第2話

 メイはうつむいて、うなずきながら答える。

「うん。ウィンターズの考えることは、すごいよ。あたし、素直に尊敬するよ。それは君たちのお母さんのためにしていることなんでしょう?」

 わたしは冬夕と目配せをする。冬夕が口角をあげて笑顔をつくる。

 わたしはうなずいてから、メイに向かって答える。

「最初はそうだった。もちろん、今だってママたちのために作るよ。だけど、もうそれだけじゃない。みんなにやさしいブラを作りたいと考え始めたんだ。だからスクープ・ストライプを立ち上げる」

「めちゃ、かっこいいな。スクープ・ストライプ、スクスト?」

「うーん、わたしたちはスプスプって呼んでいるよ」

 冬夕が答える。

「かわいい。スプスプ、いいね。あたし、張りきって宣伝しちゃう。で、そしたらあたしのブラも作ってよ」

「お、モデルになる?」

「あー。あたし、胸には、ちょっと、自信ないかな。へへ。ぺったんこだしなー」

「わたしもそう。でも、それじゃいけない? 胸がある人もない人も、失った人も、みんなおしゃれできるようにするのが夢なんだ」

「わたしたちスプスプのね」


 メイはサムアップして家庭科室を出てゆく。わたしたちは互いに目配せして、ふう、と息をつく。

「あ、そうだ」

 冬夕が両手を合わせて、忘れてた、と言って、かたわらのバッグの中から何やら取り出す。

「これね、作ってみたの」

「あ、これ、スプスプのロゴマーク?」

「そう、刺繍してみたんだけどどうかな?」

 それは、Scoop Stripeの文字がオレンジとブルーの糸でしましまに刺繍されている三角形の布だった。なんだか懐かしい気持ちになる。

「こういうの、ペナントって言うんだって。おじいちゃんの家にいっぱい飾ってあってね、かわいいなあと思って作ってみたんだ」

 わたしも見たことあったかな?

 この三角形の旗をなびかせて、海に出発する光景が浮かぶ。

「船で海に出るみたいだ」

 わたしは素直にそれを伝えた。

「スプスプ号、出航!」

 わたしたちは、またグータッチをする。


 ミシンの音がやみ、静かになった家庭科室にエアコンの音が低くうなっている。

 コンコン……。

 ミシンを片付けていると、控えめなノックの音が聞こえる。わたしたちは目配せをしたあと、

「どうぞ」

 と、声をかける。

 ガラガラと引き戸を引いて入ってきたのは杉本さとみ。谷メイのクラスメイトで、冬夕の去年のクラスメイト。

「さとみちゃん。ハロー」

 冬夕が声をかけると、腰のところで小さく手を振って

「ハロー、冬夕ちゃん」

 はにかみながら入ってくる。

「あの、ね。さっきメイちゃんに会ったのね。そしたら、なんだかすごいことをふたりがはじめるって聞いて。それで、相談があってきたんだ」

 谷メイ、何をしゃべっているんだ?

「なあに、さとみちゃん」

「うん、わたし、あの、胸がね……」

 わたしはすっと彼女の胸元に視線をおく。ふくよかな胸。何か病気とかのトラブルがある?

「胸が、大きくて困ってるの」

「ふうん。からかわれる?」

「それもあるし、えっと、痴漢される」

「は? どこで!」

 わたしはいきり立って、立ち上がる。

「うん。自転車に乗っているとね、後ろからきた自転車の人とか、バイクの人とかに追い抜きざまに胸を掴まれるんだよね」

「許せない! それって警察案件でしょ」

「うん。そうなんだけどね。もう、そうされたら、怖くって声も出なくなってしまうの。それで、相談があるんだ」

 わたしたちは、椅子を引き出して彼女を座らせる。

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