第5話 神無月ロウガ
ゲーム実況を始めたのは「お兄ちゃん、そんなにゲーム上手いならゲーム実況者になってみたら?」と俺よりゲームが上手い妹に言われたのが始まりだった。最初は妹に言われて、ノリで始めたと言った感じだった。いつもゲームをしながら頭の中に抱え込んでいることを喋りながらゲーム実況をしていた。最初は数人程度しか見ていてなかったゲーム実況も気づけば……百や千へとなっていた。
「まさかあそこまで大きくなるとは誰も思わなかっただろうな……」
俺はそれを何事かと思っていたが、どうやらSNSでこの実況者面白いよと広めてくれた人が居たらしくて俺のゲーム実況を楽しみにしてくれている視聴者は徐々に増えつつあった。俺はそれに答えようと、次々とゲーム実況を投稿するようになった。
気づけば、ただ勧められてノリで始めたゲーム実況は大きなものになっていったのだ……。
「初めまして、こんろうー!!」
『こんろうー』
『こんろうー!!』
『明るくていいね』
そんなこんなで俺の配信が始まっていた。
不思議と緊張はしていなかった。俺は俺なりのやり方で配信をしていこうと思っていたからだ。その意思を貫き通せば、緊張なんてものを感じるはずもなかった。
因みにこんろうーと言うのは俺の名前『ロウガ』のロウの部分とこんを合わせたものだ。それに気づいたのか視聴者たちもそれに乗っかってくれていた。
ハキハキとした口調で挨拶していると、「明るくていいね」というコメントを見えていた。
俺のこの口調や底抜けた明るさは高校生時代の俺を素体として作り上げている。正直高校時代の自分を演じるのなんてかなり無理があるものだろうと自覚していたが、やってみればあんまり悪いものではなかった。
ただ一つだけ問題があった。
高校時代の自分を演じるということはあのときのことを思い出してしまうのではないのかと心配もあったのだからだ。だけどその心配はすぐにでもかき消された。自虐する訳でもないが、夢でしょっちゅう見せられてるしな……。
「明るくていいね、ありがとう!いやぁ、みんな想像通りの俺だったかな……」
一瞬息を吐いてから言葉を続けていた。
……どうやら想像通りの俺だったという意見が多いようだ。良かった、解釈違いなんて言われることがなくて……。俺は少しホッとしながらも画面越しに映っている頭狼の耳がついていて黒色の尻尾が付いていて、黒色の尻尾が付いており、黒髪に灰色のツートンカラーの青年の姿。そこに黒パーカーのようなものにちょっとダメージ系のズボンという格好であった。
「……なんか俺かっけえな」
動いている自分を見て思わずそんなことを言ってしまう。
本番中だというのに、俺は素でこんな言葉が出てしまっていた。
『ナルシスト……?』
『新人君まさかのナルシストキャラ……!?』
「あっ……いや、俺ナルシストとかじゃないからな?そんな俺の美貌に惚れろとか言わないからな……。俺そんなキャラじゃないし……」
「まさかのナルシストキャラ!?」というコメントを見かけて俺は速攻で否定した。
それに反応してナルシストキャラみたいなことを言うと、「ノッてくれるんだ」という意見が見えていた。そりゃあ言われたらノるしかないだろ。
『ホラーゲーム得意ですか?』
俺の自己紹介文を見てくれたのか、そんなコメントが来ていた。
「ホラーゲーム……かぁ……。やれなくはないんだけど……その……怖い……」
『怖いって言った?』
『可愛い』
『先輩にホラゲーめっちゃ好きな人いるから気をつけて』
俺の声が徐々に小さくなっていった。
怖いという言葉を言ったときには既に掠れたような声でほとんど聞き取れないよう声であったが、聞き取れた人がいたのか「怖いって言った?」と言われた。
「しょ、しょうがないだろ……。ホラー映画とかも怖くて目瞑っちまうんだから……」
俺は少し恥ずかしくなっていた。
二十歳だと言うのに未だにホラーゲーム、ホラー要素があるものに恐怖意識があるのは恥ずかしいのかもしれない。だけど、俺的には怖いものは怖いんだから仕方ないだろという俺は自分を納得させていた。
因みに先輩でホラゲーが好きというのは恐らくそれは餅月セイナ先輩のことを言っているのだろう。あの先輩は笑いながらそういうゲームを勧めてくる先輩だということを知っている。
