第10話 変化:1 (2/3)

 榊原君は「ふーん」とだけ返すと視線を下ろし、本を開くとまた読み始めてしまった。チャイムも鳴ってしまったし、私は自分の席に戻る。

 教室に間も無く担任の先生が入って来て、朝の連絡を告げた。担任と国語の教師が入れ違いになり、授業が始まる。


 私は、猫の死体と榊原君の事が頭から離れなかった。


 なぜ榊原君はあそこまで冷静に返事が出来るのだろう。口にカッターナイフが刺さっていたということは、あれは事故じゃない。

 人が故意にやったんだ。

 そんなこと、榊原君だってわかるはず。なのに「ふーん」って……。



 彼の意外な冷たさに私は戸惑っていた。

 ……それでも、好きな事には変わりがない。今だってほら、もう榊原君と喋っていないのに、……まだドキドキしてる。


 そんなことを考えていると、先生にあてられた。なんでこうもタイミングが悪いのだろう。私は堂々と「わかりません」と言った。友達に笑われた。





 ……――学校生活も一通り終わり、帰り支度をする。その時に彩花と千夏に「今日、一緒に帰れないや。ごめんね」と言っておき、理由も話しておいた。それを聞いて二人は最初驚いた顔をしていたが、すぐに満面の笑みになると「頑張れ!」と言ってくれた。本当に良い友達を持ったと思う。


 先生と別れの挨拶をすると、皆は続々と教室から出て行く。皆がドアに集まるのでなかなか近付けない。


「榊原君!」


 私は、教室から出て行きそうになった榊原君をようやく掴まえることが出来た。


「……また北村か」


 彼は振り返ると、私を見るなり眉間に皺を寄せ呟くように言った。そのあからさまな反応に心臓を針で刺されたような痛みが走ったが、初めて名前を呼んでもらえた嬉しさもあり、複雑な気持ちになる。


「あ……う。ごめん……。

 また北村です」


「で、何の用」


「……一緒に帰っちゃ……だめ?」


 勇気を絞り出すように肩にかけた鞄の持ち手を握りしめ、恐る恐る言ってみる。足が震えてるの、バレませんように。

 彼はじっと私を見据えると何も言わずに無表情のまま振り向き、スタスタと廊下を歩いて行ってしまった。


「……え、……えぇ!?

 さ、榊原君!?」


 返事くらいしてよ!

 私は小走りで榊原君の後を追った。

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