第6話 いきなりの誘いと出会い
「闇に抱かれて消えろ……!」
何処かで聞いたような中二病な台詞を俺は鏡に向かって叫んでいた。
そして、手のポーズは何処かで見たような中二病のポーズ……。片手の手で片手の手首を押さえて斜めに構える。
「……無いな」
……俺が今何故こんなことをしているのかと言うと、自分のVに何かちょい足しをしてみたいという気持ちがあって俺は中二病になりきっていた。だが、俺の中二病時代は既に終わっている為恥ずかしくなって背中が痒くなっていたところだった。
「やっぱもっとちゃんとしたのじゃないと駄目か……」
じゃあ次は……。
「よっしゃああああ!!こっからが……神無月ロウガのターンじゃああああ!」
より良い仮面にする為に俺は分かりやすくぐらいの虚構を用意した。
元気……元気に明るくそれをモットーにしてみたがこれだと獅童と被ってしまう気がする。
なら駄目だな……。俺はまた一つ没にしていくのであった……。正直、今の俺は……視聴者的にゲームが好きと公言しているラーメン系Vtuber……。そして、なにより恋愛をしたことがないと勝手に思われているV……。
「やっぱり坦々をベースとした方のがいいんだろうか……」
物腰落ち着いた性格だった坦々を基にすれば確かに良い具合になるのは間違いなさそうだ。
なにより、あの頃に近い自分ならまだ演じることは出来るだろう。
「とにかく今の状況を考えれば新しい自分が必要なのは間違いないんだよな、でも神無月ロウガか」
含みがある名前の呼び方をしながらも俺は自分のことを見つめていた。
鏡の前での練習を終えて、俺は顔を拭いていると自分の連絡用のスマホから連絡が来ていた。
「誰だっけこの人……」
知らない人からの連絡に俺は首を傾げながら確認していた。
城崎ハク……?城崎ハク……?そんな人に俺の連絡先を教えた覚えはないのだが……。
「なにかの悪戯か……?」
思わず悪戯を疑ってしまう自分が居た。
念のため、名前で検索を掛けてみると……。
「せ、先輩……!?」
その相手はアイオライト所属一期生の先輩からであった。
まさか先輩から俺宛に連絡が来るとは思ってもいなかった。俺は急いで内容を確認した。
『ロウガ君ってゲーム好き?』
内容は簡単なものであった。
ゲームが好きであることを聞いて来る内容に俺は不思議に思いながらも俺は「はい」と答えた。すると、
返信がすぐに返って来る。
『実はちょっと前にとある大会の出場権を貰ったんだけどね、ちょっとした用事で参加できなくなったんだ。それでロウガ君にどうかな?って思ってね』
出場権を俺に譲渡してくれるのはとても有難かった。
でも一つだけ気になることがあった。
「どうして俺なんですか?」
『ーん?才能ある子に経験を積ませるのは先輩の役目でしょ?それに私は……』
『坦々くんなら絶対に優勝できると信じてるよ』
「!?」
俺と城崎さんの連絡は此処で途絶えた。
俺の過去のことを知っている……!?いや、一期生ともなれば俺の過去を知っていて当然なのかも……しれない。本当はどうして俺のことを知っているのか、聞きたかったがそれよりも今はこの渡された出場権のことを考えていた。
大会の概要を調べた感じ、この大会……。
Vの中で最強を決めるバトロワとなっているようだ。しかも、出場人数は最大の60人。もし、この大会に優勝出来れば注目の的になること間違いないだろう。もちろん、簡単に優勝できるほど甘い大会ではないの間違いないだろう。恐らく実力はプロレベルに匹敵するVも参加しているかもしれない。
だけど、出ないと言う選択肢はない。折角先輩がくれたチャンスなんだ。これを逃せばきっと後悔するだろう。
「はぁ……」
今どうして溜め息を吐いているのかと言うと俺はあることで困っていた。
それは参加すると意気込んだはいいものの、参加メンバーが全く決まっていなかったのだ。カスタム……、所謂練習試合が始まるのは後一ヶ月……。この間にメンバーを探さないといけないのだ。
「こうなりゃ意地でも自分の手で探すか……」
とっとと先輩の力を借りればいい話なのに意地が働いて言い出すことも出来なかった俺はある手段に出ることにしたのだ。
「そういやキル集を上げるのは初めてか……」
坦々だった頃はキル集を上げるなんてことはしたことがなかった。そもそもFPSをメインにして活動などしていなかったからだ。
大会でやることになっているゲーム。アークレジェンズは子供から大人までに人気があるバトロワゲームとなっている。様々な特殊能力、例えば味方や自分の体力を回復させる能力や、相手の位置を確認する能力などがある。結構分かりやすい能力が多く、これも初心者に優しいところなのかもしれない。
「とりあえずこんな感じのキル集でいいと思うが……」
因みにキル集というのはBGMに載せて敵を倒す瞬間を集めた動画のことだ。
何故この動画を上げたのかは分かりすく言えばリーダー権を持っていることをアピールしつつ、自分の実力を見せることが出来るからだ。俺はカップ麺を食べながら少し待っていると、俺の携帯に連絡が来ていた。どうやら早速一人目が俺に連絡してきたようだ。
「あの……初めまして今日はよろしくお願いします……」
「青空奏多先輩ですよね、今日はよろしくお願いします」
今日は顔合わせ……。俺が待っていると、青空奏多が入ってきた。
そう、彼こそが俺に一番最初に連絡をくれたVである。なんでも彼は俺の初配信から見てくれていたようで俺はそれを少しばかり嬉しく思っていた。同業の人にも見られているなんてこの上なく嬉しいことなのだから。