『恋愛ゲームは得意ですか?』
「恋愛シミュレーション……?あー、いや嫌いじゃないんだけど……」
俺は言葉に困っていた。
なんて答えればいいのか分からなかったからだ。
「距離感が近いことが多くて頭バグるからちょっと……出来ない」
そう別に苦手だからという訳ではない。
ただ距離感近い子が多くて「え?なんでそんなに好意向けてくれるの?」と頭がバグり始めてしまうのだ。ゲーム実況者をやっていた頃、視聴者に勧められて一度やったが手を繋がれた辺りで頭の中から湯気のようなものが湧いてりんごのように顔が真っ赤になって実況どころじゃなくなってしまったことがあった。
それ以来、俺はそういう系統のジャンルが出来なくなってしまった。
『恋愛弱者じゃん』
「あ?恋愛弱者……!?はぁ!?」
触れなくてもいいコメントを見つけてしまって俺は思わず声を荒げてしまった。
さっきまで普通のコメントが流れていたのを見ていたからこそいきなりナイフを突きつけられて俺は今にもキレそうになっていた。
「ふざっけんなよ……!森に居たときだって雌狼は俺のことを変な奴扱いしなかったし……地上に降りて来てからも結構ルックスはいいって言われたんだからな!!」
『ルックスは確かにいいけど今のところじゃ可愛いで落ち着きそう』
『この様子じゃ弄られキャラとして定着しそう』
『一緒かと思った』
落ち着け、落ち着くんだ俺……。
偶々見かけた鋭いナイフのようなコメントに対してキレているようじゃこの先持たない。それに俺はこの神無月ロウガというキャラを明るく笑顔というキャラでやっていくつもりだったはずだった。
なのに、今はどうだろうか……。
「一緒かと思ったって……!?い、一緒にすんな……!つ、付き合ったことぐらいあるからな!」
完全に冷静を失っているし、動揺もしている。
これではもう弄られキャラが確立したようなものだろう。
「ほ、本当だからな!マ・ジ・で一緒にするなよ……!」
それでもコメント欄は俺が異性と付き合ったことがあるのを否定してくる。
なんでだ、なんで俺はそんな否定されるほど付き合ったこと無さそうに見られるんだ。まだ配信始まってから……。
「なんでこんなしょうもないことで配信10分も経ってるんだ……」
俺がコメントばかり読んでいると、配信は既に10分過ぎていることに気づかなかったのである。ちらほらコメント欄で「自己紹介全然してないけど大丈夫?」というコメントを見かけたが、まさかこんなに経っているとは思わなかった。
「あーじゃあ俺の紹介をそろそろしていきたいけど……。まあみんなも紹介文の知っての通り、俺は群れで生活することなく孤高に生きて来たんだ。あっそこ……ぼっちじゃんとか言ったら指噛むからな。それで偶々人間が置いていったスマホを見つけて弄ってたら地上に興味が湧いてそのまま人間界に下りて来たんだ」
「それで地上に降りて来たらVになって見ませんか?といきなり誘われてびっくりしたけどやってみようって思ってさ……。だからその……必要とあらば恋愛シミュも……ホラゲーもやっていこうとは思っている。ほら、今の内に録画しておけよ」
「自分で録画撮っておけと言う人、初めて見た」というコメントを見て、俺は少し鼻で笑いながらも俺は言葉を続ける。
「ちょっと重めな話をするけど、みんな生きてて辛いとかそういうことを思うときとか色々とあると思う。そんなとき何か楽しいことがあればきっと生きてみようって思えると思うんだ。だから、俺はその架け橋になりたい。俺の配信を見て楽しいだとか、笑顔になってくれればそれで嬉しいんだ。最悪、俺みたいな奴でも生きていけるんだなって思ってくれたりしても構わない」
「俺はそのぐらいの責任感で配信をしていきたいと思ってるんだ」
長々と話をした後、正直どんな反応が来るのか不安だった。
俺の言葉が何処まで響くかなんて分からない。何も知らない奴からこんなことを言われても軽いとか言われてしまうかもしれない。俺は少しでも人々を楽しませたいという気持ちがあるからだ。
「ありがとう、なんか元気出た」「あまり気負い過ぎないでね」「滅茶苦茶良い子じゃん……」とそれぞれ色んなコメントが投げかけられていた。俺はその言葉一つ一つにホッとした気持ちが強くなっていた。
良かった、軽いだなんて思われなかった……。
