第37話
***
スクープ・ストライプのアトリエは、当面わたしの家の一室となった。ママの紅茶が壁一面に並べられている部屋。家庭科室に比べれば断然、狭いけれど、ミシンを置くことができれば問題ない。
「文化祭での手芸部の売上は、非常に大きなものでした。材料費以外を部費に納入しました。
そして、その部費で新しいミシンを2台購入することになりました。
それで、古い2台は処分することになったのだけれど、三角冬夕、松下雪綺。君たち、迷惑でなければ、それを引き取ってくれないか。粗大ゴミとして処分するには、もったいないのでね」
それって職権乱用なんじゃないかと思ったけれど、わたしたちは、おとなしい猫みたいになって、伊藤先生のその提案を謹んで受け入れた。
「ロックミシンもつけてあげたかったけれどな」
「それは、わたしの自宅にありますので大丈夫です」
そんなわけで、わたしたちのアトリエには職業用のミシン2台とロックミシン1台が鎮座している。
紅茶缶が並ぶ部屋にミシンが備え付けられているのって、めちゃかっこよくない?
新聞記事が出てから、フィルグラのフォロワー数が飛躍的に伸びた。もちろんネットニュースとしても取りあげられたからだと思うけれど、一地方紙なのに、やっぱり新聞てまだまだ大きなメディアなんだな、と思った。
フォロワー数が増えるにしたがって、辛辣なコメント、卑猥なコメントもぐんと増えた。増えたのだけれど、ある一定のところからは伸びなくなった。
冬夕なんかは、言い回しの似通っているところや、時間帯、ユーザーIDなどをチェックして、複垢の何名かを特定したりしていた。それでも、そんな自分を戒めるように冬夕は言う。
「ノイズに気を取られて、大事なコメントを取りこぼさないようにしよう。わたしたちが向き合うべきは、がんを患い、その病いを抱えている患者さんなのだから、本当に真摯にユーザーと向き合わなくてはならない」
新聞記事と前後して、マーサさんからは丁寧な封書の手紙が届いた。
検査の結果、今の時点では、他の箇所へのがんの転移は見つからないこと。ただ、だからといって安心できるものでもないこと。それでも、スプスプのブラをつけると勇気がわく、と言ってくれていること。
そしてその手紙と一緒に、息子の中也くんが描いたわたしたちの似顔絵が入っていた。マーサさんと自撮りした写真を見ながら描いたんだろうと思う。
この手紙の、その文字の、絵の、嬉しい。
言葉に温度があるのなら、わたしは、わたしたちは、温かいもの、熱いものを受け入れようと思う。それは、真摯で切実なものに感じられるから。いつか火傷するくらい強いものが届くかもしれない。それでも、それが受け入れるに値するものなら、受け止めてその気持ちにこたえたいと思う。
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