第27話
***
「撮影許可取れた?」
朝の空気に、いくらか涼しさが混ざってきたとはいえ、まだまだ太陽は灼熱の光をアスファルトに注いでいる。
わたしはいつもの場所で冬夕と待ち合わせる。
「うん。ふたつ返事でオーケーだったよ。パパがまあ、ちょっとぐずったけれど」
「そうか、冬夕ママ、美人でスタイル抜群だもんな」
わたしは太陽を仰ぐ。
「ということは、無理だった?」
「条件付き。クライアントとの関係があるのだって」
なるほど、と冬夕がうなずく。
「それも、そうよねえ。やっぱり難しい問題はあるよね。順番を間違ってしまったかもしれない。まずは、文化祭の展示のことをお願いすればよかった。
やっぱりこうしよう。写真は、モデルのバスト部分の切り抜きと商品自体の撮影。それなら身バレすることはないんじゃないかな」
「それなんだけれど、ママが心配しているのは顔を出さないことで、わたしたちがモデルをしてるんじゃないかって思われてしまうこと。
ただでさえ、センシティブなものを扱っているから、心配しすぎることはないでしょうって」
歩きながら冬夕が答える。
「わたしは、わたしがモデルをしたっていいと思っている。前にも言ったと思うけれど、性的なコンテンツをフラットな視点で見ることができるように社会を変えることがわたしの目的のひとつなの。
でもそうだな、雪綺ママの気持ちも汲んで、プロのモデルに頼んでしまった方がいいのかもしれない。わたし自身はもう、プロの意識を持っているから恥ずかしいこととは思っていないよ。だってとても大事なことをしているんだもん。
もちろん、性的なコンテンツとして消費されることには恐怖を感じているけれど」
わたしたちは、朝の通学路では、はっきりとした答えを出すことができず、また放課後、と言ってそれぞれの教室に分かれる。
なかなか前に進まないことをもどかしく感じている。
***
「モデル? ……。知らないってことはないんだけど」
放課後の家庭科室。スプスプのミーティングに高階を呼んでいる。で、谷メイもやっぱりここにいる。
「ほんとう? プロなの?」
「プロかは分かんないんだけれど、一応、聞いてみようか?」
そう言うと高階はコックテイルという動画アプリを起動する。人気のアプリだから、起動音を聞けば誰でも気がつく。どうやらDM機能を使ってメッセージを送っているみたいだ。何度かやりとりしたあと、
「今来てくれるって」
「え? ここに?」
「うん。学校の子だから」
わたしたちは顔を見合わせる。
ほどなくしてやってきたのは、
「あ、エミリーじゃん!」
谷メイが指差す。
エミリーと呼ばれた女の子は、胡散臭そうな視線をメイに投げかける。
「こちらは英美里ちゃん。みんなエミリーって呼んでるから、それでいい?」
「かまわなくてよ。それで、スプスプっていうのはあなたたち?」
冬夕とわたしとメイを順番にじっと見つめる。エミリーって名前にふさわしい背の高い美人。ロングヘアがそのスタイルに決まっている。
「あ、わたしはちがう。こっちのふたり。ウィンターズ」
「ウィンターズ?」
眉をひそめてエミリーがこちらを見る。めっちゃ、プライド高そう。すごい高圧的。
「そう、こっちが三角冬夕。こっちが松下雪綺。フユとユキでウィンターズ!」
サムアップしているメイを無視してエミリーはわたしたちに問いかける。
「わたしにお願いがあるって聞いたんだけれど」
「はい。はじめまして。エミリーちゃん。わたしは三角冬夕です。
お願いというのは、わたしたちのランジェリーブランド、スクープ・ストライプの着衣モデルのことです」
「あなたたちのことは知っている。つくっているのはブラではなかった? わたしにそのブラの着衣モデルをやれっていうの?」
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