第12話

 冬夕のプレゼンは続く。

「そして、このようにQOLをあげるブラを作り続けるわけですが、どうもなにか足りないと思いませんか?」

 足りないもの? なんだろう。

「おしゃれに必要なものです。雪綺さん。着替えをしながら気をつけることはないですか?」

「おしゃれ? 着替え? うーん、なんだろう、シルエットとか」

 冬夕が、ノンノンとペンを振る。

「ブー。違います。シルエットはすでに考えてありますよね。それ以外の大事なもの。それはこちらです」

 そう言って、冬夕が映し出したのは、ショーツ! ブラとお揃いのカラーリング。

 なるほど!

「そう、おしゃれに必要なのはコーディネートです。だから、かわいいショーツも用意するべきですね。これがわたしたちに与えられているふたつめの課題です。もちろんそれだけでも十分素敵なラインナップになると思うのですが」

 ラップトップの画面が暗転し、そしてone more thing......という文字が現れる。

「スプスプは、その先の提案をしたいと思います」

 その声に合わせて映し出されるのは、さっきと同じショーツ。え、同じじゃん。

 冬夕は、まあまあ、というように手のひらでわたしを制する。

「同じように見えるこのショーツ。実は同じように見えるということが大事なアイテムなんです」

 そしてくるっと写真が後ろを向く。

 ああ!

「そう、このショーツは、ブルーデイズ、つまり生理用のショーツです。今は、ナプキン不要のサニタリーショーツもあるようなのですが、さすがにわたしたちにそれを作る技術はまだありません。ですので、なるべくナプキンが目立たないように、羽根を内側に仕舞うことができるショーツを作りたいと思います。やっぱりブラとお揃いにしたいじゃない? ブルーデーならなおさら気持ちをあげたいじゃない? そんなわたしたちの声を形にしたアイテムをスプスプは用意します!」

 わたしは思わず拍手していた。


 冬夕は普段、おっとりした感じなんだけれど、いざとなるとよどみなく人前で話すことができる。中学の時からスピーチコンテストの常連で、賞を何度も獲得している。

「なるほどねえ。これはちょっと欲しいアイテムだよね」

「うん、どうかな?」

 冬夕はラップトップの画面を閉じながら、わたしに尋ねる。

「もちろん賛成。できるだけナプキンを感じさせないようにしたいよね。タンポン、わたしちょっと怖いし、ナプキンがごわごわしないなら、それが一番かなあ」

 わたしが、そう答えた時に、

 コンコン。

 ドアがノックされる。

「どうぞ!」

 カラカラとドアが少し開かれ、そこから ショートカットの女の子がくいっと顔をのぞかせる。

「おじゃましまーす。こんにちは。あなたたちがスプスプのふたり?」

「はい! そうです」

 小柄な女の子が教室に入ってくる。丁寧に扉を閉め、振り返ると

「わたし、小笠原まどかって言います。メイちゃんの友達です」

 そう挨拶をする。

 谷メイの友達か。あいつ本当にわたしたちのこと宣伝してくれているんだな。

「わたしは三角冬夕」

「わたしは松下雪綺」

 ふゆちゃん、ゆきちゃん。わたしたちのことをそれぞれ指差して覚えようとしている。

「わたし陸上部で、今は休憩中を抜け出してきているんだけど、ふたりにお願いがあってやって来ました」

 小笠原まどかはとてもスレンダーな体型だ。わたしも以前、陸上をやっていたから、その身のこなしに覚えがある。きっと彼女は長距離走者だろう。

「わたし、ブラなんていらないくらいに胸がペタンコなんだけれど、でも、なんだろ、あの、変な話なんだけど……」

 顔を赤くして、言いよどんでいる。私たちは、無理にうながすことなく、言葉を待つ。

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