ああ……してたよ」
俺が奏多と一緒に限界ギリギリまでゲームをしていたのは、我慢比べと言ったところだった。結局、奏多が負けて俺もゲームをやめていた。この我慢比べはほぼ定期化しており、最初のうちはメアも参加していたが阿保らしくなったのかあるときを一時に参加するのはやめていた。
眼は充血し、頭は痛くなり睡魔との戦い。こんな戦いに参加するほうが馬鹿だというのもだろう。正直この我慢比べダルくなってきたからやめたいというのが本音だが、なんか負けた感出てくるから言いたくない。全く俺は子供だな。
「ゲームの大会出るってのも聞いた……。凄いね、デビューして早々出るなんて」
「そんな凄くもない……。元々先輩が出る予定だった分のおこぼれを俺が貰えただけだから……」
この機会を貰わなかったら俺はきっと奏多達とも会うことはなかったんだろう。
そう考えると、俺はかなりいい機会を貰えたのかもしれない。
「それでも凄いよ、大会に出れるなんてさ……竜弥の腕の見せどころじゃん」
「そうは言ってもはさ俺より強い人多いんだぞ?」
「そういうのワクワクしないの?」
「俺より強い奴を見てことか……?」
なるほど、確かに考えて見れば俺は対戦相手が居るゲームをやっているときゲームをしているときにワクワクもしながらも対戦相手と競い合っていることにワクワクしていることも多い。あんまり意識したことがなかったが、俺にもその気持ちはあったのだ。
「ああ、あるよ……俺にもその気持ち……。俺の場合、競い合う対戦相手を見てって感じだけど……」
「なら最高じゃん、そういう感情にしてくれる人達が57人も居るんでしょ?」
「ちょっと戦闘狂みたいだな……」
「確かにそうかも」
笑いながら千里が鍋に具材を入れていた。料理のいい匂いがソファーの方までしてくる。
料理をしている千里の後ろ姿を見ながら、俺は戻って来て正解だったと自分の中でホッとしていた。
もし、あのまま千里と何も言わず一言も言葉を交わさなかったら俺は今頃後悔していただろう。自分が今でもゲームが好きだということを理解できなかっただろう。俺はこのVという舞台に戻るまでほぼゲームをしていなかったのだから。何故していなかったのかはもちろん、過去の自分を思い出さないためにだ。
「アタシこれだけは伝えておきたかったんだけど」
「なんだ?」
「竜弥のことめっちゃ応援してるから」
後ろを振り返りながらお玉を持っている千里は、俺のことを微笑んでいた。
その表情を見て俺は透き通ったような空が自分の中で広がっていた気がしていた。
「他の人がどれだけ強いとか知らないけど、アタシは竜弥のこと応援してるから……。だから絶対に……!」
「優勝してね!」
「やっぱり千里と再会して……正解だったな」
本人には絶対聞こえないように小声で俺は片手を頭に置きながら「参ったな……」と笑っているような気がしていた。思わぬ重荷を背負うことになった。だけど、それは嫌と言う訳ではなかった。寧ろ、その重荷は俺を嬉しくするものであったのだから。
「ほら、ごはん食べよ……。長時間配信になるだろうし、いっぱい食べないと」
「ああ……ありがとうな」
テーブルの上には千里特性スタミナ丼が置かれていた。その隣には具だくさんの豚汁があった。
こんだけ食べればきっと体力も活力も回復すること間違いないだろうな、と思いながら俺と千里は「いただきます」と言って食べ始める。
「美味いな……」
一口目から伝わって来る美味しさ……。
食材の良さとかそういものではないと思う。俺は千里の料理を食べるときいつも思ってしまう。この料理はどうやったら再現できるのか?と本人に聞いてもはっきりとした回答が返って来ることがないのはいつものことだ。
「千里なんでこんな美味い料理作れるんだ……?」
改めてもう一度聞いてみることにしてみた。
どうせ、大した答えは返ってこないと思っていたが……。
「愛情……とか」
少しそっぽを向きながら千里が答えて来る。
「だ、大丈夫……?」
思わずむせてしまう。
千里の口からそんな言葉が返って来ると思わなかったからだ。落ちつけ、落ち着け俺。そういう意味じゃないのは俺も分かっているはずだ。千里が言う愛情というのは親友という意味であった。
そういう意味な訳がない。
「あ、あっ……。えっと……変な意味じゃないからね?」
「わ、分かってる……」
千里もそれに気づいたのか、訂正してきたのであった。
良かった、変な意味であると言われたらどうしようかと俺は思っていた。胸の鼓動がかなり強くなっていたし、どうなるかと思った。
「ごめんね、いきなり変なこと言い出して……」
「い、いや……変に勘違いしてた俺が悪いだけだから……」
お互い気まずい空気が続く中、千里は言葉を続けようとしていた。これじゃあまるで俺が変な勘違いしてたみたいになるけど、実際に変な勘違いをしていたから何も言えない。でも、この空気悪くない感じだ。
一瞬だけ、気まずい空気になったとはいえ昔みたいに千里と楽しく話せている。
俺は高校時代の間、千里達と居る間と坦々を名乗っている間が一番楽しかったのだから。
「美味かった、ご馳走様……」
「早かったね、そんなにアタシの料理気になってくれた?」
「ああ、めっちゃ美味かった……。また食べたいかな……」
食事を済ませた後、洗い物は一緒に片付けていた。
千里は俺の隣で鼻歌で『マリーゴールド』を歌いながらも洗い物をしていた。
「また作ってあげようか?」
「いいのか……?千里も色々と負担になるだろ?」
「アタシは全然負担にならないよ。寧ろ、竜弥に会えて嬉しいし……」
俺に会えて嬉しい……。
先ほどの発言もあってか、余計なことを考えてしまうが考えようとするのは今は後だ。
「じゃあ……お願いしてもいいか?」
「うん、任せて……とびっきり美味い料理作って竜弥の舌を肥えさせてあげるから」
「俺二度とラーメン食えなくなるな……」
「そのときはアタシが竜弥にラーメン作ってあげるよ」
千里特製ラーメンもこれまた美味しいだ。普通に店を出せてしまうレベルだからな。あのラーメンがまた食べられるようになると思うと、俺は少し嬉しくなりながらも頬を掻いていた。
「それじゃあまた今度ね」
洗い物を終えて少し俺の家でゆっくりしていた千里は帰ろうとしていた。
俺は玄関で千里が帰るのを見送ろうとしていた。
「竜弥……一つだけ聞いていいかな?」
千里の声がどんどん小さくなっていく……。
辺りは暗くなり、何処か不穏な雰囲気を漂わせていた。
「なんだ?」
「アタシと会わなくなった理由ってアタシが原因じゃないよね……?」
「そんな訳ないだろ」
「そっか……。そうだよね……」
安心した千里はそっと自分の胸に手を当ててホッとしていた。
千里は扉を開けて外を見ていた。
「もう夜だね……」
スマホを見れば既に19時半だと書かれており扉を開けば、そこは夜の景色が広がっていた。
下を見ればきっと、街々が綺麗な光で照らされていただろう。
「竜弥……アタシさ……」
「アタシはあのとき竜弥のことを救い出すことは出来なかったかもしれない。だけど、これからは……!」
「絶対に竜弥の傍を離れたりしないから……!」
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