木漏れ日の下

空き缶文学

木漏れ日の光

 雨が降っていた。

 衣服が濡れてしまい、内側まで浸透する。肌にべったりと布がくっつくのだから、気持ち悪い。

 背負う荷物も重くなり、一歩がどんどん遅くなっていく。


 腹が鳴った。

 しばらく食べていない……大きく口を開けて雨雲を仰いだ。

 ごくり、と喉が動く。

 味なんてどうでもよかったが、気味の悪い、自然界にはない色をしている。

 

 崩れかけの軒先で雨宿りをしている子供と大人がいた。

 こちらを見る目は信じられない、と首を振り、憐れむような眼差しをしていた。

 何かを言っているが、雨の音ではっきりと聞こえない。

 故郷に戻らなければいけない、相手なんかしていられない。

 まだ遠い、遥か先に故郷がある。


 そのうち、雨が止んだ。

 森林を歩く、所々なぎ倒された樹木と、吹き飛んだランフラットタイヤがあった。

 雲が去り、温かい光が差し込んでくる。

 手の平で空を覆う。

 暑さで上着を脱いだ時、服が黒ずんでいることに気付いた。


 木々の隙間から漏れる、カーテン状の光が見えた。

 美しい、神秘的な景色だ。

 ずっと彷徨い歩いて、初めて美しいと感じたことに気付く。

 どうしてか涙が頬をつたう。

 光の溜まりに立ち止まり、眩しい空を仰いだ。

 手の平で太陽を覆う。

 ほんのり、手が透けたように見えた、血が流れている、生きている。

 もうあと少しで故郷に着くことができるだろう。

 だが、どうにも脚が動かない。

 棒になって、これ以上は限界だと訴えている。

 それから、間もなく、口から血が出た。

 歯茎か、吐血か、分からないが、不快感が全身を襲う。

 

 あぁ、木々の隙間から漏れた光の下で、鮮血が輝いている。

 首に巻いたドッグタグを外す。

 私の名前、家族の苗字が刻まれている。

 銀色が太陽に照らされて、美しい。

 ホルスターに収まる自動拳銃は黒く、無骨だ。

 水たまりに映り込んだ、私は、酷い顔をしている。

 人を人と思えぬ残虐性を秘めた目つきから涙をこぼす。

 遊底を後ろに引き、準備はできた……。


 美しい景色の下で、ただ、故郷を想う――。

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