第13話
「……あの、なんていうか、乳首がね、こう、はっきり見えちゃうんだよね。ブラ着けなければやっぱりそれが目立って恥ずかしい。でもスポーツブラでも、わたしには大きいくらいなんだよね。それで、さらしを巻いていたこともあるんだけれど、陸上やってて汗をかくから、その時、それが透けて見えたことがあって、だいぶ冷やかされたんだよね。だからやっぱりブラが欲しいな、と思って……」
彼女は、細い声になって、はにかんではいるけれど、恥ずかしそうにうつむいている。
「まどかちゃん、思い切って相談をしてくれてありがとう。あなたの期待に添うブラをぜひ作りたいと思います。ちなみに、ショーツの方も用意できるんだけれど、それはどうかな?」
そう冬夕が答えると、顔をあげ、ぱっと明るい表情を見せてくれる。
「あ、それ嬉しいかも。ちぐはぐな下着つけているとなんだか走るフォームが乱れる気がするんだよね」
「あ、それ分かる」
陸上って、少ない道具で勝負ができる反面、靴はもちろん、身につけるものひとつで大きく結果も変わってしまう。下着を揃えたい気持ち、すごくよく分かる。
「あと、ブルーデー、生理用のも一緒に作れるけど、そっちはどうかな?」
「あー、それは大丈夫。大丈夫っていうか、わたし、まだ生理来ていないんだよね」
えっ、と思い、わたしたちは顔を見合わせる。
「高校生で生理ないのってやばいかなーと思っているんだけれど、練習きついせいかもしれないし、ま、コンディション崩れにくいだろうから、ラッキー、くらいに思っているんだけれど」
彼女は、またはにかんでうつむく。
「そう、なんだ。まどかちゃん、教えてくれてありがとう。でも、ちょっと気になるから婦人科には行った方がいいと思うよ」
「うん、来年、引退したら、というかそれまで生理が来なかったら行くつもり」
あくまで陸上優先なんだな。
「ブラとショーツは夏休み中に作ることができると思うよ。次の部活はいつ?」
「来週です」
「じゃあ、その時に採寸させてもらっていいかな? 来週のこの時間にここに来てもらえる?」
「了解です。ありがと!」
小笠原まどかは、そう言って、小走りに練習に戻っていった。彼女は、髪も短いし、ボーイッシュな感じではあるけれど、それは生理が来ていないせいでもあるのかな。
冬夕は、あごに指を当てて、何やら思案中だ。
「ちょっと、気になるよね」
「そうだね」
でも、と言いながら今度は鼻先に指を当てて話をする冬夕。
「わたしたちが体の不思議をわかるはずはないので、まずは上下揃いのデザインを考えようか」
わたしは、黙ってうなずく。
今回は胸のない子のデザインか。それなら、医療用のブラの型紙を活かせるかもしれない。パットを入れる部分を平たくして、水着に近い感覚で作るのがいいかもしれない。
わたしは、デザインを考えながら、ふと思ったことを口にする。
「今回は、なしになったけれど、サニタリー用のショーツもセットにするとしたら、価格、かなり高くなっちゃうよね」
うーん、そうなんだよね、と冬夕は困った表情になる。
「そこが一番の問題なんだよね。わたしたちのような高校生でも気軽に買えるブランドを目指したいのだけれど、そうすると手づくりで全部を揃えるのは、だんだん難しくなってくると思うんだよね。
ショップを開設するのにあたって、少し調べてみているんだけれど、あんまり安くしちゃうのは、よくないみたい。自転車操業になってしまって結局続けられなくなっちゃう。
わたしね、雪綺とずっといっしょにスプスプを続けたいんだ」
冬夕は、指を組んで、どうしよう、と言いながら伸びをする。制服のおなかがあいて、キャミソールの布地が見える。
「あ! 雪綺のエッチ!」
「なんだよ。冬夕が勝手に露出したんじゃんか!」
すると、冬夕は伏し目がちになり、つぶやく。
「……。だって、これウォーマーなんだもん」
「そっか。やっぱ、冷えるとおなか痛むよね。それにキャミだと思った」
「うん。キャミソールの上に巻いてるの。下にするとごわごわしておなかがふくれてみえるから」
「腹巻きだもんね」
「だから、腹巻きって言うなー!」
その時、いきなりドアが開けられる。わたしたちはとっさにドアの方を向く。
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