「い、いえ……先輩だなんて俺の方が先にデビューしただけなんで気軽に奏多でいいですよ」
青空奏多……。彼は半年前個人勢Vとして活動を始めた子なのだ。
彼の特徴はFPS特化の配信者ということだ。今流行りのヴァロンを筆頭にアークレジェンズ、古のFPSならばASAを得意としているのだ。
「……いいのか?そんな馴れ馴れしくて呼んでしまって……」
「寧ろ自分は距離感を感じる方がちょっと嫌なんです。だから呼び捨てで構いません」
「……じゃあ奏多も俺のことは呼び捨てでいいよ。後、敬語も禁止な?」
「分かった、それじゃあこれからよろしくロウガ」
こんな感じで俺達の最初の絡みは良い感じのものになっていた。
もう一人の人が来るまで射撃練習場で時間を潰しながら二人で話していると、奏多がこんなことを言っていた。
「やっぱり、あの人に似ているな……」
「なにか言ったか奏多?」
「ああ、いやなんでもないよ」
先ほどの発言が俺には気になっていたが、俺は敢えてそれ以上触れることはしなかった。
「奏多、そっちの敵どうだ?」
「腹が立つことに屈伸運動をしながらこっちを誘って来てる、全く嫌になるよ」
ご丁寧にこっちが覗くたびに屈伸をして来ているようだ。
あいつらおちょくってんな……。
「メアそっちは……そっちはどうでしょうか?」
奏多は同じチームである、メア・ミーネスに話しかけていたがその声は何処かおどおどしていた。それもそのはずだ、そこに居るのは聞いていて心地の良いぐらいの清楚の声であったが、今はほぼ……。
「ぁん!?ああ……こっちは敵居ねえよ!?」
ほぼ怒鳴れているような声で報告されてしまった為、俺も奏多も黙り込んでしまう。
いや……此処で黙り込んでしまっては駄目だ。
「メア……そっちから敵が出て来たらすぐにでも教えて欲しい……」
「了解だ!」
彼女がこんな感じになっているのはゲームが始まってからずっとであった。
ゲームを始める前までは心優しい虫も殺さないような声の持ち主であったが、ゲームを始めた途端人が変わったように声を荒げ始めたのだ。実は俺はそういう人だというのを理解していたし、奏多もそれを理解していた。
だけど、彼女のゲームの実力はかなりのものだし彼女も自分自身を直したいという気持ちがあって俺は誘ったのだが……。
「ロウガ……!こっちの敵一人ダウンさせたよ……!攻めるのなら今だよ……!」
実際大声での報告は有難がったんだが……。奏多は少しビビっている節があるのにも気づいていた為、俺はどうしようかと思っていたのだ。
「二人共ごめんね……まさかこんなことになるなんて……」
ゲーム終了後、メアが俺達に謝っていた。どうやら強い言葉を使い過ぎてしまっていた、と本人は反省していたが俺からすれば……。
「いや、メアはそのままでいいよ……。寧ろ、そっちの方がこっちも身が引き締まって来たし段々クセになって来たって言うか……。なんというか、清楚の女の子が実は口悪いのってなんかその……良いと思うからさ」
自分でも最後の方は何を言っているんだこいつと困惑しながらも言葉を発していた。
これじゃあまるで俺の性癖を暴露しているみたいだな。恥ずかしさと同時に後悔が積もりながらも俺は仕方ない、切り替えて行くかと考えていたが……。
「ロウガ……最後のはちょっとキミの癖が混じってないかい?」
奏多が俺のちょっとした変な発言に乗っかって来たのだ。
「おい、人が割といいことを言おうとしているときに……。とにかく……俺達にはメアの元気さが必要なんだ。それに俺達より数倍の量を報告してくれるから、俺達も助かるし……。だからそのままでいいよ……」
実際戦場と言う名の舞台に立てば、メアは俺達の数倍報告してくれていた。
扉の開け閉めや物資が漁られていることや、そんなことまでと言うぐらい報告してくれてこっちも助かっていたのだ。
「そ、そうなの……?ロウガ君がそういうならいいんだけど……奏多君はどう?」
「ああ……まあ俺もロウガの意見に同意かな……」
「クセになってきたの……?」
何故か俺が言った発言をネタにし始める二人。
えっ……?クセになったってそんな変な発言だったか……。俺は少し自分が言ったことに顔を赤くしていた。
「あー、それは流石にないんだけど……。でもなんか清楚の女の子が実は口悪いのっていいよねって……」
先ほど俺が言ったような言葉が出てきたため、俺は何も言わず無言になる。メアも何も言わず無言になっていた。
絶妙が空気が続くなか、俺が声を出す。
「メア、そろそろ行こうか」
「そ、そうだね……!」
「そうか……メアの大声にちょっとビビってるのかと思ってたけどクセになってきてるなら別に気にする必要はなかったか」
ちょっと笑いながら言うと、奏多がすぐに言葉を投げて来た。
「はぁ!?クセになってるなんて一言も言ってないけど、というかクセになってるって言ったのはそっちじゃん!そっちの方がきわどい発言してるじゃん!というか、俺もロウガと同じこと言ったのに何自分は違いますみたいな顔してるの!?同族じゃん!!なんで俺だけ引かれるような発言したみたいな扱いされなくちゃいけないの!?ちょっと……ちょっと聞いてるの二人共!?あー俺のマイクがミュートになってるじゃんよクソが!!」
「そんだけ元気ならこの戦いもやれそうだな……行くぞメア、奏多!!」
「聞こえてたじゃん!!あーもうなんか調子狂うな!!」
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