第25話

「うん、わかった」

 わかった?

「確かに医療用に集中したほうがいいかもしれない。SNSでのトラブルを避けるという意味でもいいかもしれない。女子高生がブラを作って販売するというのは、今の日本だと、結構リスクがあるように思うから。医療用に絞るなら無用なトラブルを避けることができるかもしれない。モデルをママたちだけに限定できるというのも大きいし」

 うん、とうなずいて冬夕は高階の方を向く。

「ヒーコちゃんにお願いしたいことが決まりました。

 あのね、わたしたち、医療用のブラ、平たく言うと乳がんで乳房を失った人のためにブラをつくっているのだけれど、それって、わたしたちのママのためなんだよね。まだ、ふたりに了承は取れていないのだけれど、彼女たちにモデルになってもらおうと思っている。

 それで、その写真を撮影してもらうことはできるかな?」

「……そうだね。人物撮影か。とても緊張するけれど、うん。いいよ。わたし、これからたくさんの人物を撮影して行きたいと願っているんだ」

「ありがとう。これはビジネスだから、ちゃんと報酬はお支払いします」

「……報酬。報酬か」

 高階が沈黙する。エアコンの音が低くうなっている。

 なんどか口をひらいてはつぐむ。静かに漏れる息が足元にたまってゆく。

「わたし、お金のことって苦手だな」

 眉を困らせて、高階が口を開く。

「わたしの方はまだ、仕事としては受けたくないみたい」

 そう、とつぶやき、冬夕はまた思案をはじめる。

「うーん、それなら現物支給はどう?」

「現物支給? それってブラのこと?」

「うん、もちろん」

 一瞬、高階の瞳がくるっとまたたくように閃く。

「あー、やば。それ、やばい。なんだかどきどきするね。スプスプのブラでしょう? めっちゃ自慢したくなっちゃうじゃん!」

「それじゃ、露出狂じゃん!」

「誰が見せるの! メイちゃん、発想がエロすぎ」

 じゃれあうふたりを見つめながら、わたしは、心の底に驚きがあるのを感じている。スプスプのブラ、もちろん自信を持ってつくっているけれど、そんなに特別?

 わたしは冬夕を見る。冬夕はわたしの視線に気づいてうなずく。

「自慢、できるよ」

 そう言って微笑む。

 そうか。そういう自信を持ってもいいのか。それならなおさら品質の高いものをつくらなくてはいけない。素敵なものをわたしはつくることができるだろうか。家族以外に届けても、それは、掛け値なしに素敵と言ってもらえるものになるだろうか。

「あ、いけない。ふたりにまだわたしの写真を見てもらってなかった。本当にわたしでいいのかな?」

 早速フィルグラで高階をフォローする。現れる彼女の写真にわたしたちは息をのむ。

「最高すぎる」

 ふわりと飛び立とうとしている蝶の写真。構図もさることながら、その色合いが独特だ。

「これ、ヒーコカラーだね」

「あ、嬉しい。わたし、とても色づくりにこだわっているから」

 写真は、完璧。あとはモデルを探さなくちゃ。

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