第14話 変化:3 (1/2)

 なんでそんなことを聞くのだろう……。私は一瞬疑問に思ったが、あまり深く考えずに「可哀相だと思う」と答えた。榊原君は死体から私に視線を移す。


 ――なんで?


 榊原君は、確かにそう言った。

 彼の目を見る。澄んでいて綺麗な瞳。純粋に、素直に、疑問に感じているようだった。

 でも私には意味が分からなかった。何故榊原君は疑問に感じるのだろう。榊原君はこの猫が可哀相だと思わないのだろうか。


「なんでって……。

 この猫、殺されたんだよ?多分。

 事故ならまだしも、人に殺されちゃうなんて……」


「それは可哀相なんだ」


「可哀相だよ。

 その人が殺さなければ、この猫は今も元気に生きてたはずなのに……」


「……」


 話しているうちに何だか悲しくなってきた。目に熱を感じ、じんわりと視界が涙で歪む。

 勇気を出して、死体を見た。本当は目を背けてしまいたかったけど、背けてはいけない気がした。この子はどんな理由で殺されたんだろう。どんな理由であろうと、こんなこと、許されない。



「誰がどんな理由でやったのかは知らないけど……。

 同じ人として、考えられないよ」



 榊原君は私から視線を死体に移すと「そうだね」と言った。視線の先は死体のはずなのに、何処か遠くを見ているような、そんな目をしていた。


「じゃあ、帰ろうか」


 不意に、榊原君は私を見て言った。もっと一緒にいたかったけれど、これ以上振り回すわけにはいかない。


「あ、ここまででいいよ。

 ありがとう。嬉しかった。」


 笑顔で言った私に対し、榊原君は無表情で「ふーん、そ」とだけ呟くと、来た道を振り返り歩き出してしまった。


 素っ気無いなぁ……。

 そう思いながらも、自分の顔が自然と笑顔になるのがわかった。また、榊原君に一歩近付けたような気がする。


 私は浮かれた足取りで家路を歩いた。

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