第15話 変化:3 (2/2)

 ――そして、あれから月日が経った。


 あの日以来一緒に帰ることはなかったが、教室で少しの言葉を交わすようになった。と言っても私が一方的に話しかけて、淡々とした相槌が返ってくるだけだけど。それでも私は一日中幸せな気持ちになれた。



 でも、最近気になる事がある。



 あの日を境に、榊原君の顔や手に小さい傷が目立ち始めたのだ。まるで猫に引っ掻かれたり噛まれたりしているかのような。やっぱり猫を飼っているのかな。飼っていたとしたら、きっとあの土砂降りの日に助けた猫だろう。結構やんちゃな子みたい。いつもクールな榊原君は、家では翻弄されているのだろうか。戯れあってる一人と一匹を想像すると、キュンとくる。


 ……猫といえば。

 最近、猫の変死体がよく発見されるそうだ。どれも人の手が加えられた痕跡があるらしく、悪質だと静かに騒がれるようになった。

 私も最低だと思う。早く犯人が見つかれば良いなぁ。


 あの時私達が見た変死体は、次の日には跡形もなく無くなっていた。

 お母さんに話してみると、近所の人が保健所に連絡をしていたらしい。それなりに噂になっていたようで、榊原君と別れた間もなく、回収されたみたい。それを榊原君に話すと「だろうね」と興味が無い様子でポソリと言った。



 榊原君とは大きな進展こそ無いけれど、少しの言葉を交わすだけで、日に日に彼への想いが大きくなる。


 淡々と話す彼は、時折同じ世界にいるのだろうかと疑わしくなるくらい、遠く寂しい目をする時があった。

 そして、まるで何も知らない、ひどく幼い子どもを彷彿とさせるような質問をしてくることもあった。知識面ではなく、もっと人として根本的な……、うーん、うまく言葉にできない。幼い子ども特有の、純粋さと残酷さを一緒に押し込めたような、不思議な感性……。あの日、猫の死体を見た時も、私の可哀想という感情に疑問を抱いていたようだったし。

 それ以外にも、例えば連日の猫騒動について私が「でももし本当に人がやっているのなら、なんでそんなことをするんだろう。猫ってあんなに可愛いのに」と話したことがある。それに対して、彼は「可愛いと、できないの?」と返してきた。私が驚いた顔をしていたのか「できないのか」と一人で納得していたけれど。


 そのような彼と会話を繰り返しているうちに、なぜだか、彼のそばにいたいと強く思うようになっていった。彼にとっては大きなお世話なのだろうけど、むしろ"そばにいなければ"とすら思う。

 母性本能というものなのだろうか。

 ぶっきらぼうで淡々としていて冷静な彼が、時々抜けたような質問をする。

 ここには居場所がないと言わんばかりに、遠い目を外に向けていたりする。



 彼にどこか、脆さ……危うさを感じる。





 私が彼の隙間を、

 埋めることはできないだろうか。





 ……なーんて。

 隙間だなんて、そもそもないのかもしれないけれど。

 榊原君も、こんなふうに勝手に思われて、失礼しちゃうよね。きっと。




 とは言え、彼に寄せる想いを胸に押し込めるのが限界にきていた。もう十二月に入ってしまったし、このまま冬休みに突入してしまうのは嫌だ。



 告白したい。

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