第16話 変化:4 (1/7)

 あれから毎日のように猫を殺した。夜の寒さが一段と進んだ気がするが、それでも野良猫の数が減り、見つけるのに苦労するということは無かった。殺しているのは俺自身だが、他の人間だって間接的に猫を殺しているじゃないかと思う。

 衝動を猫にぶつけ家に帰った後でも興奮が治まらず、自己処理した事もあった。

 しかし足りない。

 最近は、猫だけじゃ足りなくなってきている。

 もっと快感の先を見てみたい。全身に電流が走るような、頭の中が真っ白になるような、そんな快感……。猫なんかじゃなくて、もっと…。



 そう、例えば、人間とか。



 何度も人間を開こうと思った。小学校低学年の子供の頭を金槌で殴って締め殺す。そんなことをいつも想像していたし、行動に移すのは簡単だった。


 簡単な"はず"だったんだ。


 それでも実際に行動に移そうと金槌を握ると北村が頭を過った。

 最近、異様に話しかけてくる女子生徒。と言っても大した会話しているわけでもなく、思い出そうにも記憶に残っていないほどの意味のない話を繰り返していた。

 そして、その会話の中では嫌でもあいつと……普通の人間と俺との違いを突きつけられることも多々あった。倫理観の違いが言葉の節々から漏れ、やはり俺はズレているのだろうかと再認識する。

 その違和感はあいつも感じているだろうに、盛り上がりもしない短い会話を積み上げて、何が楽しいのか。それでも性懲りも無くほぼ毎日、笑顔で俺に話しかけては去り際に「話してくれてありがとう」と言った。


 そんな北村が、作品を見て悲しそうに目を潤わせ、「可哀相」と話していた。その時は偽善者はこう言うのかと思った。

 でも、泣きそうなあいつを思い出すと何故だか金槌を置いてしまう。自分の事なのに、そんな自分がわからなかった。



 だから毎日猫で留めていた。今夜も作品を造るために支度をする。パーカーのポケットに父さんの工具箱から拝借した金槌を入れた。

 今日は猫の頭を叩き潰そう。どれだけ殴ったらペチャンコになるだろう。


 すっかり冷え込んだ外へ出た。

 今日も親は帰ってこない。何故、あいつらは結婚したのだろうか。今の状態からすると、お互い身体の関係でしかなかっただろうに。母さんに限っては、父さんの金目的もあっただろう。本当にそれだけなのに、なんで……。





 ――なんで母さんと父さんは結婚したの?――




 ――それはね……――





 ……――あぁ。そうだ。そうだった。

 思い出した。思い出したよ。

 そうか。あいつら……。



 まぁ、別に良いけど。



 ふと、俺は自分の両手が赤く染まっていることに気付いた。片手には赤い液体でベタベタになった金槌が握られている。呼吸が上がっている。汗をかいている。下を見ると頭がぐちゃぐちゃになっている猫。白い毛が真っ赤に染まっていて綺麗だ。


 ……え、……あれ。いつの間に。

 駄目だな。集中力が足りなくなってきた。初めの頃はこんな事なかったのに。やっぱり飽きてきたのかな。


 そう考えていると、いきなり脳裏に人間の死体が浮かんだ。生首の、青白い子供の死体。全身に甘い痺れがゾクゾクと広がった。



 ……だめだ、やばい。

 本当に殺したい。

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