「みんなありがとう、俺自身あまり気負い過ぎないように気を付けるつもりだからそこは安心して欲しい」
「んで……早速なんだけど今日の夜は2回行動しようと思うんだ。もう何をやろうかは決めてあるからもしよければ……いや絶対に後悔はさせないから次の配信も見に来てくれ。絶対楽しませるって保障するから」
「それじゃあ、次の同期の配信に託して俺の配信は終わらせていこうと思う!それじゃあ、またなー!!」
配信終了のボタンを押して、俺は配信を切るのであった。
それからエゴサーチ……。自分の名前をSNSで検索かけたところ、「恋愛弱者って言われて滅茶苦茶動揺してて草」「ちょっと子供っぽく熱いところもあって良いね」「次の配信も楽しみ」と言った意見が飛び交っていた。そこそこの反響もありつつ、俺は次の配信を楽しみにしながらも同期の配信を楽しみにしていた。
そして初配信を終えた俺たちは次に俺のゲーム配信を待ちかねている視聴者たちが多かった。みんな見たいのは俺がどれだけゲームが上手いのかそれと話はどれだけ上手いかを知りたいのだろう。
あまり自惚れるつもりはないが、ゲームの方の腕前はあるゲーム実況者の大会で優勝したことはある為、それなりには強いと自負しているのだ。後は話の方だがこればかりは始めてみないとわからないと言うのが本心だろう。
「こんろうー!!」
始まったゲーム配信。俺が今からやろうとしていたのは人気バトロワゲーム、アークレジェンズであった。このゲームは若い世代から絶対の人気を誇り、大会が何度も開かれるほどであった。ゲーム性は意外と簡単であり、三人一組のチームとなり最後のチームとなるまで戦い続けるゲームなのだ。また、それぞれ兵士には色んな特殊能力が備わっており例えば相手の位置を把握できる能力、味方の前にシールドを貼り相手からの攻撃を守るなど分かりやすい能力が多いのだ。
なにより、このゲームで魅せるなら間違いなくこの武器だよな。
『すごっ……何発も当ててる』
俺がたった今使っていた武器はリボルバー式の武器であり、反動がやや強めの武器なのである。それを自分の腕のように使いこなすとコメント欄では驚きの声が聞こえていた。
「なら次は……こいつだな」
「おっとちょっとだけ体見えちゃってるぞ……!!」
少し壁際から見えていた体を打ち抜く……。
次に選んだのはスナイパーライフルであったが、これまた反動が強くあまり使用している者も少ない武器なのである。それでも長物好きなプレイヤーからは慕われている。
「その距離なら……狙い打つ!!」
マットのような物に触れると、空中に体が浮く……。
空中で事前に把握していた相手の位置に狙撃すると、ダメージが入る。
『これはとんでもない超大型新人が入ってきたんじゃないのか?』
そんなコメントを見て俺は少し嬉しくなっていた。
坦々だったころ、俺の実力をプロ並みと評している人もいたけどそれは過大評価だと俺は思っていた。それでも俺のことを評価してくれていると言うことはとても嬉しかった。
『どうやったらこのゲーム上手くなれますか?』
「うーん……上手くなるの基準がよく分からないけど。まずは訓練場で武器の練習だ。ダミー人形に向かってひたすら打つ練習をする。それを大体10分ぐらい繰り返せばいいかな、その状態になったらさあ本番だ。エイムが吸い寄されるように相手に命中して行くはずだ。あーでも今の吸い寄せられるって言い方滅茶苦茶良くないな、チーターだと思われるかも」
『吸い寄せられちゃダメで草』
『吸い寄せられるは完全にチーターなんよ』
『完全アウトで草』
「まあでも……吸い寄せられるってのは流石に言い過ぎたけど日に日に練習していくことでエイムが向上していくから練習あるのみだ。それで上達したら……」
「いつか同じ戦場に立とうぜ!」
◆
「この人もしかして……竜弥さん?」
綺麗に整えられた部屋のなかでただ一人の少年がロウガのゲーム実況を見つめていた。
それはまるで何かを懐かしむようにして見つめていたのだ。
「まさかこんなところで竜弥さんの声を聴けるなんて……。それに良かった……」
「また活動してくれるようになって……」
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