第35話
***
取材は翌週、家庭科室で行われた。冬夕とわたし、そして伊藤先生がインタビューを受ける。
なぜ、医療用ブラを作るようになったのか。作り方や生地の選定も含めて、細かいところまで取材を受けた。また、この間の文化祭の展示についても質問責めにあった。
展示内容は医療用のブラの変遷、と意気込んでいたけれど、歴史を辿れるほど特別な何かがあるわけではなかった。医療用のブラはやはり機能的であることが第一だった。
それよりもブラジャー自体の歴史が、女性性の抑圧や解放、様々な活動と密接なつながりがあるように思われたので、医療用にこだわらずに、ブラジャーの歴史を展開することにした。
元々は布を合わせたものからのスタートで、やがてコルセットへ変貌する。ブラの歴史を追いかけているうちに、それはジェンダーにつながり、ミソジニーをも呼び込んだ。
展示は最終的にフェミニズムについての解説に集約された。
記者さんは、どうやら文化祭に来ていて、たまたまわたしたちのブースを見つけたらしい。そこでの展示に感心したこと、それ以上にその場の賑わいぶりに驚いて、その足で取材を申し込んだということ。わたしたちはてんやわんやの中にいて、そんなことになっているとはちっとも気づいていなかった。
記者さんの家族に学校関係者がいるみたいだ。もしかしたら自分の子どもが通っているのかな?
質問は多岐に渡る。
いくつかランジェリーブランドをあげられ、そことの差別化はあるのか、というようなことも聞かれた。やはりジェンダーに関することも問いかけられる。
その質問に冬夕はよどみなく答えている。きっと彼女は取材を受ける心構えなんてとっくにできているのだろう。
記者さんも冬夕を中心に問いかける。それでも冬夕の主語はいつでもわたしたちスクープ・ストライプは、からはじめる。
わたしが話したことはといえば、入部のあいさつと同じこと。わたしは母のために作り始めました。
伊藤先生を含めた三人が並ぶ写真もその記者さんがスマートフォンで撮影をした。
思わず、
「写真もスマホなんですね」
とわたしが言うと、
「そう。今はスピードが大事なので、取材の原稿も写真も入稿はこのスマートフォンから行います」
わたしたちの記事が掲載されるのは、日曜版だ。週が始まったばかりだけど、とは言わなかった。せめて一眼のカメラで撮ってよ、と思うのは、高階の撮影姿勢を知ったからだな。ほんとに、全然違うんだよ、って思う。
取材の最後に冬夕が記者さんに伝える。
「記事は、全てお任せします。ただ、どうしても最後の一文に入れて欲しい文章があります」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます